42.献呈(シューマン)(リスト編曲)
冷え込んだ夜空に星が瞬いている。
「寒いね」
「うん」
碧は一貴のダウンジャケットのポケットに手を入れている。
「今日は楽しかったー」
「ゲームあんなに強いって知らなかったよ」
「高校生の時にはまって同級生と毎日のようにやってたんだー」
「どうりでかなわないはずだ。俺は全然やったことなかったから」
「へへへ。久しぶりで楽しめた。……朱音先輩たち、相変わらず仲良かったね」
「もはや夫婦だったな」
「……ねえ」
「ん」
「もうすぐかずくん卒業じゃない」
「そうだね」
「どうなるの。私たち」
「どうなるって。そのまま……」
碧の顔が曇る。
「だってかずくんが卒業したらそのままじゃ無くなるじゃない」
「まあ、俺は就職するからなぁ。会う回数は減るだろうね」
「私、朱音先輩みたいな美人じゃないから……」
「うん?」
「性格だってお淑やかじゃないし」
「ああ、どちらかと言うとイケイケだよね」
「もお!」
碧は空いている左手で一貴の腕をバシバシ叩く。
「だから、会う回数が減るとさ……」
「心配?」
「会社にきれいな人いそうだし」
「大丈夫だよ」
「どうして大丈夫なの?」
「そうだなぁ。とりあえず家に行こう」
「今暖房入れるから」
一貴は部屋の明かりをつけてエアコンの暖房を入れた。
「上着、預かるよ」
一貴は碧から預かった服にハンガーを通して自分の服と並べて壁にかけた。
碧はローテーブルの前に座った。
「ねえ、ちょっとだけ目をつぶってもらっていいかな」
「え?」
「別に何もしないから」
そう言うと一貴は机の引き出しから何か取り出し、目をつぶっている碧の横に正座した。
「もう目を開けていいよ」
碧の目の前には小さな箱が置いてあった。
「これ……」
「開けて」
蓋を開けると、指輪がきらりと光った。
碧は指輪と一貴に交互に視線を向ける。
「ペアだよ」
そう言うと一貴はもう一つ箱をテーブルの上に出した。
碧の目からほろりと涙がこぼれる。
「これからも一緒に居てほしい」
「手、貸して」
一貴は碧の左手の薬指に指輪を通した。
碧の手は震えている。
「かずくん。私でいいの……」
「うん。確かに君はお淑やかとかではないけど、だからいいんだ。俺は引っ込み思案なところがあるから、逆に君に助けられてる。背中を押してもらってる。君以外そんなことはやってくれない」
「だけど、椎木先輩の事とか……」
「ああ、全然気にならないと言うと嘘かな。でも、俺は秋良とはずっと友達でいたい。将来そんなこともあったねーって笑い飛ばせるようになりたい。それに、君なら大学のサークルの話も秋良たちと出来る」
「かずくん」
一貴は碧を抱き寄せた。
「ありがとう。私もかずくんが好き。大好き」
碧の背中は震え、鼻をすする音が聞こえる。
「一緒にいてくれるかい」
碧は一貴の胸の中で何度もうなずいた。
二人はしばらくの間何も言わず抱き合っていた。
「それでさ。もう足が限界」
一貴は碧を抱いたままひっくり返った。
「キャーッ」
「ごめーん。もう足が……」
「びっくりしたー」
碧は「モー」と言いながら一貴の胸をバシバシと叩くとそのまま抱き付いた。
一貴もそんな碧を抱きしめる。
「好き」
「おれも」
二人は口づけした。
「夕食どうしようか。外で食べる?」
「外食だと、人目があるから……」
碧は恥ずかしそうに言った。
「まあ、もらった昼の残りはあるけど足りなくない? 何か買ってくるよ、すぐ近くにコンビニあるし」
「あ、一緒に」
「寒いし、近くなの知ってるでしょ。すぐ戻るから」
「うん」
一貴は出かけて行った。
残った碧は何気なく左手の指輪を見た。手を持ち上げてかざすようにする。
(夢みたい)
碧は実は覚悟をしていた。
一貴の卒業と同時にお別れになるのではないかと。
なぜなら彼は私に手を出そうとしなかった。
一時、秋良が気になっていたのは事実だが、彼と付き合って分かった。
ああ、この人だったのだと。
そうして軽はずみな自分の行動を後悔した。
彼と一緒に過ごせたのは幸せだった。
すごく大切にしてもらった。
だけどこの幸せは終わりが近い、そう思っていた。
でも、違っていた。
彼はこれからも一緒に居て欲しいと言ってくれた。
碧の目からまた涙がこぼれた。
(よかった)
「ただいまー」
一貴が袋いっぱいに詰め込まれた食べ物や飲み物を持って帰ってきた。
碧は思わず一貴に飛びついた。
「お、おい」
「ギュッと抱きしめてください」
一貴は荷物を置くと黙って碧を抱きしめた。
「私、幸せです」
「俺でよかったかな」
碧は抱き付いたままうなずいた。
「あなたがよかった」
その日二人は初めて結ばれた。
書きながら、碧ちゃんよかったね。と思ってしまいました。




