第19章 幸せの時間
「いっらっしゃいませ!」
そう今日は私が勤め始めたスーパー【新鮮屋】の大セールの日。
大きなチラシの一面にはお目玉商品が盛り沢山。
お店は朝から熱気に包まれていた。
そのお陰で5台あるレジには精算を待つお客様の行列が途切れる事なく並んでいた。
今日は凄い儲け時になる事間違いなし!
ただ、私はまだ新人の為に慣れない手付きで遅いながらも笑顔を振る舞いながら必死に最高の接客を心掛けていた。
頑張った結果、ようやく忙しさの峠を越した…。
ふー、少し落ち着ける。
私は肩の力を抜いた…。
「…妹尾さん、お昼一緒にどうかな?」
「あっ、はい、ぜひ」
彼は私の指導をしてくれている先輩で社員の酒井兼行「さかいかねゆき」さん。年齢も私より3つ歳上の28歳である。
最近、良く食堂でお昼をご一緒されて貰ってる。
「ふー、今日は疲れたね。妹尾さんも良く頑張ってたね」
「ありがとうございます。でも精神的にかなりしんどかったです。無事に終わってほっと一安心です」
「…ねぇ、妹尾さんに聞きたい事があるんだけど?」
「えっ?私に?何ですか?」
「……妹尾さんって彼氏いるの?」
「えっ?!……あっ、はい、居てます」
「えっ?そうなの?…てっきり居ないとばかり」
えっ?何なの、今の発言?
そりゃ、私は見た目も特に可愛くないし普通だけど。
気分を害するもここは職場。
態度を顔に出すのは失礼だし、ここは笑顔を装っとこう。
ーーうん?でも確か?酒井さんって…。
「…えっと、酒井さんは確かご結婚されて1年とか、風の噂で聞きました」
「うん、まぁそうなんだけど。正直、結婚して良かったか、今となっては迷いがあるよ。僕の知らない妻の顔に少し疲れ気味なんだ」
「……そうなんですか」
だから、何?
これ以上は踏み込めない領域がそこにあるかの様だった。
「…えっと、もう、お昼時間も終わりですね。私、そろそろ…」
「待って!」
椅子から立ち上がった私の手首を酒井さんの手で掴まれていた。
「えっ?!あの、離して下さい!」
「少しだけでも良い。僕の疲れを君に癒して欲しいんだ」
「何で私になんか…」
「君が良かったから。君なら僕が唯一、心を許せる相手に思えたからね。だけど、想定外だったのは彼氏が居るとは…」
「な、何を馬鹿な事を?!」
私は彼の手を振り払い、食堂を後にした。
その後も私は酒井さんと目を合わさない様に彼と距離を取っていた。
仕事を終えると私は直ぐ様、ロッカーで作業着を脱ぎ私服に着替える。
幸い、酒井さんは仕事の事で他の社員に捕まっていた。
私は酒井さんとすれ違う際、彼の視線を感じていた。
あぁー、何でこんな事に?
とにかく、これから考えないと!
私は何気に携帯電話を手に取ると、画面に1件のメッセージが届いていた。
あっ!優斗さん!
一瞬で仕事の疲れも吹き飛びそうだ。
メッセージを開くとただシンプルに【今日、会いたいな】とだけの文章だけだった。
私の心は今から弾んでいた。
その後、私は久し振りに優斗さんのご自宅へと伺った。
出迎えてくれた優斗さんの顔を見たら、疲れ切っている私の顔も見る見る内に笑顔へと変わっていった。
いきなり抱き付く私に優斗さんは少し驚くも優しく抱き締める。
「どうしたの?積極的だね」
悪戯っぽい笑顔を向ける優斗さんに私は自分から唇を合わせる。
キスなんて1年振りかな?
「…ねぇ、桜。来てくれた早々悪いけど、部屋に行かない?」
私はこの言葉の意味を受け入れ、静かに頷く…。
そして優斗さんは私の身体を両腕で抱き抱えながら2階へと上がる。
久し振りの優斗さんの部屋のベッドに気持ちが高ぶる。
「…優斗さん、1年間連絡なしでごめんなさい」
「もう良いよ。怒ってない。ただそんな状態の時に傍に居れなかったのが辛い。だけど、こうやって再会出来たんだから、俺達は縁があるんだよ。そう信じたい」
「優斗さん、私も」
私達は深い口付けを交わしベッドの上で1年間の空白を埋めるかの様に激しく抱き合った……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
この時間を愛おしんだ私達の身体はすっかりと汗ばんでいた。
「……ごめん、桜。疲れさせ過ぎたね」
「うぅん、大丈夫だよ」
「それなら良かった。……所で今の職場はどうなの?」
「……えっ?!い、いや大丈夫!」
つい、私は酒井さんの顔を思い出してしまった様で挙動不審な態度を取ってしまった。
直ぐ様、何かあったと勘づいた優斗さんは私に言った。
「…桜、隠し事はしないでくれ。頼むから」
「優斗さん、ごめん。……実は」
私は酒井さんの事を隠し隠さず全て打ち明けた…。
「……と、言う訳で正直、困ってる。でもいちよ先輩で社員さんだから」
「……桜、悪いけど今の職場は辞めてくれ。そして、もう一度ここで家政婦の仕事してくれ、お願いだ」
「…優斗さん」
「…何となく、その酒井って男には関わって欲しくない。それに酒井は君と不倫したい様だ」
「…やっぱり、そういう事だよね」
私は後日、職場に急遽、辞めさせて貰いたいと上司に話した所、余りに突然過ぎて私の代わりの人が見つかるまで勤めて欲しいとお願いされ、私は渋々了承するしかなかった…。
その日から私が辞める事は職場内に知れ渡り勿論、酒井さんの耳にも入っていた。
「…妹尾さん、辞めるって本当?」
「あっ、はい。急な話で申し訳ないですが」
「……もしかして、僕が原因?それなら辞めないで。君には迷惑かけないから」
「…別に酒井さんが原因ではありません。自分で決めた事です。今までありがとうございました。後、少しですが宜しくお願いします」
私は軽く敬礼をし、酒井さんに背を向けた時だった。
「…僕は妹尾さんが好きです!」
えっ?
私は自然と足を止めていた…。




