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26. 海王星 神秘なる者

ーー


 波打ち際で小さな女の子が遊んでいる。

 朱音はその姿をまぶしそうに見ている。

 女の子は時々確認するように朱音をチラリと見ては、再び遊びだす。

 愛おしい。

 女の子は貝殻を拾うと、それを差し出しながら、朱音の方に走り出した。


ーー



 朱音は目を覚ました。

 そして、泣いていた。

(あれ、変だな)

 朱音の背中には、秋良の温もりがあった。

 秋良に包まれていた。

 お腹には秋良の右腕が乗っていて、温かい。

 朱音はその右腕に自分の右腕を乗せて、再び目をつぶった。


            ◆


 太陽系の大外にある青い極寒の星。

 その星をテーマにした曲は全てにわたり、弱音で演奏される。

 特殊楽器もふんだんに使われており、幻想的で、太陽系最果てのイメージがよく表現されている。

 女声合唱もこの曲にのみ使用される。


 ほぼ木管楽器と弦楽器それにチェレスタなどの特殊楽器で神秘的に曲が進行する。

 弱音で進行することもあり、発音には注意が必要だ。

 

 フルートは中でも旋律を担っていることが多い曲だ。


(やっぱり、碧ちゃんの音が柔らかくなっている)

 朱音は素直にそう思った。

 すべての楽器が揃っているわけではないので、演奏は不足感が否めないが、フルートの神秘的な旋律は太陽系の果てへ誘われる。


 秋良たち金管楽器はハーモニーが受け持ちである。


 曲が終わると、団員のため息が漏れる。

 演奏中にずっと強いられていた緊張から解放される。


 練習場はやがてがやがやと騒がしくなる。


「すげー緊張するな」

 一貴が秋良に話しかける。

「つば抜きするのも音を立てないように慎重にしないとだもんな」

「楽器のカチャンていう音がすごく目立つもんな」

「ほんと。演奏以外でもすごく気を遣う」

「実際にはそれほど聞こえてないのかもしれないけどね」

「でも、丁寧にしないわけにはいかないし。所作もなるべく目立たないようにして雰囲気を壊さないようにしないと」

 などと話しているうちに、各々パートナーがやって来たのでそのまま流れ解散となった。


「ね。碧ちゃんやっぱり音が柔らかくなったよね」

「そうかな。あ、発音が優しくなったかもね」

「そうそう。やっぱり、恋する気持ちは演奏にでるのよねー」


(あなたもかなりのものですよ)

 という突っ込みはしないでおいた。


「今日、どこか寄り道しようよー」

「うん。いいけど」

「カフェに連れてって」

「了解。じゃあ晩御飯も外食にする?」

「やったー」

 朱音は秋良の腕にすがりつく。


 二人は和食のチェーン店に入った。

 朱音は楽しそうに定食を選んでいる。

「時々、こうして他の人の作った味を確認しておくの大事なの」

「そう?」

「うん。自分だけだとどうしても味がマンネリになるから、刺激になるの」

「朱音のごはんすごくおいしいよ」

「そういってくれるのはすごくうれしいけど、やっぱり、秋良の好みの味にしていきたいの」

「ありがとう。うれしいよ」

「だから、時々、外食に連れて行ってね」

「了解」

 二人は味付けの感想や好みなど話しながら、料理を楽しんだ。


 夕食を食べた後、カフェにも入った。

「お父さんとお母さんは何か言ってなかった?」

「んー。お母さんは『いい人みたいで安心した』って」

「よかった」

「お父さんは特にコメントなしだったな。あ、『自分たちが学生であることを忘れないように』って言ってた」

「あ、はい。気を付けます」

 うふふふふ。

 朱音は幸せそうに笑った。

 その強力な破壊力に秋良はどきりとする。

(もう、無理!)

 秋良は朱音に軽く口づけた。

「えっ。もう! こんな所で……」

 朱音は周りを見渡しながら言った。

「今のは朱音がわるい」

 秋良はむすっとして言った。

「えっ。何で?」

「キスしたくなる顔をしてた」

「えー」

 秋良は再びキスをする。

「んー。もう! は、恥ずかしいから」

 朱音は顔を真っ赤にして言った。


「お客様」

「ご注文はよろしいでしょうか」

 ジトっとした目つきでウェイトレスが注文を取りに来た。

「あっ。すみません。もうちょっと待ってください」

 秋良も朱音も真っ赤になってメニューを選び始めた。


 マンションに戻り、朱音はお風呂に入っている。

 湯舟につかりながら女の子の夢のことを思い出していた。

 生命が子供を産むのは宇宙の神秘であり奇跡だと思う。

 朱音も将来子供を産むことを考えたりする。

 でも、私たちは今は無理だ。

 父が言うように学生なのだ。

 でも、夢の中の女の子の事は、夢の中であっても本当に愛おしいと思った。

 そして、目が覚めると私は泣いていた。

 どうしてだろう。

 わからない。

 朱音はいつもの不安症候群のせいだと思い、湯舟から出た。


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