24.土星 老いをもたらす者
ご両親へご挨拶に来ております。
「……」
「……」
緊張した空気の中、沈黙が続いていた。
朱音の家を訪れた秋良は、隣の朱音と並んで座っている。
向かいにはテーブルをはさんで朱音のご両親が座っている。
朱音の父親はずっと目をつぶっている。
朱音の家を訪れて案内されて、席に着いてから、この状態だ。
「あの」
「……」
怒っているのだろうか。
朱音の父親は目をつぶったまま微動だにしない。
やがて、父親の目が開いた。
そして、無言のまま秋良をじっと見つめる。
秋良が思っていたよりも、年齢は高いようだ。
髪の毛は白髪が多く、グレイヘアだった。
「あの。」
「君が、朱音の……」
「はい、お付き合いさせていただいています」
「そうか」
相変わらず無表情で秋良を見つめている。
「君、朱音とはどういう風に出会ったのかな」
「あ、い、一年の時から朱音さんの事が気になっていました。オーケストラで」
「それで、その、去年の秋くらいにきっかけがあって、それで、距離が近づいて、お付き合いするようになりました」
「ふむ」
朱音の父親はまた目をづぶった。
「朱音は歳がいってからできた子供でな」
朱音の父は目を開けて話し始めた。
「だから、生まれたときから本当に可愛くて、大切に育ててきた」
「中学生になってクラリネットを始めて、夢中になっているのを見守っていた」
「だから、吹奏楽の名門に進学したいと言った時には、何も言わずに認めた」
「だが、その後は、彼女はつらい思いをすることになった」
「高校2年の時にオーディションに落ちた時の塞ぎ様ときたら、見るのが本当に辛かった」
「それで、レッスンを受けに行きたいと言ったときも何も言わずに行かせてあげた」
「3年生になって、オーディションに通ったときは本当にうれしくてな。お祝いをしたくらいだ」
「本当にほっとした」
「そして、心配にもなった」
「この子はいわゆる普通の高校生としての生活は送れているのだろうかと」
「君も、何か楽器をやっているのだろう」
「はい、一緒のサークルでホルンを吹いています」
「そうか」
「お父さん、私クラリネットを続けさせてもらって感謝してます」
朱音は話し始めた。
「高校の時の練習はつらかったけど、3年生の時は全国大会にも行けたし」
「そしてね、何より秋良と出会えたの」
「お父さんが続けさせてくれたから、彼と出会えた」
「……」
「お父さん。今日は、朱音さんと結婚を前提にお付き合いをさせていただきたくて伺いました」
秋良が頭を下げた。
「まだ、学生だろう」
「はい、しかし、もう3年なので卒業後の事を考えないといけなくて」
「将来を一緒に過ごすことを前提に就職などを2人で一緒に考えて行きたいんです。お願いします」
「……」
「分かった」
長い沈黙のあとで朱音の父親は言った。
「朱音に楽器を続けさせてあげたのは私だからなぁ」
「そのうえで君と出会ったと言われれば、私もそれに加担しているようなものだ」
「頭を上げなさい」
「お父さん」
「君、少しはお酒はいける口かね」
「あ、はい多少は」
「母さん、お寿司を取ろうか」
「はいはい」
朱音の母親は終始黙っていたが、表情は喜んでいるようだった。
「ありがとうございます。朱音さんを大切に、幸せにします」
「こちらこそ、よろしく頼みます」
朱音の父親も頭を下げた。
「お父さん。ありがとう」
朱音はぐすぐすと泣いていた。
秋良たちが席を外した後で、朱音の両親が話している
「それにしても、ついこの間付き合いだしたというのは聞いたけど、もう結婚の話になるなんて」
「そんなものですよ。いままで本当に何もなかったんですから、いい人みたいで私は安心しましたよ」
「そうだな。幸せになってほしいな」
「朱音が、親がはっとするくらいきれいになったんですから、きっと大丈夫ですよ」
「そうだな。これから二人で歩んで行くんだな。大人になった。寂しいが、私もいつまでも朱音を見ててあげられないからな」
「あらあら。お父さん、おセンチになって。まだまだ大丈夫ですよ。ほら、お寿司が届きましたよ」
「私は二人を呼んできますから、お父さんはお寿司を受け取っておいてください」
「分かった」
朱音の父は腰を上げて玄関へ向かった。




