40.シシリアーノ(フォーレ)
学食で久しぶりに朱音といずみが同席して昼食を食べている。
「朱音は就職はどうなの?」
「うん、いくつか内定もらってるんだけどね」
「だんなさんは」
「まだだんなじゃないわよ。将来を約束してるだけ」
「両方の親の許可出てるんでしょ? じゃあすぐだんなじゃん」
「まあ」
「で、どうなの?」
「あ、機械メーカーから内定が出てる」
「よかったね」
「うん、でも」
「一緒に暮らすのは難しそう?」
「うん。お父さんの事もあるから、実家の近くで就職したほうがいいかな……と」
「彼は何て言ってるの?」
「配属が何処になるのか分からないから、それがいいって」
「そーねー」
「いずみは?」
「うん。悩んでたんだけど、やっぱり大学院に進もうかなっと思ってる」
「そっかー。いよいよ一緒にいられるのはあと少しなんだね」
「定演。惑星出来てよかったなー」
「いずみのコンミスすごくよかったよー」
「ありがとう。人生いち練習した。もういいわ」
「あはははは」
「ほんとに何度も徹夜で練習した」
「徹夜で練習って、弦楽器ってすごいよね」
「だって間に合わないだもん」
いずみは両手の手のひらを目に当ててホーッと息を吐いた。
「お疲れさまでした」
「ほんと、大変だったー」
「あ、せんぱーい。偶然ですー」
「碧ちゃん」
「ご一緒してもいいですか」
「どーぞどーぞ」
「お邪魔しまーす」
「最近どお?」
朱音が声を掛ける。
「はい、頑張ってます。あ、そういえば、秋良先輩、最近は練習に来るときってツナギですよね」
「というか、家を出る時からだけどね」
「仕事に行ってるみたいじゃん」
いずみが突っ込む。
「大人気ですよー」
「え?」
「秋良先輩って、ツナギのイメージ無いじゃないですか」
「そ、そうね」
「そのギャップが後輩に刺さるみたいで」
「そなの?」
「あ、でも、女子だけじゃなくて、男子もツナギ着てホルン吹いてる姿がかっこいいって」
「彼氏さん、大人気ですなー」
「茶化さないでよ」
「ね。思い出さない? 一年の新歓のとき」
「あー。初めて一年生が揃ったときね」
「みんなよそよそしかったよね」
「緊張してたよね。秋良とかカッチコッチだった」
「へー。その頃からもう気になってたんだ」
いずみがにまっと笑う。
「あ、いやいや。ちがうちがう」
朱音が胸の前で両手をぱたぱたと振る。
「何がちがうよ。今更」
「そうは言っても、やっぱり照れるよ」
「先輩方もそんな時期があったんですね」
「そりゃそうよー」
朱音といずみは同時に声を出した。
「あっという間に卒業だねー」
「夢中だったなー」
「先輩方、まだ定演がありますので、気を引き締めてお願いします」
「分かってますよ」
「碧ちゃんもしっかりして来たねー」
「そういえば、今日は練習は来られるんですか?」
「私は大丈夫だけど、いずみは?」
「私も大丈夫」
「それじゃ、お待ちしてます。私、そろそろ行きます。お邪魔しました」
二人は立ち去る碧の背中を見つめていた。
「なんだか、嬉しいような、寂しいような」
いずみが話し始める。
「先輩たちも、こんな思いしてたんだね」
二人はしみじみと、哀愁をかみしめた。




