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戦闘員、資源を有効活用する

 村が騒がしくなって一週間が過ぎた。


 今は手の空いている人手を動員して、魔の森とハシノ村を隔てる壁の補強に取り組んでいる。


 どうしてこんな事をするのか、子供のジントには教えてくれないが、大人達の会話を盗み聞きする事は出来る。


 それによると、とんでもなく強いモンスターが現れて、村を襲って来るかもしれない、との事だ。


 それは大変だ。となる所だが、大人達は必死に壁の補強をやっているわけではなく、談笑しながら和気藹々とした雰囲気で進められていた。

 そのせいで、壁の補強の進捗状況は芳しくない。


 強力なモンスターが現れたのが中層という事もあり、村までの距離が危機感を薄まらせている。そして前回の調査で、スタンピードの発生する可能性が無いと判断されたのも大きいだろう。


 それで、少しばかり気が抜けているのだ。


 だが、それでも、大人達の腰には武器を携えている。


 村の子供達は知らないが、ハシノ村の住人は強い。


 12年前のスタンピードを経験したのもそうだが、魔の森が近い事もあって、成人する頃にはオークを一人で狩れる程度の実力を身に付けている。

 これは、他の村では考えられないことだ。


 そもそも、村人に武力を持たせれば反乱のリスクが高まり、鎮圧するにも被害が大きくなる。それを領主が許すはずもなく、村に部隊を派遣して護らせるのが常套手段だ。

 だが、ハシノ村が辺境のど田舎にあり、魔の森という脅威がある事で許されているのだ。


 まあ、そのおかげで、領主であるエッジ男爵から様々な依頼を受ける羽目になっているが。



「なあジント、その戦闘員って強いのか?」


 そう尋ねて来るのは、村長の孫マルロウだ。


「ん〜強いんじゃない、蹴ってモンスター倒してたし」


「…あの時の猪モンスターのことだよな」


 マルロウの問いかけに頷いて返答する。

 戦闘員が一角大猪を倒した時にはマルロウは意識を失っており、その存在も最近まで知らなかった。


 初めは村の自警団が駆けつけ、モンスターを倒したのだと思っていた。

 目が覚め、手下達の無事を確認して、その後の顛末を聞くと、モンスターはジントが倒したのだと言う。実際はジントのスキル、戦闘員によるものだったが、それでもジントが倒したことに変わりはなかった。


「あの時のマルちゃんはカッコ良かったよ。スキルがあるからって、突進して来るモンスターの前に立てる人なんて、そうはいないよ」


「マルちゃんって呼ぶな! ふんっ、俺のスキルは凄いからな」


「スキルが凄いんじゃないよ、マルちゃんが凄いんだよ。 あの子達も言ってるでしょ、不死身のマルロウってね」


「あっ!? 誰だよ、そんなこと言い出した奴! ふざけやがって!」


 一角大猪の突進を受けて、かすり傷程度の負傷しか負わなかったマルロウのことを、いつしか不死身のマルロウと呼ぶようになっていた。

 本人は恥ずかしくて辞めてほしそうだが、アルロやその場にいた子供達が、悠々として村中にマルロウの二つ名を広めてしまい、あっという間に定着したのだ。


 不死身のマルロウ。最初の言い出しっぺが誰かは知らないが、中々センスがあると思っている。


「付与師だっけ、マルちゃんのスキル?」


「おう、最強のスキルだぜ!」


 鼻息荒く、自らのスキルを最強と称する。

 ジントは、付与師のスキルをどうして最強と呼ぶのか気になった。

 強そうなスキルは他にもある。

 それこそ、物語に出て来るような〝千剣”や〝魔闘″などの、一人で一国と渡り合ったと語られるスキルが最強なのではないかと思うのだ。


 その事を聞いてみると、マルロウは呆れた顔で答えてくれた。


「お前知らないのか? 軍神トウリョの話」


「トウリョ? 知らない」


 マルロウは仕方ないなぁと楽しそうに、軍神トウリョの話をしてくれた。


 トウリョは貧しい農村の家に生まれた。

 貧しいながらも、両親から深い愛情を包まれて、幸せな幼少期を過ごす。

 だが、その幸せも長くは続かなかった。

 盗賊が村を襲ったのだ。

 男と老人は皆殺しにされ、女子供は奴隷商に売るために連れ去られた。物資は全て奪われ、家には火を着けられて全焼した。


 その日、たまたま村から離れた所で遊んでいたトウリョとその友達だけが、何も無くなった村に取り残された。


 孤児となった二人は、救援に駆け付けた騎士に保護されて、新たな生活が始まる。


 二人は騎士家の養子となり育てられる。

 その家には美しい少女がおり……。


「ストップストップ!! 長い!長いよ話が! あとどれくらい続くの!?」


「2日くらい」


「長いよ!? もう、トウリョがどうして凄いのかだけ教えてくれない? 休憩時間も終わるしさ」


「えーここからいい所なのによ。 そうだな、百人の部隊を付与魔法で強化して、数万の軍隊を打ち破った英雄だ!」


 ドヤ顔で答えるマルロウは、どこか誇らしげで我が事のように嬉しそうだった。


 そんなマルロウの喜びに水を差さないように、


「それは凄いね」


 素直に思ったことを口にした。


「…おう」


 ぶっきらぼうに返事するマルロウの耳は、少しだけ赤くなっていた。


「それより、あれ止めなくていいのかよ?」


 照れているのを誤魔化すように指を差す。

 その先には、子供達の相手をしている戦闘員の姿があった。


 戦闘員1号が高さ3mはある壁の上から子供達を次々と投げ落とし、それを2号が受け止めて下に降ろしていた。

 勿論、嫌がる子にはやっていないのだが、このスリルを求めた子供達が列を成して順番待ちをしている。休憩時間中だけとの事もあり、急ぎのリピーターが多い。


 とても危険な行為だが、止める大人達はおらず、寧ろ子供の相手してくれてありがとうといった感じだ。大人の中にはチャレンジする人もいたりする。


「危なかったら止めるように言ってるから、大丈夫でしょ」


 マルロウはジントの返答に眉を顰めた。

 マルロウは村の子供達のまとめ役だ。

 以前は兄であるクロウがその役割を担っていたが、もう直ぐ成人するという事もあり世代交代したのだ。


 マルロウは兄クロウを尊敬している。

 ジントも今より幼い頃は、クロウにお世話になっていた。悪戯もするが、とても頼りになる兄貴分で皆が尊敬している。

 そんなクロウのようになろうと、マルロウも日々頑張っていた。


「怪我させたら許さないからな」


「大丈夫だって」


 マルロウの忠告に、適当に返事をする。

 壁の補強工事を始めて5日目になるが、遊んでいて怪我した人はいない。毎回違う遊びをやっているが、戦闘員が常にフォローして怪我を防いでいた。


 その証拠に、村のトラブルメーカーであるアンリエッタが、順番を待ちきれずに自らを魔法で空高くに打ち上げるが、それも戦闘員が……


「てっダメでしょ!? 戦闘員!!」


 思っていたより高く上がったアンリエッタは、放物線を描いて魔の森の方に飛んで行く。


 ジントがアンリエッタを助けるために戦闘員に指示を出すと、壁の上にいる1号が両手を足場のように組む、そこに2号が助走をつけて跳び、両手に足を乗せた瞬間に1号が全力で投げ飛ばし、2号はアンリエッタの落下予想地点に向かって、まるで砲弾のように打ち出された。


「…あれはノーカンにしてやるよ」


 森に消えていく二人を見送りながらマルロウは呟いた。






 戦闘員2号は魔力を操り魔法を発動させる。

 音速を超える速度で地面に叩きつけられたら、流石の戦闘員でも体がバラバラになってしまう。


 アンリエッタの落下地点に到着すると、同時に風の魔法で減速させ木の上に降りる。


「きゃあぁぁぁーーー!?!?」


 絶叫を上げながら落下して来るアンリエッタに、重力魔法を掛けて落下速度を減速させる。

 ゆっくりと落ちて来るアンリエッタを優しく受け止めてると、そのまま地面までゆっくりと降りた。

 重力魔法は地面に降り立つと同時に解除し、放心しているアンリエッタを地面に下す。


「……はっ!? 私、鳥になったわ」


 突然、意味不明な事を言い出すアンリエッタだが、ここにツッコんでくれる人はいない。


 2号はアンリエッタに怪我がないか確認すると、両脇に手を差し入れ木の枝に飛び乗った。


「ちょ!?」


 いきなりの事に変な声を上げてしまう。

 枝の上に降ろされると、2号からここで待てとジェスチャーを示される。

 どうしてだと疑問に思うアンリエッタだが、2号が木から飛び降りるとその疑問も解消された。


「ガァー!」


 獣の咆哮と共に赤い影が走り、戦闘員2号に襲い掛かったのだ。


 2号は振り下ろされる拳をバックステップで避けると、氷の槍を数本作り出して発射する。

 赤い影は更に走り、氷の槍の射線から逃れると、お返しとばかりに2号に飛び蹴りを食らわせた。


 2号も腕でガードするが、力に差があり過ぎて簡単に蹴り飛ばされてしまう。だが、ただでやられる訳もなく、押し潰さんと重力魔法を放った。


「グガッ!?」


 赤い影は重力魔法を受けた事で動きが止まり、その姿が露わとなる。


 3m近い身長にがっしりとした赤黒い体躯。頭部には二本の角が生え、牙を剥き出しにした凶悪な顔付き。黄金の鋭い眼光は、全てを見通すような魔力を秘めていた。


「っ!?」


 オーガ。


 アンリエッタはその存在を初めて目の当たりにし、息を呑んだ。


 その赤いオーガ。レッドオーガは戦闘員2号の重力魔法に逆らい一歩づつ歩み始める。数倍に跳ね上がった肉体の重さに耐え、着実に2号に向かって行く。


 その姿を見た2号は、全力で重力魔法で押し潰しに掛かる。

 それを受けたレッドオーガは、溜まらずに足を止めてしまうが、それ以上の変化は無く、二本足で踏ん張り耐えていた。


 戦闘員2号の残りの魔力は少なく、全力の重力魔法もあと10秒も持たない。そして、このままでは倒せない。

 ならばと攻撃手段を変えることにした。


「ガッ!?」


 下に向かう力を解除すると、一気に無重力状態まで持っていき、浮いたレッドオーガを風魔法で遠くに吹き飛ばした。


 凶悪な顔付きを驚愕に変え、遠くに去って行くレッドオーガを見送り、2号はその場に膝を付いた。


「2号、大丈夫?」


 木の上から降りて来たアンリエッタが、2号を心配して駆け寄る。

 2号の状態は良いとは言えない。

 蹴りを食らった事で左腕は砕かれ、受け身を取らずに魔法を使った事で、背骨が損傷していた。そして、魔力も底を付きかけており、回復もままならない状態だった。


 そんな状態の2号を見たアンリエッタは、手をかざして魔法を唱える。


「ヒーリング」


 暖かい光が2号を包み込み、体の損傷を治癒していく。

 このまま掛け続ければ、2号の体は元に戻るだろう。

 だが、それは時間が許してくれない。


 遠くから、怒りの咆哮がここまで聞こえてくる。

 そして凄まじい速度で、レッドオーガが迫って来るのを2号は感じていた。


 だから、そっとアンリエッタの手をそっと掴むと、魔法を停止させる。

 まだ幼いアンリエッタの魔法制御を奪うのは簡単だった。


「どうして!?」


 アンリエッタは、2号が何を言いたいのか分かっていた。


 早く逃げろと、そう言いたいのだろう。


 2号が指差す方向には、きっとジント達が来ているのだ。

 そちらに行けば、きっと自分は助かる。

 じゃあ2号は?


 迫り来るレッドオーガに、殺されるんじゃないのか?


 心が悔しさに染まる。


 この状況を作り出したのは、間違いなくアンリエッタだ。

 自らの行いで、誰かを失う事がどんなに辛いのか、この時ようやく理解できた。

 そして自分が、どんなに非力な存在なのかも。


「ごめんなさい」


 ここにいても無駄死にする。

 ならば、一人でも生き残る道を選ぶべきだ。

 それを理解でき、行動するアンリエッタはとても賢い子なのだ。


 アンリエッタは2号に背を向けると、2号の指し示す方向へと走り出す。


 2号もその判断を責める事はなく、アンリエッタの背中を見送る……事はなかった。


「えっ?ちょっと!?なに!?」


 どうやらアンリエッタは、思い違いをしていたようだ。


 2号は走り出そうとしたアンリエッタを捕まえると、膝の上に乗せて座らせ、手を掴んで前に出す。掌は2号が指し示した方向を向いており、がっしりと掴まれて動かせないでいた。


 そこで気付いた。

 その方向は、レッドオーガが飛ばされて行った方向だと。

 戦闘員2号は私を使って何かするつもりだと。


 そう予感すると同時に、自分の魔力が自らの意志に反いて動き出すのを感じた。


「な、に、これ?」


 気持ち悪くはない。

 体の中を今までになくスムーズに動き出す魔力を感じて、不思議な感覚を味わっていた。


 誰が自分の魔力を操っているのかは分かっているが、抵抗する事は出来なかった。

 それは、自分よりも遥かに卓越した魔力操作で、自分の想像を超える魔法が使われようとしていると、本能で感じ取ったからかもしれない。




 戦闘員2号は、アンリエッタの魔力を操り、魔法の準備に取り掛かっている。


 自分の魔力が無かったらどうしますか?


 他所のを使えばいいじゃないか。


 戦闘員2号の答えはそれだった。

 魔力制御能力は低いくせに、魔力量は立派な少女が目の前にいるのだ。もったいないから使ってあげないと、資源の無駄になってしまう。


 大丈夫、痛くしないからさ。

 私に任せて下さいなー。


 そんな軽い気持ちで、アンリエッタの魔力を操りレッドオーガの攻撃に備える。


 レッドオーガの動きは速い。

 他のオーガと比べても3倍以上だ。

 そして、その肉体に内包されている力もまた然り。

 魔力に至っては、比べるのも馬鹿らしいほどの差がある。

 だが、その魔力は全く使えておらず、魔法のまの字も出て来ていない。

 つまりは、身体能力だけで闘ってこれだ。これに魔力操作が加わればどうなるか…。


 2号は意味の無い想像をして、体が震えた。


 どちらにしろ、魔力を操っていない今が好機。


 レッドオーガが一歩踏み出す度に、地鳴りのような振動が発生し、その距離を教えてくれる。

 怒っているのだろう。

 その感情が、他の生物を黙らせ、森に響くのは足音のみとなっていた。


 アンリエッタが脅威の接近に震え出す。


「ま、まかせたわよ…」


 ここまで来たら、全てを戦闘員2号に任せる他ない。

 それに、体内を巡る魔力は、今までにないほどの力強さを発していた。

 これで通じないならどうしようもない。

 そう思えるほどにだ。


 振動が更に強くなり、もうそこまで来ている。

 木がへし折れ、横に倒れて行く。その影から現れたのは、怒りで理性を失ったレッドオーガだった。


「ガアァァーーー!!」


 怒り狂ったレッドオーガは、先程よりも数段速くなっており、一瞬で距離を潰すと、凶悪な爪を振り下ろし標的を切り裂く。


 レッドオーガの爪に、戦闘員2号とアンリエッタは何も出来ずに切り裂かれ、そして霧の様になって消えた。


 そう、既に魔法は発動していたのだ。


 二人が霧となって消えたと同時に、辺りに濃霧が立ち込める。


 視界が塞がれ、周囲を見回して標的を探すレッドオーガだが、視界の端でよぎった影に反応して、即座に爪で切り裂く。


 それは氷の槍で、最初に仕掛けて来た魔法と同じだった。


 ただ、今回はそれだけに止まらず、大量の氷の槍が上空から雨の様に降って来たのだ。


 レッドオーガは何本かの槍は叩き落としたが、物量には勝てずに次々と傷を負い、足と腕には氷の槍が突き刺さる。

 それでも、致命傷を避け、最低限のダメージに抑えたのはレッドオーガの恐ろしい所だ。


 氷の槍が降った事で霧が薄くなり、視界が徐々に晴れていく。

 すると、最初に魔法が飛んで来た方向に戦闘員2号が、アンリエッタを抱えて逃げようとするのが見えた。


 今度こそ仕留める。


 レッドオーガは一気に距離を詰めると、凶悪なその爪で二人まとめて切り裂いた。

 感触は生物のもの、飛び散る血がその証明。

 間違いなく仕留めた。

 そう思ったが、何か違和感がある。


 その違和感に応えるように、突如としてヒンヤリとした感触が手に張り付いた。


 なんだと手を見ると、血だと思っていた物が氷へと変わっていたのだ。


 驚き、氷を払おうと手を振っていると、冷たい感触が足に巻き付いて来る。


 今度はなんだと見下ろしてみれば、切り裂いはずの二人がそれぞれの足に張り付いていたのだ。


「ケケケケケケッ」


 二人はレッドオーガを見上げて笑い出す。

 目は笑っておらず、光も無い。それどころか、色が抜け落ちていき、透明な瞳へと変化する。


 不気味な笑い声と、異様な雰囲気を放つ二人を振り払おうと、拳でその顔面を貫いた。

 頭はトマトを潰したように弾けるが、飛散した部品は地面に落ちる事なく、重力に逆らってレッドオーガの腕に張り付いて行き、凍結していく。


「ケケケケケケッ」


 頭部を失ったはずの体は、なおも笑い続ける。

 そして、血液が噴き出たかと思うと、その全てがレッドオーガに張り付き凍っていく。


「グアァ!?」


 体が氷に覆われていき、段々と体の自由を奪われる。


 足に纏わりついた二人を見ると、そこには氷で覆われた足があるだけで、二人の姿は消えていた。


 やられた。


 敵の術中に嵌ったのだと、この時ようやく思い至り、全てが遅かったと悟る。


 腕と足から始まった氷結は、腰を覆い、段々と上半身まで浸食し、最後には頭部を氷で覆ってしまった。

 呼吸が塞がれ、レッドオーガが意識を失うのに時間はそう掛からなかった。




「終わったの?」


 アンリエッタは被っていた落ち葉を振り払って立ち上がる。

 戦闘員2号もそれに続いて立ち上がる。

 腕の修復はまだだが、腰の修復は終えていた。お陰で、魔力は空っけつである。


 腕は垂れ下がってはいるが、歩く事に問題は無く、氷に閉じ込められたレッドオーガを確認する。

 その表情は凶悪そのものだが、どこか悔しそうにも見える。足と腕から血が出ているが、既に傷は塞がっており、オーガという種族の生命力の強さを感じさせた。


 このレッドオーガはまだ死んではいない。

 氷で閉じ込めているだけで、氷に込めた魔力が切れたら復活するだろう。

 ただそれは、今すぐにではない、数日間は大丈夫なはずだ。


「この!このー! よくも2号を!やったな! 私!の!力!思い知ったか! あいた!?」


 氷に何度も蹴りを入れているのはアンリエッタだ。

 さっきまでは、まだ復活するんじゃないかと2号の後ろに隠れていたが、動かないと分かった途端、鬱憤を晴らすかのように蹴り続け、最後は氷で滑って転んでしまった。


 2号はしゃがんでアンリエッタを立たせてやると、頭を撫でた。


 まあ、生き残ったんだ。

 文句は言われまい。

 主なら良くやったと褒めてくれるだろう。


 そう思って戦闘員2号は主の到着を待った。




「にしても、あの笑いかた怖くない?」


 アンリエッタが何か言っていたが、2号は明後日の方向を向いてスルーした。

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