22.水星 翼をもった使者
使者がつなぐもの
珍しく秋良が先に帰っている。
なので、今日は秋良が夕食を作ることにした。
チャーハンくらいは作れる。
朱音は木管と弦のトップ練(※パートトップだけで合わせること)で少し遅くなるようだ。
「水星」はアンサンブル力が必要な曲なので、トップ錬が行われることになった。
そろそろ戻ってくるかなと思い、秋良は料理を始めた。
作るのは高菜チャーハンだ。
秋良の母は九州出身なので、高菜がよく送られてくる。
だが、どうしてもだぶついてしまうので、チャーハンにして消費する。
したがって、よく作るメニューだ。
「ただいま」
朱音がいいタイミングで帰って来た。
「いい匂い。例のやつね」
「そっ。お帰り」
「私、秋良が食べさせてくれるまで高菜がこんなにおいしい事知らなかった」
「まあ、九州以外じゃあんまり食べられないよね」
朱音は秋良の高菜チャーハンがすっかりお気に入りになっている。
「練習はどうだった?」
秋良は出来上がったチャーハンをフライパンから皿に移しながら聞いた。
「手ごわかった。でも、やってて楽しかったよ」
「そりゃよかった」
「いずみのコンミスもだいぶ様になってきてる」
実はいずみは来年度からコンミス(※コンサートミストレス、女性のコンマス)が確定している。
そのため当然バイオリンソロはいずみが受け持っている。
『金星』のホルンソロの後のバイオリンソロもいずみだ。
「曲自体は短いよね」
二人は食事を始めた。
「うん。だけど気を抜いたら置いていかれちゃうから。必死で集中しなきゃいけない」
「細かい音で駆け抜ける感じだもんね。でも、朱音なら大丈夫でしょ」
「がんばります。それと特殊楽器がまだ入ってないから」
「ごめん、プレッシャーかけるつもりじゃなかった」
「ううん、楽器編成の都合でなかなか演奏できない曲だから、楽しみは楽しみなの」
「それにしても、羽の生えたかわいらしい天使が縦横無人に飛び回ってる様なイメージがうまく表現されてるよね」
「その分、リズムは取りずらいし、反射神経が要求される」
「そうだろうね。ホルンがこの曲の主題を担当するのはまず無理。頑張って支えます」
「よろしくね」
「皿、洗うよ」
秋良は立ち上がり、朱音の皿に手を伸ばす。
「あ、洗い物は私が」
「いいよ、大した事ないし、皿をくださいな」
「んもう」
「どうした」
「ありがとう」
「ん」
朱音は皿を洗い始めた秋良の両肩に掌をのせて、背中にくっつく。
秋良はすぐに洗い物が終わったが、しばらくそのまま朱音のぬくもりを感じていた。
「あ、朱音」
秋良は後ろの朱音に声をかけた。
朱音は黙ったまま何も言わない。
「こ、今度さ、朱音の家に行きたい」
「今いるよ」
「そうじゃなく。朱音の実家に」
「え?」
「ご両親に挨拶したい」
秋良は朱音に向き直った。
「け、結婚を前提に付き合ってほしい」
朱音は両手を頬につけて秋良を見つめている、目から涙があふれそうだ。
秋良は朱音を抱きしめると、
「ダメか?」
「ダメなわけないよ……」
そう小声でいうと、朱音は秋良の胸に顔をうずめ、そっと抱き着いた。




