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第5章 好き

この章は妹尾桜と久世優斗の目線、両方で書かれてます。


ーーどうしよう、私。ドキドキしてる。

もしかして、優斗さんの事が好きになった……?


それに、今、私…優斗さんに抱き締められてる……?

これって単なる気紛れ?それとも何?

私は彼の真意を知りたいけど答えを聞くのを躊躇してしまう。

私の望んでない答えだったらと不安が過るからだ…。



「…あっ!ごめん。何してるんだろ、俺は」


ふと我に返った優斗さんは抱き締めている両腕をぱっと離し私の身体からゆっくりと離れる。


「…本当にごめん。自分でも分からない」

「…あっ、いいえ。大丈夫です。気にしないで下さい」

「…そう言って貰えて有り難い。後、お握りもありがとう」


優斗さんはお握りを包んであったランチクロスを私に手渡す。


私は優斗さんの態度に胸の辺りが苦しくなった…。


そう、私はただの家政婦だ。これ以上踏み込んだら自分が辛くなるだけと自分の気持ちは心の中に留め、何もなかったかの様に振る舞うしかなかった…。



優斗さんと別れた後、私はまるで失恋したかの様な気持ちに陥る。あぁ、これが片思いの辛さ。実る事のない恋。

ましてや相手は社長の息子。

私なんて眼中にある訳ないじゃない。

何かを期待してた自分に溜め息を付く…。

今日の事は忘れよう。

ただの家政婦だと割り切らなきゃ!




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



一方、優斗の方も頭を抱えていた…。


さっきは何を考えてたんだろ、俺…。

自己嫌悪に陥っていた。



「…あっ、優斗!何でさっきお昼一緒にしなかったのよ!」

「あっ、悪い。そんな気分じゃなくて」

「優斗がいないと私、退屈なのよ!一番話せるの優斗ぐらいし」

「そんな事ないだろ?俺以外の人とも仲が良いだろ?」


彼女は同僚の安東千夏(あんどうちなつ)

年齢も俺と同じ27歳。

女性の中では一番気心知れてる関係だ。



「優斗、仕事終わったら外食しない?」

「えっ?今日?いや、今日は…」


正直、余り気が乗らないのが本心だけど…。


「…あぁ、良いよ」

「ほんと?やった!」


馬鹿みたいにはしゃぐ千夏は俺から見たら可愛く見える。

ただ出会って1年だけど今まで彼女に恋愛感情が芽生えた事は一度もない。

千夏もそうだと俺の中では確信してたけれど実際、そうではない事実を思い知らされる事になる…。



俺と千夏は仕事を定時で終わらせるといつも行く馴染みの中華店【満腹亭】に立ち寄った。


この店の一押しは餃子である。 


「…千夏、何する?」

「えっとね、定番の餃子と天津飯かな」

「じゃ、俺も同じにしようかな」


注文して10分後、餃子と天津飯が運ばれてくる。


最初はまず、焼き立ての餃子を味わう。

うん!旨い!


その次は天津飯のご飯をスプーンですくい口に運ぶ。


やっぱりここの天津飯は最高!


味を堪能してる時だった、千夏は急に食べていた手を止めて真剣な表情で俺を見つめてきた。


「…うん?千夏、何か話しでもあるのか?」

「…うん、あるよ」


さっきまでのはしゃぎようから一変、急に改まった態度の千夏からは今までにないぐらいの緊張感が俺にまで伝わってくる。

一体何があったんだ?俺は彼女の顔を覗き込みながら、


「…何か問題でもあったのか?」


至近距離で目があったせいか千夏は急に俺から顔を反らす。


「…えっ?千夏、本当にどうしたんだ?」

「…あっ、ごめん。問題とかそういうんじゃなくて……。その、私、優斗に伝えときたい事があるんだ」

「伝える事?何?」

「……私、私は、優斗が好き!」


ーーえっ?!


俺が好きって…?


予知せぬ事態に俺は戸惑う。

だって俺は、千夏の事は…。



「…あの、返事は急がないから」

「…えっ、いや、その俺は…」

「待って!言わないで!ちゃんと考えてから答えを出して!お願い…」


お願いと言われても、返事に困る。

俺は本当に千夏の事は友人以上には見られなくて、友人以上でも以下でもない。

けれど、感情的になっている千夏を追い詰める様な言い方は避けた方が良さそうだな。


俺は取り敢えず、千夏の前で頷く事しか出来なかった…。



千夏と別れた後、俺は帰りの道中に必ず通るパチンコ屋の前で言い争う男女の姿が視界に入る。

良く見れば女性は若いけど男性は年配のおっさんっぽい。

援助交際の縺れか何かかだろう。


変な争い事に関わりたくなかった俺は少し急ぎ足でその2人の傍を通り越した瞬間だった。


目を疑う光景に俺は足を止めていた。


えっ?妹尾さん?!


何で妹尾さんがこんな援助交際みたいな事を?


思わず目を擦って改めて彼女を見てもやっぱり妹尾さんに間違いない。


理由はどうあれ、このまま見過ごせない。

気付くと俺はそのおっさんの腕を捻り上げていた。



「あぁー、痛い!」


おっさんは悲鳴を上げている。

これで彼女から身を引くだろうと俺は1人勝手に勝った気になっていると、


「優斗さん、待って!この人、いちよ、父親だから腕、放してくれる?」

「えっ?父親?!」


やばい。

出過ぎた真似をした…。


俺は開いた口が塞がらなかった…。








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