16.出雲碧はフルート吹き
後輩のフルート吹きとの件
新歓演奏会に向け、木管分奏が行われている。
朱音は次期パートリーダーに指名されていることもあり、問題点を積極的に修正を試みていた。
時々厳しく言うこともあるが、大抵はすんなりと解決されてゆく。
無意識にしてしまっていることなどは意識すればすぐに解決してしまうのだ。
それに、実力的な問題は個人で持ち帰ってもらうしかない。この場では修正できない。
各自の課題を認識して練習は終了した。
「先輩。お疲れ様でした」
フルートの出雲碧が朱音に声をかけてきた。
「ああ、碧ちゃん。お疲れ様」
「いつもですけど、やっぱり先輩は上手いし、音が素敵です。特に最近は表現に磨きがかかってます」
「え。あ、ありがとう。そうかな」
「絶対そうです。私、先輩のクラ大好きなので」
「そう言う碧ちゃんのフルートも素敵よ」
「えへへ。褒めるの上手ですね。私、先輩みたいに名門学校出身じゃなくて、普通の公立高校出身ですから……」
「まー。ご謙遜を。出身学校は関係ないでしょ。音楽の世界は今何ができるかが大切でしょ。一口で言うと実力の世界よね。それは学生オケであっても同じだと思う」
「それは先輩ならそう言えるでしょうけど……」
「私だからじゃなくて、人前で楽器を演奏するということはそういうものでしょう」
「まあ、できない人にソロを任せるとは言われないですね」
「でしょ。あなたは任されているじゃない」
「なんだか、うまく丸め込まれた感じです」
「そんなことないよー。私、碧ちゃんのこと認めてるのよ」
「嬉しいです。でも何もかも手中に収めた先輩に言われるとなんだか素直に喜べない自分もいます」
「え?」
「名門女子高出身で、楽器が上手で、最近彼氏ができて、きれいになって。次期パートリーダーだし」
「ちょ。ちょっと待ってよ」
「冗談です」
碧はクスクスと笑って、
「でも、椎木先輩って後輩から人気あったから、先輩恨まれますよー」
「もー。脅さないでよ。怖いでしょ」
「これも冗談ですけどね。みんなお似合いだって言ってますよ、心の中は解りませんが」
碧はフフフッと笑った。
朱音はふーっとため息をつくと、天を見上げる様にして話し始めた。
「みんなからどう見えてるのかはわからないけどさ、私は確かに名門の高校出身だけれど、コンクールに出られたのは高3の時の1回だけなのよ。1年と2年の時はオーディション落ち。悔しかったー。楽器を辞めようかと何回思ったことか。毎日一生懸命に練習したけど残念ながら結果はそうでした。今でもその時のことを思い出すと涙が出るわ。でもまあ、全国大会には行けたし、高校生の時の練習の成果でしょうね今の私は」
朱音は碧に顔を向けて続けた。
「初めて秋良を見たときから音を聞いた時から、もう私は彼に魅かれてしまっていたのよね。でも、私は楽器しかやってなかった。どうしたら彼と接近できるのか分からなくて、一年以上ただ見つめるだけだったの。それが、去年から少しずつ、距離が縮まって、付き合うようになったのよ。自分でも奥手もいいとこだと思うわ」
そう言うと、朱音は苦笑いした。
「だけど、秋良がね『楽器を続けてくれていたから私たちは出会えたんだ』って言ってくれたの、すごく嬉しかった。クラを続けて良かったーって心の底から思えたの」
「わー。おのろけ。でも、そうだったんですね、私、先輩は何でも易々と手に入れてきたのかと思ってました……。苦労してたんですね……。んー。でも、結局ゲットするものはしてるからやっぱりムカつきます」
「え?」
「でも、分かってきました。なぜ私は梅香崎先輩に好感を持っているのか。そういう苦労した部分に無意識に魅かれてるんだなーって納得しました」
碧はにっこりと笑って、
「私、梅香崎先輩と椎木先輩の事も応援してます。お似合いだと思います。先輩は見違えるようにきれいになって羨ましいです」
と言うと、ぺこりと会釈して席へ戻って行った。
朱音はその姿を見送りながら、
(あの子まさか)
と思った。




