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第2章 初日


ーーあっ、やばい!遅刻!


私は朝から騒ぎ立てていた。


「…桜、少しは落ち着きなさい。ほら、朝ごはん出来てるわよ」

「ありがとう、お母さん」


私は勢い良くトーストにかぶり付く。


「…ねぇ、桜?今日から行くとこは何の仕事なの?」

「…あっ、言ってなかったね。えっと、一軒家での家政婦の仕事だよ」

「えっ?家政婦?」

「うん。そこの人、会社の社長みたい。日給1万円で凄く良いの!だから善は急げの気持ちでお家に伺った」

「……大丈夫なの、そこの人?変な人とかじゃないの?」

「…えっ?うん、大丈夫。今の現状を考えたら一刻も早く働かないといけないからどんな仕事でもするつもり」

「…そう、分かった。でもおかしいと思ったら直ぐに辞めるのよ?」

「うん、分かったから」


今の私にはそんな悠長な事を言ってる暇はない。

心配する母をそっちのけで私は仕事へと出掛けた。



久世さん宅へは徒歩30分程で行ける住宅街。

近くはないがそんなに遠くはない微妙な距離だった。


いざ久世さん宅に到着すると、今になって緊張感が襲う。


「…あっ、やばい。ドキドキしていた」


今日から心機一転、私の人生を変えるとこであります様に…。


私はインターホンを鳴らした…。



ピンポーン


すると、玄関の方から優斗さんが出迎えに来てくれた。


「…あの、今日から宜しくお願いします!」

「はい、じゃ入って下さい」


優斗さんは私をまずリビングへと案内する。


入った途端、私は唖然とする…。

その辺に洗濯物は放りっぱなし。

その上、食べた後の食器もそのまま。


悲惨な状況だ…。


「…見ての通りこの有り様。母親と離婚してからこんな生活だよ。だから親父は家政婦を置くと言い出した。そしたらお互い仕事しやすくなるからってさ」

「…あの、優斗さんは何のお仕事を?」

「俺は親父の会社で正社員として働いてる。周りからは親父のこねって言われてる。でも言われ慣れたよ」

「…そうなんですか」

「まぁ、とにかく今日はリビングを居心地の良い空間にして貰うだけで良いから」

「はい、分かりました」


それだけ言い残し、優斗さんは2階の自分の部屋へと戻る。

私は適当に荷物を置くと、早速始めようと腕捲りをする。


食器には食べ残しなどが残っていて油汚れが酷い。

お湯で油分を浮かして取るしかない。


私は手際良く食器を洗い出す。

不慣れな私だったけど、これも仕事だと踏ん切りを付ければ案外出来るもんだ。


2時間が経過したとこでようやく私は一息付く…。


「…良し!出来た!後は畳んだ洗濯物をどうするかだけど」


確か、優斗さんは2階のどこかの部屋に居るんだよね…。

聞きに行こうかな?


私は廊下に出て2階へ続く階段を1段、1段ゆっくりと上がっていく。

すると、何やらピアノの音と歌声が響いてくる…。

何て透き通る、艶のある声。

私は聞き惚れていた…。

あぁー癒される。しかも誰の曲だろう?

聞いた事ないな…。

その時、


ガチャン


「…ここで何してるの?」

「……あ、あっ?!すいません!つい聞き入っちゃって!あの洗濯物畳んだんですけどどこに直したら良いか分からなくて」

「あっ、それなら2階の畳の部屋のタンスにでも入れて貰えたら助かるけど」

「あっ、分かりました!それじゃ入れてきます」

「……あの!」


私は優斗さんの声に立ち止まる。


「…片付けたら後で俺の部屋に寄って」

「あっ、はい。分かりました」


私は洗濯物を直し終えると、言われた通り優斗さんの部屋の前まで行ってみる。


♪~~


あっ、まただ!

さっきと同じピアノの伴奏と美声が部屋から漏れていた。


私は取り敢えず部屋をノックしてみる…。



コンコン


「…あの、妹尾ですけど」



私の声に優斗さんは途中で演奏を中断し扉を開けてくれた。


ガチャ


「…あっ、ごめんね。さぁ入って」

「…お邪魔します」


私は部屋の中を見渡すと真ん中には大きなピアノがほぼ部屋を占領していた。後は音楽関係の冊子が沢山並んでいる。


ただの趣味にしては本格的だけど、プロでも目指してるとか?

防音設備もしてるみたいだけど…。



「…あの、妹尾さん、狭いけど適当に座って良いから」

「あっ、はい。あの、音楽好きなんですか?」

「まぁね。趣味で始めたつもりだったけどいつの間にか本格的にやり始めちゃって。いずれは親父の化粧会社を継ぐ事になるだろうけどね」

「そうなんですか。でも素敵な歌ですね。何の歌なんですか?」

「この曲は自分で作詞作曲してるよ」

「えっ?そうなんですか?」

「…良かったら聞いてくれないかな?素人で下手かもしれないけど」

「あっ、はい!私で良ければ」

「ありがとう。じゃ、早速…」


そう言うと優斗さんはピアノの前に座り鍵盤に手を触れた。


伴奏と同時に響き渡る優斗さんの美声は私の心を癒してく…。何て良い曲なんだろう。


次第に曲は終盤へ。


私は彼の素晴らしい演奏と力強い歌声に圧倒されていた。


本当に素人さんの曲とは思えないぐらいの仕上がりで歌唱力にも驚かされた。


演奏を終えた後、私は優斗さんに大きな拍手を送る。


優斗さんの表情はとても清々しかった。


「優斗さん凄く良かったです!」

「ありがとう。自慢じゃないけどこの曲は自信作なんだ。バラードが主に好きなんだけど」

「私もバラード好きです。カラオケでも歌うのは殆どバラードで。周りからはたまにはバラード以外歌ってって言われるんだけどね」

「そうか」

「……えっと、また暇な時で良いので優斗さんの曲、聞かせて貰って良いですか?」

「…勿論」



この日を切っ掛けに私達の関係も始まろうとしていた…。









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