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43.オペラ「フィガロの結婚」より 恋とはどういうものかしら(モーツァルト)

 初詣の人ごみの中に気になる二人を見つけた。


「なんだか見覚えのあるカップルだなー」

 秋良は少し前を歩く二人を見て言った。

「そうですねー」

 朱音も答える。

「声かけますか」

「でも、お邪魔じゃないかしら、あんなに」

「イチャイチャしてるねー」

「お参りが終わったら声かけようか。さすがに混んでるし」

「そうね」

 秋良と朱音は並んでお参りを済ませた。

「何をお願いしたの」

「無病息災、みんなの健康。朱音は?」

「私も一緒」

「やっぱり健康が一番だよね。あ、一貴たちあそこにいるよ」


 二人は人ごみをかき分けて、二人の後ろに行くと肩をポンポンとたたいた。

「よう、一貴。あけおめ」

「碧ちゃん。明けましておめでとうございます」

 二人は驚いた顔で振り返る。

(あれ、なんか雰囲気が)

「偶然、偶然。ご一緒しても?」

「おー。もちろん」

「もう3日なのにまだ人が多いな」

 秋良が周りを見渡しながら言った。

「有名な神社だからな、しょうがないよ。甘酒飲もうか?」

「いいね。ちょっと寒かった」


「秋良、気づいてる?」

 朱音が耳打ちしてきた。

「何?」

「二人、おそろいの指輪してる」

「ほんと?」

 秋良は仲良さそうに甘酒を飲んでいる二人の手を確認した。

「二人、進展したんだ。よかった。気になってたんだ」

「じれったかったね」

「それは俺たちも言われてたけどね」


「一貴、おめでとう。やったな」

 秋良はお祝いの声をかけた。

 碧はみるみる真っ赤になる。

「よかったね、碧ちゃん」

「はい」

 碧らしからぬ小さな声で返事をした。

「あれ? 碧ちゃん性格変わった?」

 碧は真っ赤な顔をフルフルと左右に振った。

「きゃー碧ちゃんがかわいい」

「朱音、からかわない。恥ずかしがってる」

「あ、ごめんなさい。嬉しくってつい」

「いいんです」

 碧は視線をそらして甘酒をこくりと飲んだ。

「なんだか、良い所をお邪魔しちゃったみたい。ごめんね」

 朱音の方が恐縮し始めた。

「そんなこと……」

「じゃ、じゃあ、俺たちはここで、また大学で会おう」

 秋良は甘酒を飲み干したタイミングで言った。

「ああ、またな」

「碧ちゃん、またね」

「はい、また」


            ◆


「ただいまー」

 秋良が帰ると、キッチンからきゃあきゃあと賑やかな声が聞こえてくる。

 覗いてみると、朱音と碧がキッチンで調理をしていた。

「あれ?」

「お邪魔してまーす」

「碧ちゃんがね、料理を教えてほしいって、だから一緒に作ってたの」

「へー」

「彼に作ってあげたいんだって」

「朱音先輩は料理が上手だって聞いて、教わりたいなーって思って」

「一貴は来てないの?」

「彼には秘密です」

「ねー」

「おうおう、一貴、果報者だ」

「あなたもでしょ?」

「はい」

 そこは否定しようがない。

「でも、出雲が家に来て、朱音と料理する日が来るとは」

「人生何が起こるか分かりませんねぇ。碧ちゃんが料理に目覚めるとは、わしは嬉しいぞよ」

「誰?」

 碧は二人のやり取りを聞きながら、プーっと噴き出して笑っている。

「なんだか碧ちゃん雰囲気変わったわね」

「そうそう、そういえばこの間声をかけた時驚いてなかった?」

「あ、あれは……。彼の家から一緒に来てたので……あのタイミングで見つかるとは思っていなくて。なんだか恥ずかしかったんです」

 秋良と朱音は顔を見合わせた。

「私、今幸せなんです」

 碧が話を続けた。

「ずっと不安だったんです。彼が卒業するからもうお別れになるのかなって。でも、クリスマスに彼がこれからも一緒に居て欲しいって言ってくれて。そしたら、気持ちがうわーってなって。自分でも抑えきれなくて」

 碧は顔を赤くして、野菜を切っている。

「本当だったんだ。恋は人を変えるって」

 朱音はポーっとして碧を見ながら言った。

「碧ちゃん変わったわ」

「そうですか。自分じゃ分からなくて」

 碧は相変わらず顔が赤い。

「碧ちゃんがこんなに乙女になっちゃって……」

 朱音もあてられて、両手を口に当てて顔を赤くしている。

「あの、でも、朱音先輩もすごかったですよ、あの頃。周りはあてられて大変でした」

「え?」

 朱音は顔が真っ赤っかになって視線を秋良へと泳がせる。

「そうだった?」

「えと、そーだなー」

 秋良はとぼけて視線を外した。

 碧はその様子を見てまた笑い出した。


 しばらくして料理は出来上がり、碧は料理をタッパーに詰めている。

「上手に出来てるわ」

「先輩のおかげです」

「ううん。碧ちゃんのセンスがいいのよ。自信もっていいと思うわ」

「本当ですか! よかったー。今まであんまり料理して来なかったから」

「大丈夫、がっちり胃袋つかんでね。応援してるわ」

「はい! 朱音先輩みたいに頑張って鷲掴みにします」

「その意気よ」


「愛の巣に押しかけちゃってすみませんでした」

「いいのよ、楽しかったわ」

「今度は一貴と一緒においでよ」

「はい。じゃあ、今日はお邪魔しました」

「あ、碧ちゃん」

 朱音は碧に近寄って何か小声でヒソヒソと話している。

 碧は顔が真っ赤になってペコリと頭を下げて帰って行った。

「様子が変だったけど、何話してたの?」

「ひみつ」

「ふーん」

「でも、初々しいわー。……碧ちゃんって、本当はこういう性格だったのね」

 ドアが閉まると朱音が話し始めた。

「確かに、印象が違ってた。料理褒められてすごく喜んでたし」

「碧ちゃんね、理由は分からないけど、鎧をまとってたんだと思う」

「んん」

「それで、それを脱ぎ捨てた……ううん、もう着けている必要がなくなったのよ」

「一貴が彼女をそうさせたんだ」

「多分ね。すごく大切にされているんだと思うの。そうじゃないとこんな風にはならないわ。きっと」

「さ、晩御飯にしましょ」

 朱音はそう言うと、有名なオペラの一節を鼻歌で歌いながらさっさとキッチンに行ってしまった。


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