第22章 結婚への第一歩
今日は朝からドタバタと慌ただしかった。
何故なら、今日は優斗さんが私の母に挨拶へ伺う日だからだ。
「…ちょっと桜、この服で良いか確認してちょうだい!」
「お母さん、そんな緊張しなくても良いから。両家の顔合わせじゃないんだし」
「そうはいかないわよ。ちゃんとしとかないと失礼だし。……それにしても結婚だなんて。余りにも急過ぎるわ」
「うん、そうだね。昨日決めたとこだし」
「相手は社長さんの息子だなんて。こんな貧乏な生活知られたくないのが本音だけど」
「それは私も同感だよ。だけど、彼は私達の家庭の事情は分かってくれてる」
「そう。でも良かったじゃない、玉の輿ね!」
「そんなつもりではないけど」
世間ではそう言われるだろうけど、決して違う。
優斗さんが好きで生涯ずっと一緒に居たい大切な存在の人だから。
ピンポーン
ーー?!
あっ、来たかも?!
しかも約束の時間の10分前。
それにしても、母の緊張が移ったみたいで私自身も何か落ち着かないな。
取り敢えず、出なきゃ…。
「お母さん、来たみたいだけど入って貰って大丈夫?」
「えっ?えぇ…」
母のこんな縮こまった姿、初めて見るな。
今日は何故か母が小さく見えるのは気のせいかな?
まぁ、初めての結婚報告だし緊張するのは当たり前だよね。
ガチャ
「優斗さん、いっらっしゃい」
「こんにちは、桜」
わー、スーツ姿なんて新鮮で凄く胸がときめくよ。
それにしてもここまで改まった格好じゃなくても…。
「うん?どうした?」
「いや、余りにも決め過ぎだから…」
「格好良くて直視出来ないって事?」
「ーー?!」
その瞬間、私の頬は真っ赤に染まり顔を俯けた…。
おっしゃる通りだよ、悔しいけどね…。
「…いっらっしゃい」
「あっ、初めまして。久世優斗と言います」
「久世さんね、娘から聞いてます。取り敢えず、汚くて狭いけど中へどうぞ」
「あっ、はい」
最初出会った時から分かってたけど…やっぱり優斗さんは格好良いな。
礼儀正しくて、言葉使いも普段とは全然違う。
いつもとは違う一面が見れて嬉しい。
「…優斗さん、珈琲で良いよね?」
「うん、ありがとう」
取り敢えず、私は珈琲の準備を始める。ティーカップを用意して珈琲の粉末を入れてお湯を注ぐだけの簡単なやつだけど。
それにしても2人だけだと話も弾まないかな?と思ってたのに案外、盛り上がってる様子。
優斗さんが私の母に合わせてくれてる。
私は安堵した表情で2人を見ていた…。
「…本当に急ですいません。驚かれたでしょ?」
「えぇ。でも娘が決めた事なら私は何も言いません。娘は父親のせいで随分と酷い目に合ってきました。だからどうか娘を幸せにして下さい。どうぞ宜しくお願いします」
「はい、ありがとうございます。必ず桜さんを幸せにします」
と、私達は無事に結婚報告を終えた…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…今日はありがとう。疲れたんじゃない?」
「うん、確かに疲れたよ。緊張したぁー」
そんな優斗さんを私は軽く抱擁した…。
「……桜」
「今日は本当にありがとう。大好き」
「うん、俺も…」
バタン!!
ーーー?!
私達は何かが落ちる音に驚き、お互い身体を離した。
「…えっ?」
そこには買い物袋から転げ落ちた林檎や蜜柑などの果物を拾う酒井さんの姿だった。
「………」
彼と会うのはあの日の告白以来。
気まずくて顔を合わせられなかった。
すると優斗さんが転げ落ちた果物を一緒に拾い始めた。
何個かが、下り坂を下って落ちていく。
「…あっ、やばい!」
私の前で男2人は転げ落ちていく果物を必死に追いかける姿を遠くから眺めていた。
見る見る内に2人の姿は見えなくなっていった…。
「……はぁー、これで、最後の1個ですね」
「あっ、はい。ありがとうございます」
「……どういたしまして。あの、失礼ですけど僕の彼女と知り合いですか?」
「えっ?」
「そんな感じがしました。僕の勘違いですか?」
「……いえ。知り合いです。以前、職場で一緒でした」
「やっぱり。だけど、僕の彼女はただの同僚でしたか?貴方にとって。さっき、お互い顔が引きずってた。それに僕は以前から貴方の事をちらっと聞いてましたし納得しました」
「…そうですか。確かに僕は彼女に好意を持ってました。だけど見事に振られました。それに僕には妻がいます。幸い、気持ちは薄れてきてたんですけど、実際、他の男性と抱き合ってる姿を見たら流石に動揺して荷物を落としてしまいました。すいません。全て僕の責任です。彼女だけは責めないで下さい。お願いします」
酒井は深くお詫びの敬礼をする。
そして、拾ってくれたお詫びにと林檎1個を手渡される。
「これどうぞ」
「……えっ?あっ、ありがとうございます」
「いえ。不快な思いをされたと思うのでほんのお詫びです。……それと、これからも仲良くして下さいね、妹尾さんと」
「はい、勿論です」
「それを聞けて安心です。僕もこれで吹っ切れそうです!」
そして、酒井は清々しい表情で優斗の前から去って行った…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
再び下り坂から林檎片手に上がってくる優斗さんの姿を見た私は慌てて彼の元へ駆け寄る。
「優斗さん!」
「桜、ごめん。待ってたよね?」
「ううん、大丈夫。……それより実はさっきの人」
「言わなくて良い。分かってるから…」
そして、優斗さんは私の身体を強く抱き締めたのだった…。




