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1.梅香崎朱音はクラ吹き

連載に切り替えようと思います。

 夏の暑さのピークが過ぎたころ大学のオーケストラに地元商店街からの演奏依頼が大学オケに入り、屋外のアーケードでの演奏ということで通路を塞ぐこともない木管五重奏をすることになった。


 2年生のクラリネットの梅香崎朱音(うめがさきあかね)と同じく2年生のホルンの椎木秋良(しいきあきら)は3年生のファゴットの田上修士(たがみしゅうじ)に誘われて木管五重奏のメンバーとなった。

 

 この二人以外は3年生で構成されており、リーダーの田上は実力重視でメンバを構成した結果こうなったと言っていた。

 2年生ながら選ばれた朱音と秋良は上級生からも一目置かれているということだ。


 木管五重奏はオーボエ、クラリネット、フルート、ファゴット、ホルンの5つの楽器でのアンサンブルとなる。ホルンは金管楽器だが、伝統的に木管五重奏に組み込まれている。


 プログラムはモーツァルトのディヴェルティメントやポップスなどを含めた数曲で構成している。


 朱音のクラ(※クラリネットのこと)は女性らしい柔らかい発音や音色で、明るい音をしている。

 秋良はその音色を心地よく思っていた。


 今日は練習後に親睦を深めようと5人でお茶をすることになり、ファミレスに集まっている。

 朱音と秋良は同じ学年なだけで、学部も楽器も違うため普段は全くと言っていいほど交流はなく、話をすることもない関係だ。


 秋良の向かいの席に座った朱音は肩ほどの長さの髪が先の方でくるっとカーブを描いており、きれいな黒髪をしていた。

 美人というよりはかわいい顔立ちだ。


 メンバは曲について話したり、好きな曲や作曲家の話をしてしばらく盛り上がった。


 ひとしきり盛り上がった後で、秋良が向かいの席に座っている朱音に話しかけた。


「こうやって話をするのはじめてだよね」

「うん……。学年同じだよね」

「そうだね」

「……」


 会話が続かない。


「えっと、学部はなんだったっけ?」

「私は文学部」

「そうなんだ」

「そっちは?」

「俺は工学部」

「えー。難しそう」

「まあ。高校の時は理科とか好きだったし」

「ふーん……。ねえ、なんでホルンになったの? 初心者から始めるなら第一志望にはならないと思うんだけど」

「えっとー。中学の時に吹部(※吹奏楽部のこと)に入って、中一のときは希望してトランペット吹いてた」

「やっぱり。最初からホルン希望じゃないよね」

「そう。だけどホルンパートが卒業生が抜けると人数不足になるってことで、12月の定期演奏会が終わってからコンバートされたんだ。自前の楽器を持っていないのは俺ともう一人いてくじで負けた。それからはずっとホルン吹いてる」

「へー。運命的だね」

「なんで?」

「だってさ、椎木ホルンうまいじゃん」

「うん?」

「わたし、椎木のホルン前からいいなって思ってた」

「そ、そう言われるとなんというか嬉しいけど。あんま言われたことはないかな」

「そお? 椎木の音はみんないい音してると思ってると思うよ。直接言わないだけで」

「ぶっちゃけ、だいぶ頑張って練習したんだ。中2のときコンクールの審査員に『ホルンは基礎からやり直しましょう』って書かれてさ。悔しかった。毎日必死で練習したんだ」


 ホルンを演奏するようになって半年ほどだった。

 そもそも楽器を初めて一年半ほどなのだ。


「梅香崎もクラ、いい音してる」

「んふふ。そーおー」

 朱音は満足そうだ。


「一応レッスン受けたりしてたから」

「へーすごいな。やっぱりレッスンとか受けると違うんだね」

「椎木は受けたことないの?」

「ないよ」

「それでそんだけできるんだ。才能あるね」

「それなりだろ」

「まあ。言ってしまえば学生オケだからね。でも、音がいいの。私椎木のホルンの音好きだよ。あとメロディ吹くとき滑らかだよね」

「ありがとう。俺も梅香崎のクラの音もいい音だと思うし、吹いててクラと音がなじみやすいと思ってた」

「私も椎木とたまにメロディ重なると気持ちいい」


 朱音はにっこり微笑んで秋良を見る。

 秋良の心臓がどっくんと強く鼓動する。


「そろそろ帰ろうか」

 ファゴットの田上が立ち上がった。


 各自会計を済ませて、店を出ると朱音が秋良のそばに来て

「今日、話ができてよかった。また明日」

 と言うと振り返りながら笑顔で手を振って帰っていった。

「あ、うん。また明日」

 秋良も手を振り返した。

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