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戦闘員……。

 物心ついた時からモロクは近くにいた。


 その頃のモロクは父上の従者であり、よくいる配下の1人だった。


 そんなモロクと親しくなったのはいつの頃だろうか、食堂で摘み食いしているところを見逃してもらった時だろうか、父上の大事な絵に落書きしたのを庇ってもらった時だろうか、城の頂上から転落した所を魔法で助けてもらった時だろうか、魔法の練習で城を燃やした時に助けてもらった時だろうか、とにかくモロクにはたくさん助けてもらった記憶がある。


 いつも、無事で良かったと安堵して、坊ちゃんはやんちゃですなと言って笑い飛ばすのが印象的だった。

 これで許されたと思っていたら、代わりに他の大人たちにコッテリと叱られて、話が違うじゃないかと不貞腐れた時もあった。


 そんなモロクは、国の端っこにあるハシノ村の出身だと教えてくれた。

 なんだその安直な名前の村はと思ったが、それよりも、城に平民が立ち入っている事に驚いた。


 詳しく話を聞くと、ハシノ村で人生を終えるのが嫌だったらしく、13歳になった次の日に村を飛び出したらしい。


 そんなに村での生活は過酷なのかと尋ねると、隣接する魔の森でスタンピードが起こった時に、領主に報告するために造られた村なんかいたくないでしょ、と返された。


 そうだなとその時は頷いたが、将来そこに住むとは思わなかった。


 村を出たモロクは、領主が住む町に到着して直ぐに倒れたそうだ。村を出て何も食べてないのが原因だったらしい。


 行き倒れたモロクを拾ったのが、当時視察に訪れていた父上だ。


 モロクを拾った父上は、何の気まぐれか自分が面倒を見ると言い出し、その身を引き受けた。

 当時、洗礼を受けていなかったモロクに洗礼を受けさせ、スキルを与えた。そのスキルは〝魔力操作”で大変驚かれたようだ。


 そこから父上の従者として恥ずかしくないよう教育が施され、ある事件を解決した折に騎士爵を得る。


 モロクは恥ずかしそうに当時の事を語るが、その中で命を救い、生きる道を示してくれた父上、ボルドージャ公への感謝の思いと忠誠心が感じ取れた。



 よく笑い、面倒見の良いモロクは父上からの信頼も厚く、部下からも慕われている尊敬すべき存在だった。







 赤黒い線が走り、ロイドを貫かんと迫り来る。


 極光の対レッドオーガの魔法は敗れ、赤黒い線と衝突すると四方に割れて飛んで行く。


 スローモーションでその景色を見ていると、離れた所にいたソフィアがこちらに駆け寄ろうとしていた。それを止めたいが、時間は残されていない。


 妻の顔を見ると、この村での出来事が走馬灯のように駆け巡る。


 城にいた時と比べて、その暮らしぶりは大きく変わり失った物も多かったが、それ以上に沢山の物を手に入れた。


 妻であるソフィアや娘のアンリエッタに息子のアルスロット、友人のジークハルトにモロクやジグロ、村の皆んなと過ごす毎日はとても充実していた。


 妻を心配させまいとほんの僅かな間だが、笑顔を向ける。


 ソフィア達はこの後どうなるだろうか、娘のアンリエッタは見た目は妻に似ているが、中身はまんま幼い頃の私だ。アルスロットは剣に興味があるみたいだけど、大丈夫かな。



 ……心配だな。



 ドンッと衝撃を受けて吹き飛ばされる。


 赤黒い線が到達する寸前に、勢いよく飛ばされ風を纏った。


 何が起こったのか理解できないロイドは、衝撃を受けた方向を見ると、そこにはホッとした顔のモロクがいた。


「……モロ…ク」


 モロクは赤黒い線に貫かれるが、笑顔で口を開いた。


「無事で良かった…」


 爆発がモロクを消し去り、近くにいたロイドを吹き飛ばした。



 砦は破壊され、砦の上に残っていた戦士達は、その爆発に巻き込まれて多くが命を落とし、赤黒い線上にあった物は全て破壊され、人は跡形もなく消し飛び、近くにいた者は大怪我を負った。







「カブキリさん…」


 爆風で前に転がったジントは、カブキリがいたはずの家を見て唖然とした。

 家は跡形もなく無くなっており、その周囲にあった建物も破壊されている。

 この惨状の中で人が生きているとは思えず、カブキリもつまりは……。



「……何が起こってるの?」


 突然爆発したかと思えば、その破壊の痕跡はそこだけには留まらず、遥か先まで続いている。


 その方向には避難所がある。だが、あそこに避難していた人達は、既に別の場所に移動しているはずだ。


「大丈夫…大丈夫よ…」


 早くなる鼓動を落ち着けるために。シトウは自分に言い聞かせる。

 あそこにはシトウの娘もいた。

 きっと大丈夫。大丈夫…。


「シトウさん、早く行きましょう」


 傍にいたジントに言われてハッとする。

 ジントは砦がある方向を見ており、何か焦っている様子だ。


 そんなジントにシトウは告げる。


「ダメよ。あなたは早く避難して、足手まといにしかならないから」


 その言葉の意味を既に実感しているジントは、歯を強く食いしばる。

 邪魔になるのは分かっている。

 ジントよりも強いカブキリでも敵わなかったモンスターが、この先にはまだまだ沢山いるのだろう。

 それでも、それでも行かなければならない。


 さっきから強く強く、時間がないと戦闘員から伝わって来るのだ。


「あっ、待ちなさい!」


 だからジントは、シトウを置いて走り出した。

 あの場所にあった砦は、さっきの爆発で無くなっている。


 あそこで何かあったんだ。


 あそこから戦闘員の意志が伝わって来る。


 焦る気持ちが足に伝わり、一層足を速くする。

 しかし、角を曲がった所で足に何かが引っ掛かり転んでしまった。


「いっつ……バッサンさん…」


 足を引っ掛けたものは、首を切られ腹を失ったバッサンだった。

 手には剣が握られているが、その剣は半ばで折れており武器として使えなくなっていた。


 よく知る人物の亡骸に、恐怖から足が震える。


 顔を上げ、道の先を見ると、そこには沢山の村の戦士達が横たわっていた。


「…そんな」


 小さい頃に遊んでくれたお兄さん。アンリエッタが迷惑をかけたお姉さん。自警団で皆んなを守ると言って笑っていたおじさん。昔は冒険者やってたと自慢していた宿屋のおばさん。他にも沢山、皆よく知る人達だ。


「…うっ」


 吐き気が込み上げて、口を手で押さえる。


 周囲の家屋が焼けた臭いと、濃い血の臭いが漂う中で、それでもジントは足を進める。


 こんなことがあって良いはずがない。


 昨日までの日常が破壊され、親しかった人達の亡骸がそこにはあった。


 背後でシトウが同じように驚いているのが分かる。

 いや、受けている衝撃はジントよりも強いようで、その場に座り込んでしまった。


 チラリと振り返ると、泣いているシトウの姿があった。

 何があったのか知らないが、気にする余裕が今のジントには無い。


 そうして進んだ先では、剣戟の音と獣の唸り声が聞こえて来る。


「かっ…はぁはぁはぁ」


 砦に向かう最後のT字路を曲がると、トシゾウと生き残った自警団の3名が肩で息をして呼吸を整えていた。

 彼らが立つ周囲は、多くの戦士とモンスターの屍が横たわっており、その激闘を物語っていた。


 その屍の中から、一体の犬型モンスターが動き出す。


 駆けるモンスターは死角となっているのか、自警団の戦士達は気付いていない。このままでは、新たな被害者が出る。


 ジントの判断は早かった。

 地を這うように駆け、加速すると、飛び掛かろうとしたモンスターの下を潜り、その首を切り落とした。


 さっきのような間違いは起こさない。

 あの時、ブラックマンティスの頭を落としていれば、カブキリは死ぬことはなかった。


 後悔の一閃は、確かな手応えでモンスターを倒した。


 トシゾウや自警団がジントの存在に気付いたのは、モンスターの体が地面に落ちた音がしたときだった。


「っ!? ジントか…お前、どうしてここにいる?」


 音に驚き、其々が武器を構えて音がした方を見る。

 その目には殺意があり、モンスターに対しての憎悪が宿っていた。


 トシゾウは音の正体に気付き、ジントが助けてくれたのだと理解するが、どうしてジントがこの危険な場所にいるのか分からなかった。


 村から避難するように連絡が行ったはずだ。

 避難所で何かあったのか?

 さっきの爆発と関係があるのか?


 疑問が浮かび問いただそうか考えていると、ジントが先に口を開いた。


「ごめんなさい。行きます」


「あっ、おい!」


 トシゾウの横を通り過ぎ砦に向かって走ると、砦の状況が見えて来る。

 砦は無惨にも崩れており、砦に繋がる壁はまだ幾らか残っているが、それもいつ壊れてもおかしくないような状態だ。

 瓦礫の中には人もモンスターも倒れており、ジントは必死に目を逸らして駆け抜けた。


 そして、その先で目にしたものは…



 レッドオーガに斬られる母の姿だった。





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― 新着の感想 ―
[一言] かなりのシリアス展開、全く予想外のストーリーでビビる、早く続きお願いします
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