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27.コンサートミストレス

「本当にバイオリン、上手くなったね」

 朱音といずみは一緒に練習場を出た。

 今日は秋良はアルバイトがあり、すでに帰っている。


「ずっと左手が痛いのよね」

「無理しないでよ」

「でも、すごく楽しいの。こんな感覚初めて」

「金星のソロがすごく素敵になって来てる」

「ありがとう」

「すごく練習してるんでしょう」

「先週末は家でさらってたら、夜が明けちゃった」

「えー。すごい。そんなに練習してるの! 私には無理!」

「あー。管楽器には無理かも」

 いずみはフフフと笑う。


「いずみがクラ出身だから、管楽器の呼吸を意識してくれるから助かってるわ」

「本当は弦楽器も息は合わせないといけないんだけどね」

「そもそも音が多いし、指も難しかったりすると大変そう」

「それは弦楽器の宿命なのよね。あと右手のボーイングもあるし」

「ボーイングって記号あるよね」

「うん。何回も変更で書き直ししてると、アップだかダウンだか分からなくなる」


「よっお二人さん」

 二人の後ろから声が掛かった。

「石橋先輩」

「お疲れ様です」

 朱音といずみはペコリと挨拶をした。

「この二人組はあんまり見ない組み合わせだね」

「朱音はいつも旦那さんと一緒だもんね」

「結婚してないし!」

「でも、朱音の御両親にはあいさつに行ったんでしょう?」

「おおっ。そうなのか」

「えっ。あの、はぃ……」

「着実に進んでるな。目出度い、目出度い」

「あはははは」

 朱音は照れ笑いをした。


「『惑星』以外のプログラムは何になるのかしら」

 いずみが話し始めた。

「多分、イギリスものになるんじゃないかな」

「エルガーとかですか」

「そう」

「ホルストって、『日本組曲』っていうバレエ組曲も作ってますよね」

「日本人からの依頼だったらしい。『惑星』の作曲を中断して作ったみたいだ」

「へー。知らなかった。ホルストと言えば『第一組曲』と『第二組曲』が吹奏楽では有名だけど、日本の曲も作ってたんですね」

 朱音が言った。

「『第一組曲』と『第二組曲』は俺も演奏したことがある」

「え!?」

 朱音といずみは同時に声を出した。

「先輩、吹奏楽やってたんですか」

 朱音が尋ねた。

「おう。高校でトロンボーンやってた」

「じゃあ。チェロは大学からなんですね」

「そう」

「続ける気はなかったんですか」

「せっかくだから弦楽器やってみたかったんだ。勧誘もされたし。とは言え、バイオリンは無理だと思ったから、チェロにした。正解だったよ」

「上手ですもんね」

「お世辞はいいよ」

「いえ、ほんとにそう思ってます」

「ありがとう。……で、チェロになって分かったけど、世間の人って意外とコントラバスとチェロの区別がついてない気がする」

「あー。バイオリンとビオラもですよね」

「それな、小柄な人がバイオリン持ってるとどっちの楽器かかわからない」

「そうですそうです。あと、バイオリンはよく『情熱大陸』リクエストされるんですよねー。私時々練習してますもん」

「えー。そうなんだー」

「まあ、バイオリンあるあるよね」

「当たり前だけど吹奏楽とは違ってて面白いよね」



「あ、私家こっちなので」

 朱音のマンションは二人とは反対方向だった。

「それでは失礼します」

「いずみ、またね」

「旦那さんによろしくね」

「だーかーら」

「もう実質夫婦みたいなものじゃない」

 いずみは屈託のない笑顔で言った。

「じゃあな」

 歩は朱音に手を挙げていずみと二人で反対側へ歩き始めた。


 朱音は浮かんできた「威風堂々」第一番のメロディを鼻歌で歌いながら歩き始めた。

(この曲も吹奏楽で演奏したなー)

 高校の時にはコンクールには出られない時期があっても、普通に演奏会には出る。

 これまで、たくさんの曲を演奏してきた。

(ああ、やっぱり楽器を続けてよかった。私は音楽が好きだ。今、すごく楽しい)

(早く帰って秋良と音楽の話がしたい)

 朱音は頭の中に流れている行進曲に歩調を合わせて、楽しそうに歩き続けた。

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