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戦闘員、増える。

 夜遅く、村の大人達が村長宅の広間に集まっていた。

 いつもなら寝てる時間帯なので、何名かは眠たそうにしている。


「それで、北の森から一角大猪が出たってのは間違いないんだな?」


「ああ、間違いない。既に解体しているが、奴さんの角ならそこに置いてある」


 今話題となっているのは、昼間に現れた一角大猪というモンスターについてだ。

 ざわつく室内で、上座に座る村長のモロクが口を開く。


「皆の衆、落ち着いてくれ。皆に集まってもらったのは、今しがた話題に上がっていた一角大猪についてじゃ」


 モロクが話始めたことで室内は静まり、村長の話を聞こうと耳を傾ける。


「知っていると思うが、一角大猪は魔の森に生息するモンスターじゃ。それが北の森に現れた。他所から流れて来たかもしれんが、その可能性は低いと思っとる」


「それは何でだ?」


 村長の判断に疑問を覚えた村人が質問する。


「一角大猪の体に、オーガの爪の傷が付いておった。一角大猪とオーガが生息している場所は、魔の森以外で儂は知らん」


「魔の森のモンスターは、境界の川を渡れないんじゃないのか?」


「だから異常事態なんじゃよ」


 魔の森と北の森は、川を挟んで隣接している。

 川を挟んでいるだけで、二つの森は遠く離れている訳ではない。

 それなのに、魔の森と北の森に生息するモンスターの種類は違っている。北の森は比較的大人しいモンスターが多く、攻撃しない限りは襲って来る事はない。


 だが、それに比べて魔の森は獰猛なモンスターが生息している。力の無い者が入れば、十分と待たずにモンスターの胃袋に収まることだろう。


 その凶悪なモンスターが北の森に来ないのは、川があるからだ。


 川があるからモンスターは北の森に行けない。

 これは間違いない。

 川の流れは急な箇所もあるが、比較的穏やかで渡る事は可能だ。それなのに、魔の森のモンスターは渡ろうとしないのだ。


 その理由を知るために、魔の森の中でも弱い部類に入るオークを生捕りにして、川に近づけたところ、オークは気が狂ったように発狂し、泡を食って逃げ出した。


 その様子を見て、川の上流、森の先にある山には、伝説のドラゴンが住んでおり、川に体液が流れているのではないだろうかと噂されるようになった。


 そして、そんな川を渡って一角大猪が北の森に来ている。

 それは、魔の森で何かが起こっているに違いないと村長は考えたのだ。


「以前にも北の森で、魔の森のモンスターが現れたことがある。 この十年で、新たに越して来た者は知らぬかもしれんがな」


 十年。その単語に反応したのは昔からいる住人達。

 新たに村の住人となった者で、首を傾げているのは僅かな人数だが、昔に起こった事件を知る者は何を言っているのか察する事が出来た。


「まさか、村長は大暴走(スタンピード)が起こると考えているのか?」


「可能性じゃが、あると思っとる」


 村長の言葉に、集まった者達に緊張が走る。

 更に村長は続ける。


「明日、自警団の者と狩人は集まってくれ、調査を頼みたい」


「分かった。来てない奴らにも伝えておく。

 …なあ村長、ジークやファルゴ達は呼び戻せないのか?」


 自警団の男は、今朝方、護衛で村を出て行った者達の名前を上げる。

 今回の護衛任務に付いた者は、誰もが実力者であり、村の主力メンバーだった。村の防備に数名残されているが、スタンピードを耐えれるとは思えなかった。

 そもそも、このタイミングでスタンピードが起こるとは想定していないのだ。


「ならん、男爵家との約束はすでに成っておる。それにの、まだはっきりしない状況で報告することは出来ん。明日からの調査次第で救援を要請するつもりじゃ、それで良いか?」


 村長の判断に口出しする者はいなかった。

 その後は、前回のスタンピードを振り返り、対策を練っていった。


 時間も遅くなり、この場は解散となる。

 明日、また集まってくれと村長に告げられ、家に帰って行く。


「ああ、ロイドや少し残ってくれんかの?」


 村長に呼び止められた男性は、振り返って頷く。

 白銀の髪に端整な顔立ちの優男は、村人の中でも異彩を放っており、村の中でも一目置かれる存在だった。



 他の村人達が帰り、村長宅の広間には村長のモロクとその息子のジグロ、そして呼び止められたロイドが残された。


 上座に座っていた村長はロイドの前に席を移動すると、息子のジグロと共にロイドに頭を下げた。


「やめてくれ村長、もう貴方の仕えるべき人物はいないんだ」


「いえ、いいえ、儂の忠誠は、亡きボルドージャ様に捧げております。そしてその御子息であるロアルド様への忠誠も、また同義でございます」


「困ったな。ジグロも止めてくれないか?」


「諦めてくれロイド。親父の頑固は今に始まった事じゃない、人前でやらないだけマシだと思ってくれ」


「こりゃ、ロアルド様に向かってなんちゅう言葉使っとるんじゃ!」


「モロク止めてくれ、私は叔父上に見逃された死に損ないでしかない。そんな私に頭を下げても仕方ないだろう?」


「貴方様が死に損ないなら、儂は主人を一人冥府に送り出した不忠義者の死に損ないでございます。どうかこの命、使わせてはもらー」


「親父もうそのくらいで、話が進まない」


 息子に遮られて不機嫌な顔をする村長は、一度咳払いをすると改めてロイドと向き直った。


「ロアルド様、もしスタンピードが発生したならば、ご家族を連れてお逃げ下され」


「……それは出来ない」


「何故です。ラビトニア侯爵家を頼れば、ご家族の安全は約束されるのですぞ、貴方様が望めば王位にー」


「モロク! それ以上はいけない。私はそんな事望んでいない。そして、もうロアルド・ヒノワルドという人物はいないんだ。ここにいるのは、ハシノ村のロイドという村人なんだよ」


 ロイドは視線を落とすと言葉を続ける。


「私は最後まで、この村のために、村人を守るために戦うつもりだ。 許せよモロク、私はこの村が好きなんだ」


「……仕方ありませぬな。頑固さだけはボルドージャ様譲りのようで、困ったものです。 せめてジークハルト達が残っていれば、まだどうにかなったのですがな」


「親父、まだスタンピードが起こると決まった訳じゃねーだろ。ロイドも村を大事に思うのは良いが、家族の安全くらい考えてやれよ」


「あはは、耳が痛い。 話は終わりかな? 帰ってアンリエッタを叱らないといけないんだけど」


「ええ、もう御座いませぬ」


 村長の返答を聞いて、ロイドは村長宅を後にする。

 娘のアンリエッタが無茶をしたと聞いている。娘が心配なのと、今後同じことをしないように叱らなければいけない。


 隣の親友の息子もやらかしたようだが、そっちはリリアナが怒っていることだろう。


「私達の子供達はやんちゃだな」


 今は遠くにいる親友の顔を思い浮かべて呟いた。







「それで、なんで増えてるの?」


 母リリアナに聞かれて、肩をすくめて手を横に開いて知らないと答える。その時に明後日の方向を見て、唇を尖らせることも忘れていない。


「痛っ!?なんで叩くの?」


「ジントの顔が気に入らなかったのよ」


「酷い!あなたの息子だよ!?」


「黙らっしゃい! 早く、お母さんの質問に答えなさい」


 仁王立ちしてジントを見下ろす母は、二人並んだ戦闘員を指差していた。


「キィ!」


 戦闘員二人は母の言葉に反応して、右手を上げて返事をする。

 二人は直立不動の姿勢…ではなく、母に言い付けられた家事をしながら、こちらに耳を傾けている。


「そんなの分からないよ、朝起きたら増えてたんだ」


「じゃあ昨日、何かあっ……たわね。そうね、昨日モンスターを倒したって言ってたわね」


「うん。僕めちゃくちゃ怒られたんだから覚えててよ。モンスターは戦闘員が倒したんだ」


 昨日のことを思い出してゲンナリする。

 一角大猪を倒したあと、村の自警団の人達が到着して、色々と質問された。


 どうしてここにいるのか、どうしてモンスターがいるのか、どうして皆無事なのか、どうやってモンスターを倒したのか、どうしてマルロウだけが怪我をしているのかなど、様々な質問をされた。


 終わった頃には日も落ちており、家に帰るとリリアナの説教が待っていた。

 どうして逃げなかったのか、どうして危険な事をしたのか、モンスターを見たらまず逃げろと口酸っぱく言い聞かされた。


 皆んな無事に帰って来たんだから良いじゃないか。

 そう思うのは、心配する側の気持ちを理解していないからだろう。


「多分それね。モンスターを倒してレベルアップした可能性があるわね」


「レベルアップ?」


 ジントは初めて聞く単語に首を傾げる。


 神から授かったスキルには、段階的に成長する事がある。

 それは、経験や何らかの道具によって齎され、その現象をレベルアップと言う。

 レベルアップするスキルは戦闘系に多く見られるが、殆どの人は、スキルのレベルアップを経験せずに終わりを迎える。


「見た目で分からないスキルも多いから、その点、ジントのスキルは分かりやすいわね」


「じゃあ、僕はラッキーだったんだね」


 ジントは説明を聞いて、そう結論を出した。

 レベルアップ出来るスキルを授かったのもそうだが、成長を実感出来るスキルは、それだけで人をやる気にさせる。

 その事を理解して、ジントは自分を幸運だと思ったのだ。


「あら、もう終わったの?」


 二人が会話をしていると、仕事を終えた戦闘員達が次の指示を待っていた。


「母さんどうするの?」


「そうね〜、玄関掃除でもしてもらおうかしら」


「出来る?」


「キィ!」


 元気良く返事をした戦闘員達は、真っ直ぐに並んで玄関掃除に向かった。


「助かるわね〜。一家に一人欲しい人材だわ」


「やだよ、僕の戦闘員は家政婦じゃないんだよ」


 良く働く戦闘員を見送り、その有用さを見出したリリアナは絶賛した。


 戦闘員が玄関掃除を始めて暫くすると、隣の幼馴染が遊びに来る。

 いつも通り、ノックも何もなく入って来るのは、ここを既に我が家だと認識しているのかもしれない。


「ジント〜遊びに来たー!?イーヤーーッ!!」


 そして、昨日と同じくぶっ放されるファイアーボールは、戦闘員のツインシュートによって空高く打ち上げられたのだった。

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