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戦闘員抗議する

 今いるのは家の庭。

 洗濯物が風に揺られて、パタパタと鳴る。


 庭の用途には洗濯物を干す以外にも、天気の良い日に外でランチが出来るようにウッドデッキが並べられている。


 今、そこに腰掛けているのは最年長のジント、その幼馴染のアンリエッタ、ジントの妹のリーナ、アンリエッタの弟のアルスロットの4人である。


 そして、ジントの背後には、当然のように戦闘員が立っていた。


「はい、どうして皆んなに集まってもらったか、分かる人いますか!?」


「はい!」


「はい、リーちゃん」


「はい、これからオヤツ食べるためです!」


 アンリエッタに当てられて元気良く返事したリーナは、目の前のテーブルに置いてある大量のお菓子を見て言った。

 このお菓子の山は戦闘員が用意した物だ。

 クッキーやプリン、ケーキやドーナツ、ジェラートなどの様々なお菓子が準備されている。


 ご近所のお子さんが、こちらを物欲しそうに見ている。手招きしてお菓子を幾つか渡して上げると、喜んで帰って行った。


「もう!リーの食べる分が無くなっちゃう!?」


 妹様は、勝手にお菓子を渡した事にお冠の様子だ。


「ちょっと!? 話を聞きなさい! リーちゃん、私が言いたいのはお菓子の事じゃないの。戦闘員について話したいの!」


「アルスも遠慮せずに食べて良いよ。この量は配らないとなくなりそうにないからね」


「だーかーらーっ! 話を聞きなさいよ!!」


「姉ちゃん、うるさいよ」


「ムキーーっ!?」


 テーブルをバンバン叩きながら、絶叫するアンリエッタを見て、これ以上は不味いなと話を聞く事にした。


「戦闘員がどうした? 昨日から何も変わってないでしょ?」


「数が増えてるでしょ!? どうなってんのよ!?」


 ああそれねと戦闘員が増えた理由を説明すると、また何でジントばっかりずるい!と怒り出すアンリエッタ。


 口の中にお菓子を放り込むと、なんとか落ち着きを取り戻したが、今度は別の疑問が浮かんだようだ。


「モキュモキュゴクン、増えた戦闘員って前からいたのと同じなの?」


「ん?違うけど」


「どう違うのよ?」


「全然違うよ、見た目も違うし得意な事だって違うよ」


 ジントに言われて戦闘員を見る。見る。よ〜く見る。


「一緒じゃない!?」


 見分けがつかなかった。

 全身黒で顔に∀が描かれており、手とベルト部分が白くなっているだけの戦闘員のどこに違いがあるのか分からない。


「最初に出た方がこっちで、次に出たのがこっちだよ。ほら、こっちの方が丸みがあるでしょ」


「分からないわよ! あんた達分かる?」


「わかんなーい」

「わからん」


 二人の返答にほら見なさいとジントの顔を見て抗議する。

 頬をかいて、困ったなという表情をする。


 識別出来ないと言われても、どうにか出来る訳もなく、そもそもスキルで召喚された戦闘員を個別で認識する必要があるのかも疑問だった。


「皆んなは戦闘員がどの戦闘員か分かった方がいいの?」


 ジントの質問に三人は、それぞれ分かった方が良いと返答する。

 そういうものかと思い、戦闘員に視線を移す。


「何か識別出来るように、見た目を変えたりって出来る?」


 戦闘員達は、それくらい任せろと力強く胸を叩く。

 何と頼もしい存在なのだろうか、これならきっと分かりやすくしてくれるはずだ。


 そんな期待を胸に戦闘員達を見ていると、何処からか取り出したペンキを手に、お互いの腹に「闘」「魂」と記入した。


 そして、ドヤ〜と言わんばかりに仁王立ちで自己主張して来る。


「いやいや読めないよ! 何なのその印!?」


 残念ながらこの世界に漢字は無い。熱い魂の文字は、誰にも読まれる事なく消えて行くのだろう。


 それも遠くない未来、少女の手によって。


「ちょっと貸しなさい」


 そう言って戦闘員からペンキを奪ったアンリエッタは、ぺっと一度黒で闘魂の文字を消すと、すかさず1と2の文字を上から書いた。


「これで分かりやすいわね!」


 驚いている戦闘員はアンリエッタに抗議する。

 何てことしてくれてんねん。俺たちの魂やったんやぞワレェ〜。なんてことを言ってるかは分からないが、アンリエッタにキィキィ怒っている。


「酷いよアンリ!戦闘員達が怒ってるじゃないか!」


「何で怒んのよ?」


「オシャレだって」


「もっと別の物でやりなさいよ!」


 戦闘員のオシャレはボディペイントだけのようだ。

 いつでも塗り替え可能な、自由で究極のオシャレなのかもしれない。


「これから貴方達は1号、2号と呼ぶわ。いいわね?」


 勝手に命名するアンリエッタに更に抗議の声が飛ぶ。

 しかし、キィキィ以外の言葉が出ることはなかった。


「何て言ってるの?」


「〝私達にも名前位ある。太陽から生まれし壱の生命、アイン・サン・シュトロバス・パスデットホォルダー・アンダーソン”〝聖なる銀河から舞い降りた一輪の花、その名もツヴァイン・デスサイズザマス・ハイペリオン・エクスプレス・ミルキーウェイ”だそうだよ」


「長いのよ! ていうか、何で私がツッコミに回らなくちゃいけないの!? ジントの役目でしょ!」


 いい加減疲れて来たのか、息切れを起こしている。


 いいぞ、日頃、僕がどんなに大変なのか知るといい。


 アンリエッタはお茶を一気に飲み干すと、戦闘員に詰め寄った。


「あなたが1号!あなたが2号!もうこれで決定! いいわね!?」


 最後はジントに向かっての確認だ。

 その問いかけに頷いて了承した。


「それにしても、ジントは戦闘員の言葉が分かるのね」


「えっ? 分からないよ。適当」


 その言葉に一番驚いていたのは戦闘員だった。






 魔の森の調査を開始して5日が経過した。


 これまでの調査では、モンスターが大量に発生しているような兆候は見当たらず、一角大猪が北の森に現れたのも偶然だと思えた。


 魔の森を奥に奥にと足を進めて行き、戦闘を避けるのが難しい中層へとたどり着く。


 魔の森は五つの階層に別けられている。

 浅層、上層、中層と続き、人の進入を拒む下層、深層となっている。


 魔の森でスタンピードが発生する要因は二つ。

 深層あるいは下層でモンスター同士の争いが発生し、追われた一方が中層へと流れる事で、居場所を追われたモンスターが次々と外を目指して行き森から溢れ出す。

 これは自然発生型と呼ばれ、規模としては人で対処可能なスタンピードと言われている。

 尤も、甚大な被害が出るのに変わりはない。


 自然発生型に比べて厄介なものは、支配型と呼ばれるスタンピードだ。


 モンスターの上位種の発生に伴い起こるスタンピードで、その上位種は人以上に知恵が回り、軍を形成して襲って来る。

 人の力では抗うこと敵わず、逃げなければ命を呑まれるしかないと伝えられている。


 何故、伝えられているのか、それはこの数百年発生してないからだ。

 発生すれば多くの生命が奪われ、多くの国が無くなる。

 そんな軍を形成する上位種を人は〝魔王”と呼んだ。




 先頭を行く狩人がハンドサインで停止の合図を送る。

 ここから300メートル先にモンスターがいるようだ。


 自警団の副団長を務めるトシゾウは、他の面々を待機させると、狩人のクーイと共にモンスターを確認する為に移動する。


 戦いは可能な限り避けたい。

 連日の移動で疲労が溜まっているのもあるが、中層でモンスターと戦いになれば、早急に倒さなくてはならなくなるからだ。あまり時間を掛け過ぎると、他のモンスターを呼び寄せてしまい連戦するはめになる。


 先行する狩人の後を着いて行くと、突然立ち止まった。


 到着したのかと思い、狩人の肩を叩く。すると驚いて振り返った狩人は、トシゾウに向かってゆっくり戻れと合図を出す。


 その行動に訝しんだトシゾウは、何があるのかと狩人の背から覗き込む。


 そこには、赤い一体のオーガが、多くのモンスターを喰らい腹を満たしている姿があった。


「ーなんっ!?」


 その光景を見て絶句したトシゾウは、思わず声が出そうになり、それを狩人が止めた。


 異常だ。異常なオーガがいる。

 オーガは好戦的なモンスターだ。敵と見做せば、容赦なく執拗に命を奪いに来る恐ろしいモンスターだ。

 だが、そんなオーガでも同族に対しては、敵対していたとしても命までは奪おうとしない。


 それがどうだ。

 今、見ているオーガの周囲には、沢山のオーガが横たわっている。

 多くのオーガの瞳に光は無く、体の一部が欠損し、中には四肢が切り離されながらも、まだ息のある個体までいる。


 その同族が倒れた中心で、赤いオーガは同族の一部をむしり取ると、そのまま口に運び、まだ息のある苦しんでいるオーガを食い入るように見ている。

 それを見て何が楽しいのか、凶悪な笑みを浮かべる赤いオーガは、息のあるオーガの頭部を踏み潰して、更に醜悪な笑みを浮かべていた。

 

 トシゾウと狩人は少しづつ後退り距離を取っていく。

 気付かれたら、そこで終わり。

 あのオーガは相手にしてはいけない。


 鼓動が速くなり、本能が早く逃げろと訴えかけて来る。


 そして、トシゾウのスキルが告げる。

 北の森に一角大猪が逃げ込んだのも、全部こいつが原因だと。


 森の静けさが煩わしく感じる。

 物音一つ立ててはならないと、緊張が襲う。

 一歩一歩確実に距離を取り、そしてオーガを目視できない距離まで来ると、素早く反転し仲間の待つ場所へと駆け抜けた。


 合流した調査隊は、来た道を戻り上層に到着する。


 切羽詰まった副団長の様子に、事情を聞く暇も無く走り抜けた他の面々は、副長にその時の様子を聞いて顔を青くする。


「いいか、落ち着けよ。 奴は俺達に気付いていない、だが安心という訳ではない。村長に報告して備えるんだ。俺達だけじゃ無駄死にになる」


 今回の調査隊のメンバーは、村の中でも実力者で集められている。それこそ、相手がオーガならば一対一であれば倒せるほどの力があり、12年前に起こったスタンピードを経験した歴戦の戦士達である。


 中でもトシゾウの実力は頭ひとつ上であり、今回の長を任されている。


 そのトシゾウが無理だと断言したのだ。

 ならば早急に撤退すべきだ。


 休憩もそこそこに、村に向かって歩き出す。



 背後からついて来る脅威に気付かぬまま。

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