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10.定期演奏会

定期演奏会です。

 薄明りのステージにオーケストラのメンバーが入って行く。

 足音だけがホールに響く。

 全員が着席すると照明が明転し指揮者が入場する。

 照明の熱で顔が火照る。

 楽団員が起立し、会場からの拍手が起こる。

 指揮者が客席に向かって挨拶し、振り返って楽団員に着席を促す。


 始まる。


 指揮棒を右手に持ち両手を胸ほどの高さに手をあげ、オーケストラに演奏の準備を促す。

 団員を見渡して指揮者が小さくうなずくと、振りかぶる。


 モーツァルト作曲 歌劇 魔笛 K.620 より序曲

 

 丁寧なテンポで和音が鳴り響き、そして曲が展開してゆく。


 ホルンパートの楽譜は何の変哲もない、簡単な楽譜に見えた。

 何なら初心者向けかもというくらいシンプルだ。


 だが、いざ合わせてみると違った。

 音程、発音、音の強弱など、楽器演奏をするにあたっておよそ必要とされる要素をすべて考慮する必要があった。

 本当に必要な音しか書かれていない。

 逆に言うと自分がへまをすると全体に影響が出るということだ。


 これが、モーツァルトか。


 秋良はオーケストラで演奏するということの恐怖を感じた。

 だが、曲が仕上がってくるとオーケストラで演奏する楽しさも感じるようになった。


 弦楽器と音が交じる部分など、本当にオーケストラで演奏しているという快感がある。

 吹奏楽とは全く違う音の響き。

 そのサウンドに自分が溶け込んでゆく感覚。

 ホルンを吹くということはなんと素晴らしい事なのだろうか。

 その幸福感を味わえる曲だ。

 やがて演奏は終了し、観客からの拍手が起こる。


 次曲は チャイコフスキー作曲 バレエ音楽 くるみ割り人形作品71a より抜粋


 オーケストラの楽器の個性を活かした華やかな音楽。

 魔笛とはまた違うオーケストラの醍醐味を味わうことができる。

 弦楽器、管楽器、パーカッションの個性が光る。

 オーケストラの編成は大きく、秋良のホルンパートも2本から4本となる。

 これもオーケストラならではの、そして、だれもが聞いたことがある名曲が並ぶ。

 クリスマスイブの話なのでクリスマス前のこの時期にぴったりの曲だ。

 

 前プロ(※一曲目)モーツァルト、中プロ(※二曲目、今回は組曲なので数曲抜粋して演奏)チャイコフスキーが終了し、次のメインのプログラムへ行く前に、一旦休憩となる。


 秋良は前中プログラムをトップ奏者として演奏し、メインの交響曲には1stアシスタントとして舞台に上がる。


 ベートーヴェン作曲 交響曲第6番ヘ⾧調 作品68 田園

 

 交響曲は通常は4楽章で構成されていることが多いが、この曲は5楽章で構成されている。

 各楽章には表題がつけられており、自然を愛するベートーベンが田園の中で作曲したとされて、ベートーベンの交響曲の中で革新的なものとなっている。

 以降の作曲者に影響を与えた曲だ。


 しかも、交響曲5番と並んで非常に評価が高い。

 この曲はもホルンも活躍するし、演奏は簡単ではない。


 少しでも1stの負荷を減らそうと指揮者が秋良をアシスタントとして乗るように指定した。

 秋良もこの曲は大好きで、ぜひ演奏してみたかったのでアシスタントであっても、不満などなく、むしろ嬉しい事だった。


 実は秋良は例のホルンのアトリエやっていたおじさんがくれたオリジナルのホルン(※ナチュラルホルン)を持っている。

 アトリエをたたむときにくれたのだ。

 バルブがなく一本の管がくるくると丸められただけで、ベルの中に差し込んだ右手で音を調節したり、変えたりする。


 ベートーベンはこのホルンの能力をよく知っている。出ない音はもちろん、いい音が出る音域などをよく知っており、それは曲に活かされている。


 ホルン吹きの秋良も関心するほどうまくオリジナルの楽器の特徴を把握してメロディが作られている。

 もちろんモーツァルトもそうだ。

 モーツァルトはホルン協奏曲を4曲も残している。


 秋良たちがオリジナルの楽器を使って演奏することはない。しかし、オリジナルの楽器で演奏するとどういう風になるのかは知っていて損はない。

 作曲時はオリジナルの楽器で演奏されることが前提だったのだから。


 秋良は特にこの曲についてはオリジナルの楽器で練習したイメージを持って自身のモダンの楽器で演奏をするように心がけていた。

 

 メインの曲が終わり、アンコールにくるみ割り人形の「花のワルツ」、そして定番の「カヴァレリア・ルスティカーナより間奏曲」を演奏し、定期演奏会は終了した。


 

ちょっとくどかったでしょうか。

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