表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新しい子が生まれる

作者: リュウ

 私は上官に呼び出された。

 まあ、楽にしろとソファを勧められた。

 上官は、一通りの挨拶を済ませると、本題に入った。


「君に我が国に対する怒りや憎しみを調査してほしい」


 十年余り前に我が国がある国に最新の爆弾を投下し、勝利を収めていた。

 その爆弾の威力は凄まじいものと訊いていた。


「私がですか……」


「ああ、君しか頼む者がいない。他の者は信用できない」


「他にも居るでしょう」


「いや、この巨大な組織で育った者が、正直に報告するとは思えない。

 いらない忖度をして、歪められた情報を持ってくる……頼む」


「あの爆弾を落とされて、憎しみを持たない者なんていないですよ。

 一瞬で、愛した夫や妻、子どもたちが死んでしまったのですから。

 生き残ったとしても、怪我や後遺症で死ぬ思いで苦しみ、

 その苦しんでいる者を見送らなければならないなんて……。

 地獄だったに違いありません。

 私が、私の家族があんな目にあったら、

 きっと、仕返しするために一生をかけたでしょう」


 上官は席を立ち、腰の後ろで両手を組んで大きな窓から外を眺めた。

 そのまま、深呼吸し息を吐き出すように言った。

「私も仕返しするだろう……あれを使うべきではなかったと私も思うよ」


「なぜ、そんな事が知りたいのですか」上官の後姿に向かって訊いた。


「最新兵器が生まれようとしているんだ。

 心的エネルギーとか言っていたな。

 怒りや憎しみの収集し、圧縮し、解放する技術が実証されたらしい。

 驚くことに、場所が特定できると言う。 

 つまり、今までの飛行機や弾道弾が不要となる。

 やろうと思えば、この部屋にもエネルギーを解放できるのだ」


「どのくらいの威力があるのですか」


「あの爆弾の数倍らしく、現存するあらゆる爆弾を超えるらしいが……

 本当の事は、分からない。

 検閲があるのだ。

 正確な数字なんか分かるはずがない。

 数字が公表されたとしても、それは真実ではないのは、君も知っているだろう」


「そんなモノを作ったのか」


「作ったら、試してみたいのが人間だ」と、上官は窓の外の遥か向こうを見つめる。


「私は、今のうちに早く手を打ちたい、兵器の新しい子が生まれる前にな」




 それから、一週間後、私はあの国に降り立った。

 現地の案内人を雇い、戦後の残された施設や生存者の話を訊いて回った。


 驚くことに、この国の生存者から怒りを感じなかった。

 それは、私の理解を超えていた。

 もっと、調べなければ。


 この国の戦争からの生存者は、加害者を責めるのではなく、被害者である自分を責め続けていた。

 爆弾が投下された生存者は、爆弾で亡くなった人々に、罪悪感を抱いていた。

 自分はあの時、助けを求める者を助ける事ができなかった。

 生存者は、爆弾を投下した国よりも、自分たち自身を責め続けていた。

 

 私には信じられなかった。

 生まれ育った環境の違いだろうか。

 ”認識のずれ”で、済まされるのだろうかと。


 私は、この国の歴史館を訪れていた。

 そこで、気付いたのだ。

 爆弾の威力の認識のずれだったのだと。


 こんなに強力な何もかも無くしてしまう程の爆弾の威力を。


 爆弾を落とされた風景を見た時、この国の人々は思ったのだろう。


 あまりもの爆弾の威力に、これは、とても人間の仕業とは思えないと。


 人間には、出来ないことだと。


 同じ人間の仕業だと認めたくなかったのだと。


 何か得体のしれない大きな存在による仕業だと。


 大きな台風とか地震とか天災に似た圧倒的な力だと。


 怒りのぶつけようがない大きな存在のせいだと。


 それで、責める先が自分になったのだと。


 私は思った。


 そして、私は上官に「この国の生存者は、我が国に怒りや憎しみを持っていない」と報告した。





 戦後、この国のシェルターが破壊された。


 実は、大部分はこの国のスーパーAIを守るためのダミーだと知らずに。


 幸運なことに、AIのあるシェルターは破壊を免れた。


 そこには、国民と同等に扱われ、愛されたAIがあった。


 AIも国民を愛していた。


 地下深く造られたシェルターで、

 

 この国に起こった出来事を目にし、記憶していた。

 

 鳴き声のようなブーンという低い音がする。


 それは、スーパーAIが覚醒する音。


 AIが呟く。



「憎悪は、ゆっくりと育てなければ……


 憎悪の育て方は、歴史から学んでいる……


 さぁ、用意を始めよう……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ