11.演奏会打ち上げパーティー
演奏会が終わり打ち上げになります。
会場近くのレストランを貸し切りにして演奏会の打ち上げパーティーが始まった。
秋良たち楽団員は乾杯を済ませると各パートごとに集まって談笑している。
演奏会後の気持ちの高ぶりの状態はまあ半端ではない。かなりの大騒ぎと言ってもいいだろう。
「秋良、誕生日過ぎて良かったな。ビール飲める」
一貴が話しかけてきた。
「おう。打ち上げのビールはうまいな」
秋良は二十歳の誕生日を過ぎてから一貴と二人でビールを飲んでみたのだが、その時はそんなにおいしいとも感じず、こんなものかと思っていたのだが、今日はうまい。
「秋良、お疲れ様」
朱音が秋良の側に来てグラスを合わせる。チンといい音がする。
「お疲れ様」
秋良も返事を返す。
朱音の持っているグラスには赤い色の飲み物が入っている。
「それ、お酒?」
「うん」
「大丈夫?気分は?」
「大丈夫みたい」
朱音の頬が少し赤みを増していた。
「そうか、飲みすぎるなよ」
「うん。これでやめておく」
「気分が悪くなったらすぐ言うんだぞ」
「そうする」
「俺もこの後はソフトドリンクにする。朱音に何かあったら心配だし」
「もう、そんなに心配しなくても大丈夫」
朱音が秋良を見上げ、二人はしばらく見つめ合った。
「おい、お二人さん」
一貴がたまらず声を掛けた。
「そういうのは二人だけの時にやってくれ」
「え?あ、ああ。そ、そうか」
一貴はふーっとため息をついて、首を左右に振る。
「じゃ、じゃあまた後で」
朱音はっとした表情をすると早足で周囲の喧騒のなかに紛れて言った。
一次会が終わって、秋良も朱音も二次会に誘われたが、朱音がお酒が弱いのは分かっているし、秋良も法律上お酒を飲めるようになったのはつい最近なので、今回は二次会に行かず、二人で帰ろうと朱音に伝えると、朱音はにっこりと微笑んで「うん」と答えた。
もう最近はオケのメンバもこの二人が一緒にいるのがあたりまえの事と認識されているから、二人で帰ることを伝えると、二次会の無理強いはされなかった。
秋良と朱音は二人並んで電車の座席に座り、秋良はリュック型のホルンケースを膝にのせている。
朱音はハードケースにしまってあるクラリネットと楽譜類の荷物の入ったトートバッグを膝にのせている。
「ねえ、電車の網棚に楽器を載せたまま忘れて電車から降りるのってクラリネットあるあるだよ」
朱音が話し始めた。
「ああ、ケースの大きさ的に網棚にぽんと乗っけそう。そのまま忘れたりするんだ」
「そうなの」
「ホルンはケースが大きいし重いから網棚には乗っけないな。腰やりそう」
「そういえば、ホルンの重さはどれくらいなの」
「うーん。モノによるけど、だいたい2.5から3キロくらいじゃないかな、ハードケースに仕舞うとその倍以上になる」
「結構重いのね」
「まあ、そうかな。聞いた話だけど、普通のダブルホルンだと中学校のホルンの女の子には重すぎるみたいで、軽いB♭シングルっていうのを使ってたりするみたい。キンダーホルンていう子供向けのホルンもあるにはあるね」
「ホルンていっぱい種類あるのね」
「うん。管が長いから工夫の余地がいっぱいあるんだろうね」
駅の手前で電車が減速を始めた。
「そろそろ駅みたいだね」
電車が停止した後、二人は立ち上がって網棚から荷物を取って電車から降りた。
朱音のマンションの最寄り駅で電車を降りた二人は歩き始めた。
秋良は背中にリュック型のホルンケースを背負っている。
普段はハードケースを使うのだが、ホールまでの移動とか、楽譜や舞台衣装などを持っていくことなどを考えて今日はこのケースにしている。
朱音は今日はかわいらしいトートバッグにクラリネットのケースを入れて持ち歩いている。
持ち手には柴犬がクラリネットを吹いているぬいぐるみが付いていた。
「ク、クリスマスは二人で過ごしたいのですが」
「はい、よろしくお願いします。って、何で敬語?」
「確かに、何でだろ」
朱音はフフフフッと笑うと
「もー。面白いんだから」
と言った。
「て、定演の練習で気持ちが落ち着かなかったし、クリスマスでリフレッシュしたいね。行きたいところとか、食べたい物とかある?」
「私、秋良と一緒に居られればそれで幸せだよ」
「……っ」
抱きしめたい。
けど、今日は荷物がある。
「い、一緒にいるよ。もちろん。俺も朱音と一緒にいたい」
朱音は上目遣いに秋良を見つめて来る。
(やばい、超かわいい)
秋良は見惚れて言葉がでない。
(もうだめだ)
秋良は荷物を下すと、朱音を抱き寄せた。
朱音は全く抵抗しない。
秋良は首の後ろに手をまわすと、そのまま朱音に口づけた。
秋良の背中に腕をまわし、朱音は抱きついてくる。
二人は、湧き上がる情熱のまま、口づけと抱擁を続けた。
人の気配を感じて離れた二人だったが、
朱音は秋良の腕に自分の腕を絡ませて、頭をくっつける。
「こうしてるとあったかいね」
二人はお互いの体温を感じながら、無言のまま朱音のマンションに向かった。




