39.愛の夢 第3番(リスト)
暖かく見守ってあげてください。
「椎木先輩」
「んー」
「あの、練習に来ていただいて嬉しいんですが」
「んー」
「その、ツナギ着てホルンを吹いているのがどうも」
「ん?」
「シュール過ぎます」
「研究室にいるとこの格好が正解なんだよな」
「でも、僕の先輩のイメージが……」
「俺のイメージ?」
「だってホルンが上手くて、美人の彼女がいて、憧れてたのに……。ツナギは……」
「プーッ。俺いつの間にそんなに憧れられてたのかな」
秋良はげらげらと笑い始めた。
「いや。マジすよ」
「ごめんごめん」
秋良はちょっと申し訳なくなり、笑うのを堪えた。
「最初は白衣着てたんだけどさ、動き難くて結局これになった」
今はツナギの上半身は脱いで袖を腰に巻いている。
「祐一郎も譜読みもできるようになってるし、ホルンも上手い。後輩からは憧れの存在じゃないか」
「彼女いないし。先輩に言われると嫌味に聞こえます」
「おいおい、マジだって。これから俺は就職するとホルンを吹く機会は減るだろうし。今思うと去年がピークだったんだろうなって思ってる」
「就職先決まったんですか?」
「機械メーカーから内定もらってる」
「おめでとうございます」
「ありがとう」
「楽器は続けるんですよね」
「一応、OBオケには入るつもりだけど、職場がどこになるのか不明なんだ」
「そうですか。やめないで下さいね」
「そのつもりではあるんだが……」
「僕もOBオケで先輩と一緒に吹きたいです」
真っ直ぐに秋良を見るその視線に秋良は気圧されそうになった。
「ありがと」
秋良は何故か申し訳ない気持ちになった。
秋良は帰ると、朱音に祐一郎との話をした。
「あら、秋良って意外と自己評価低かったのね」
朱音は言った。
「え?」
「秋良が自分の事どう思っているかは知らないけれど。彼女としては、それは当然の事ですよとしか言えないわ」
「自己評価が低いと言われればそうなのかなぁ。そもそもそういう事考えたことがなかったから」
「あのね、何で私が頑張っておめかししてると思ってるの?」
「そ、それは、俺の……ため?」
「もちろんそれが一番よ。けど、アピールしてるのよ。あなたのそばには私が居ますって」
「そうなの」
「もう、お馬鹿さんなんだから。そりゃそうよ、オケではあなた後輩の女子から人気なのよ。私は気が気じゃないわ」
「そんな大げさな」
「いいえ。大げさじゃありません。だから私は頑張ってるのよ!」
「あ、はい。すみません。ありがとうございます」
「わかればよろしい」
「ほんとに、良かった……」
朱音は俯くとほーっと息を吐いた。
「ねえ」
「なあに」
「何時頃からそれってあったの」
朱音は大きくはーっと息を吐いて「知らない!」と言って、プイっとあっちを向いてしまった。




