12.12月24日
クリスマスの朱音と秋良
長くなりました
朱音は駅前の広場に立っていた。ボブスタイルの髪にはパープルのインナーカラーが入り、黒のタートルネックセーターとチェックのグレーのジャンパースカート。
普段はあまり手入れしていない肌もここ数日は入念に手入れをして来た。
前髪が風に流れてしまうのが気になって何度も手で直す。
道行く人たちも今日はおしゃれをしている人が多い。
街にはクリスマスの浮かれた雰囲気が漂っている。
改札から出てくる秋良を見つけた。
ダークなスラックスにジャケットを羽織っている。
(いつもと違ってかっこいいじゃない!)
周囲をきょろきょろと見まわしながら歩いている。
やがて目が合った。
が、すぐに他に目を逸らした。
(あれ?)
秋良は朱音に気が付いていない。
朱音は秋良に向かって歩き出した。
「秋良」
朱音は秋良のそばまで行って声をかけた。
秋良は締まらない表情で声の方を振り向いて、じっと見つめてから、はっとした表情になる。
「朱音?」
「お待たせ」
朱音は上目遣いに、にっこりと微笑んだ。
「ごめん。いつもと雰囲気が違うから分からなかった。びっくりした……。その……今日はすごく」
「すごく?」
「かわいい……です」
「ありがとう」
朱音はにっこり微笑むと、秋良の腕に自分の腕を絡ませた。
(ごーかく。よくできました)
心の中でつぶやいた。
二人はしばらくの間、浮かれた感じの漂う人々に交じって街を歩いた。
ウインドウショッピングをしたり、アクセサリや小物のお店を見てまわっていたが、時間はそろそろお昼となっていた。
「お昼は一応考えているけど、任せてもらっていいかな」
秋良が朱音に声をかけた。
「うん。どのお店?」
「ロシアンカフェがいいかなと思って」
「ほんと! 私、ロシア料理初めて。楽しみー。どうやって見つけたの?」
(ま、まさかほかの女の子と来たりしてないよね?)
「あ、値段で……探した。あんまり高いのは……無理だし……」
「そ、そうね」
(良かったー)
「その先を曲がったらもうお店みたいだ」
秋良がスマホを操作しながら言った。
店の前には4、5組の客が並んでいたが、それ程待つこともなく意外にすんなりと席に案内された。
店の中はさすがにカップルが多い。
秋良と朱音はボルシチとピロシキにサラダのついたランチセットとグラスワインを注文した。
提供されたボルシチはきれいな深紅色でクリスマスにぴったりに思えた。
ピロシキもボルシチもとても美味しい。
「想像以上に美味しいね」
秋良がピロシキをほおばって言った。
「ボルシチもとっても美味しい。こういう味好き」
ロシア料理を初めて食べた二人だったがおいしくて大満足した。
皿が下げられて、テーブルには水とグラスワインが残った。
ワインに日差しが当たってきれいな紅色になっており。
朱音という女の子はその名にふさわしい美しい紅の輝きの向こうに座っている。
「あのさ」
秋良が切り出した。
「なあに?」
ワインで気分がよくなったのか、朱音がふにゃりとほほ笑む。
心臓に悪い微笑みだ。何度か深めの息をして、秋良が意を決して話し出す。
「あのさ、本当は今日話すかどうか迷ってたんだけど」
「うん?」
「クリスマスで浮かれて流されてるんじゃないかって思われるかなーっと」
「ふうーん?」
相変わらず朱音はやわらかな微笑みをたたえている。
「お付き合いしてください」
そう言うと、秋良は頭を下げた。
朱音の目が見開かれ、そしてゆっくりと元の表情に戻ると、
「もちろんです。ありがとう。よろしくお願いします」
朱音はにっこりと微笑んだ。
「ありがとう。よかった」
「それで……あの、これを」
秋良は小さな箱をとりだすと朱音に差し出した。
朱音の表情が喜びに満ちたものになる。
「開けていい?」
「もちろん」
朱音はリボンをほどくと、中から小箱を取り出して蓋を開けた。
「かわいい!」
朱音が中からネックレスを取り出すと、小さな赤いティアドロップがゆらゆらと揺れる。
「ブレスレットにしようか迷ったんだけど、やっぱりクラリネット吹くのには邪魔かなと思ってネックレスにした」
「ありがとう。うれしい!」
朱音の目が潤んでいる。
「つけてもいい?」
「うん」
朱音は両手を首の後ろにまわし、セーターの上からネックレスを付けた。
黒のセーターに赤い石がワンポイント輝く。
「どお?」
「す、すごく似合ってる。かわいい」
今日の彼女の服に合わせた様に本当によく似合っている。
「ありがとう。私も、プレゼントあるの」
朱音も箱をバッグから取り出すと、秋良に差し出した。
「ありがとう。開けるね」
「どうぞ」
箱の中には、かわいい形をしたきれいな色のペアのマグカップが入っていた。
「ちゃんと言ってもらってなかったからペアの買うのすごく迷ったけど、さっき告白してもらえてよかった」
「遅くなって、ごめん」
「いいの。うれしかった」
秋良と朱音は青と白の明るいイルミネーションで飾り付けられた並木道を二人で歩いていた。
つながれた手は歩調に合わせて少し揺れている。
二人はこうして一緒に過ごせることの幸せをかみしめながら、キラキラと点滅するイルミネーションを通り抜けてゆく。
そして、人の気配がなくなるとどちらともなく体を寄せ、キスをした。
お互いの唇の感触を確認しながら何度も唇を合わせた。
「これからなんだけど……家に来ない? もっと一緒に居たい」
秋良は朱音を誘った。
「うん。私も」
「一応、片付けはしてあるけど、ケーキとか食べ物が何にもないから」
「じゃあ、一緒に買い物に行きましょ!」
「やっぱりクリスマスだからチキンかなぁ」
「よかったら何か作りましょうか?」
「それは嬉しい」
「お手伝いもお願いね」
「もちろん」
秋良はテーブルを拭いて食事の準備をしている。
キッチンでは朱音が鍋に向かっており、くつくつと煮込んでいる料理の火を落として皿に盛りつけている。
「お料理、運んでもらっていいかな」
「了解」
テーブルの上にトマトソースで煮込んだチキンと野菜が皿に乗っている、フランスパンとチーズも買ってきた。
朱音のクリスマスプレゼントのペアのマグカップにはスパークリングのアップルジュースがぷつぷつと泡を立てている。
二人は床にテーブルをはさんで向き合って座り、乾杯をした。
「いただきます」
秋良は煮込まれたチキンを人つ頬張ると
「うまい!」
と声をだす。
「よかった。お口に合いました?」
「うん。すごい美味しい」
秋良は口の中にある幸せを何度もかみしめた。
「料理上手だね」
「これ、簡単だから」
「そうなの? 初めて食べた。美味しい」
朱音は秋良を見ながらやさしく微笑んでいる。
「ほんと、美味しい」
秋良は次々に料理を口の中にいれ、咀嚼する。
「フランスパンはスープをつけて食べてね」
「うん。あーこれも美味しい。こんなに幸せでいいのかな」
秋良は素直に思った。
「これからは、もっといろいろ作ってあげる」
「よろしくお願いします」
秋良は頭を下げた。
食事を終て、買ってきたショートケーキを二人で食べている。
「お腹いっぱい。ねえ私の分少し食べて」
「分かった」
朱音は自分のケーキを一口分フォークにのせると、秋良の口に運んだ。
「はい。あーん」
「あ、あーん」
朱音はケーキを秋良の口に入れた。
「美味しい?」
「美味しいです。では、こちらをどうぞ」
秋良は自分のケーキを朱音と同じようにあーんして食べさせた。
「!」
朱音は声が出ない。
「美味しい?」
「美味しいけど、嬉しいけど、ちょっと恥ずかしい」
「だろ」
「これ、人前でやってるカップルすごいな」
「ほんとー」
二人は笑いながらケーキを食べ終えた。
秋良と朱音は二人でベッドに移動して並んで、クリスマスのイルミネーションの中継を見ている。
「あのさ、き、今日は」
「一人になるのはいや」
秋良が話し始めると、朱音は遮るように言った。
「お、俺も、一緒に居たい」
秋良は朱音を抱きしめた。
「あ、あのね。コンビニに行って来てもいい?」
「え、俺が行ってくるよ」
「いいの。自分で買ってくる。それで、その……お、お風呂を沸かして欲しい」
(うっ)
「わ、わかった。やっておく」
しばらくして、朱音は戻ってきた。
「お風呂。沸いてる。タオルも置いてあるから」
「ありがとう。あとね、服を貸してほしいの」
「あ、あああ分かった。何か出しておく」
「じゃあ、お風呂に入ってくるね」
「うん」
「あの」
「何?」
「その、準備をしておいてください」
朱音はそう言うと顔を真っ赤にして浴室に入って行った。
(……準備? はっ。あああ、俺もコンビニに行かなきゃ)
秋良は慌ててコンビニへ走った。
秋良が戻ると、朱音は秋良のパーカーを着てベッドに腰かけていた。
太ももから下が露わになるのでバスタオルを膝にかけている。
(彼女にぐっと来るというのはこういう事か)
秋良は朱音の横に座り、抱きしめてキスをする。
そうしながら朱音の膝のバスタオルをはらい、朱音の太ももを露わにした。
「あっ」
朱音は小さく声を出した。
心臓があり得ないほど高鳴る。
手が震える。
もう、後戻りはできない。




