第3章 奮闘
化粧品会社【サラージュ】の社長、久世尚人さんとその息子の優斗さん。
そして優斗さんは社長の次期後継ぎ。けれど優斗さんが好きなのは音楽。自分で作詞作曲する程の私から見れば凄い人。
そんな人達のお宅で家政婦の仕事を始めた私、妹尾桜。
今日は家政婦の仕事2日目である。
「おはようございます!」
「あっ、おはよう。昨日は悪かったね、どうしても外せない仕事があって。優斗はちゃんと指示してくれたかい?」
「あっ、はい。大丈夫です。親切にして頂きました。それで今日は優斗さんは?」
「仕事だよ。昨日は休日で暇だろうから優斗に君を任せといた」
「そうなんですか」
折角の休日に悪かったかな…。
でも優斗さんの声はまた聞きたいなと素直に思う…。
「…妹尾さん、今日は大変かと思うが庭の草むしりして貰えるかな?」
「はい、分かりました!」
私は社長からゴミ袋と使い捨て手袋を準備して頂き、庭での作業を始めた。
はぁー、この荒れ放題の庭をどれだけ綺麗に出来るか…。
やれるだけやろう!
と、気合いは十分な私だったが草むしりを始める事、1時間。
私はしゃがみぱっなしの体勢がそろそろ限界で立ち上がる。
額には汗も流れ出す。
「…あぁー、まだ半分もいってないかな…」
雑草を引き抜く作業は思っていた以上に体力を奪われる。
少し頭もぼっーとする中で私は引き続き作業を続行した。
それから更に1時間が経過…。
気付くと私は貧血?なのか、立ち眩みが凄くて立ってるのがやっとの状態。私は一瞬、気を失った時、誰かに身体を支えられる。
えっ……?誰……?
でも身体に力が入らない。私は誰だか分からない人に身体を委ねていた…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
んー、あれ……?ここはどこ…?
目を覚ますと見慣れないベッドの上に私は眠っていたみたいだけど、何でここに居るかは経緯が分からない…。
ーー確か、私、急に気が遠くなって……。
ガチャ
「…起きた?」
えっ?!
私は驚いた衝撃で身体を起こした。
「駄目だよ、寝てないと」
「優斗さん。…そう言えばここ、優斗さんの部屋だ」
「大丈夫?」
「あっ、はい。それより優斗さん、今日は仕事だったんじゃ…」
「仕事だったよ。でも、手掛けてた仕事が段取り良く終わったからね。君が今日も来るって聞いてたから少しだけ抜けてきた」
「えっ?大丈夫なんですか?抜けたりしても?」
「あぁ、それなら親父が上手くやってるよ。気にしないで」
「……すいません。それでお父様は……?」
「会社に行ったよ。それで君の事を頼まれた」
「えっ?頼まれたって」
仕事に来てるのに逆に迷惑かけて私、何してるんだろう。
自分が情けないよ…。
「…そんな顔しないで。取り敢えずもう少し横になっといた方が良いかな」
優斗さんは私の身体を寝かし付けると布団を掛けてくれる。
「…優斗さん、ごめんなさい」
「謝らないで良いからゆっくりして」
「はい」
半分寝惚けてたから確かじゃないけど、手に生暖かい感触が…。
何て言うか、落ち着く……。
余りの居心地の良さに私はそのまま睡魔に襲われて眠りについた…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ーーうん?あっ、私寝ちゃってた…。
ゆっくりと身体を起こす。
微かに覚えてるのは手の温もり。
私誰かに手を握られてたのかな?もしかして優斗さん?!
そう思うと、私は嬉しい気分に浸りたくて仕方なかった。
あれ?そう言えばさっきから美味しそうな匂いがこの部屋までうっすらと漂ってくる。
「台所かな?下りてお礼言わなくちゃ」
私は2階の優斗さんの部屋を出て1階の台所へと階段を降りていく。睡眠を摂ったお陰ですっかりと眩暈は改善されていた。
私は扉をほんの少しだけ開けて中の様子を窺う。
すると、台所の方で何かを調理している優斗さんの姿が目に映る。
何を作ってるんだろう?
私は思わず、身体を扉に寄り掛けてしまった…。
ギシッ……
ーー?!
扉の開く音に優斗さんがこっちを振り向く。
「……あっ、優斗さん、ごめんなさい。美味しい匂いに釣られてしまって」
「…あぁ、それは良いけど。体調は?」
「はい、良くなりました。ベッド借りてすいませんでした」
「…大丈夫だよ。体調が回復して良かった。…じゃ、オムライスは食べれる?俺の得意料理なんだけど?」
「あっ、はい!」
優斗さんはお皿に盛り付けたオムライスにケッチャプで文字を作る。
うん?英語?Thak you?ありがとう?
私は首を傾げていた。何でありがとうなんだろう?と…。
その理由は優斗さんは語り始めた。
「…実は、母親と離婚してから俺と親父は仲違いしてた。何か言えば直ぐに喧嘩。家から出ていってやろうと何度も思いながらこの1年過ごしてきた。そんな時、急に家政婦を置くとか何を馬鹿な事をと、最初は思ってた。だけど俺も親父も家政婦募集と言ったらイメージしてたのはおばさんだった。けれど君が来た。正直、何でこんな若い子が家政婦の仕事を選んだのか理解は出来なかったけど、君のお陰で少なくとも親父との溝が少しでも改善される様な気がしたのは事実。だからケチャップでありがとうって伝えてみた」
「……優斗さん、ありがとうございます。そう思って頂けて嬉しいです」
「…うん。後、これ」
「えっ?」
渡されたのは茶封筒だった。
失礼かと思いながらも中を確認したら2万円入っていた。
「こんな貰えません!今日の分は差し引いて下さい!結局、倒れて面倒見て貰う形になってしまったんですから」
「それはこっちも却下。ちゃんと貰って。その分、他の日で挽回したら良いから」
「…………」
私はご厚意に甘えて、感謝を伝えた…。
そして、優斗さんのオムライスを2人で頂いた。
ケチャップライスが丁度良い酸っぱさで私好みだった。
味が濃厚なのはバターのせいかな?特に卵が蕩けて凄く美味しい。やばい、癖になる味だわ。
私は優斗さんのオムライスを絶賛していた。
流石の褒めように優斗さんの頬も赤く染まっていた…。