第17章 空白の真実
ーー私は1年後の今日、運命の再会を果たした…。
そう、誰かが横断歩道からもの凄い勢いで私を追いかけてくるのを感じ取った。
えっ?誰?
私は恐る恐る振り返った。
ーーえっ?どうして、ここに…?
そこにいたのは正真正銘、優斗さんに間違いなかった。
私はゆっくりと彼との距離を縮めていく…。
「……優斗さん?」
その瞬間、私の身体は優斗さんの両腕で抱き上げられていた。
私は彼の身体に強くしがみつくと、彼もまた強く抱き締め返す。
「…ごめん、ごめんなさい」
今の私にはひたすら謝る事しか出来なかった。
実際、1年間音信不通だったのに彼が今でも私の事を想ってくれてたなんて……私は胸が痛んで仕方なかった。
「…この1年どうしてたの?」
優斗さんは私の耳元でそっと呟く。
そりゃ、聞くよね。当たり前の質問だ。
だけど、答えて良いのか私は躊躇っていた…。
「…やっぱり、何かあったんだろ?正直、君を家政婦として雇った時、履歴書を書いて貰うべきだった。何かあった時の連絡手段として。けれど、知ってるのは君の携帯番号だけ。家を探し出して会いに行く手もあったけど、そこまでしてもいいものか…。家庭の問題だし俺達は口出し出来ない。色々悩んだ挙句、暫く待ってみる事にした。そうこうしてる内に気付けば1年の月日が流れていた…」
「……本当にごめんなさい。あの、優斗さん、全てお話しますので一旦下ろしてくれますか?」
「…えっ?」
私の一言に優斗さんはようやく気付く…。
通行人の視線が自分達に釘付けされてる事に…。
そして、優斗さんの頬を見る見る内に赤く染めた…。
照れ隠ししながら優斗さんは私の身体を地面に下ろした。
「……ごめん、恥ずかしかった?」
「うん、少しだけ」
私は優斗さんの手を取り、指を絡め恋人繋ぎに変えた…。
「…久し振りだな、桜と手を繋ぐの」
「…うん、そうだね」
「…で、本題。本当に何があった?」
「…実は、1年前のあの日……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
1年前……
私はお母さんの様子を見に、住んでいたマンションへと帰って見ると何故か、玄関の扉が数センチ開いていた。
えっ?何で、鍵してないの?無用心じゃない?
けれど、中から不気味な静けさを感じる…。
その時だった。背後に人の気配を感じたのは…。
一瞬で私の手首は掴み上げられ、もの凄い形相で睨み付ける男に私は背筋が凍った…。
「何であんたが…」
「会いたかったよ、桜。父親の顔を忘れたとは言わせないぞ」
「父親だって?笑わせないで。あんたを父親だと思った事はない」
「そんな事言って良いのか?お前に今の状況を教えてやるよ」
父親は私を部屋の中に入れると、そこにはあちこち殴られ床に倒れこんでいる無様な母親の姿だった。
「お母さん!」
私は母に駆け寄り肩を揺らすと、幸いまだ意識があった。
「……桜?」
「お母さん、しっかりして!」
「……ごめんね、桜」
「そんなの良いから早く病院行こう!」
私は母の両腕を自分の首にかけようとした時、父親の拳が私の右肩に直撃した。
「何をやってるんだ?!病院だと?舐めた真似するなよ?!下手な事したらどうなるか分からないのか?!」
「くそ親父、あんただけは絶対に許さない!」
「くっ、許さないだと?それはこっちの台詞だ!この女は俺と離婚したばかりなのに違う男とこの部屋で抱き合ってたんだぞ!しかも俺より若い男だ!だが、俺がこの部屋に入った途端、逃げ出しやがった。一発殴るべきだった!だからこいつに痛い目に合わせないと気が済まなかったんだよ!」
「あんただけは人間じゃない!私は母を病院へ連れていくわ!退きなさいよ!」
「…それじゃ、お前の彼氏連れてこいよ?」
「はぁ?何を?」
「俺はあいつも気に食わないんだ。一発殴らせてくれたらこの女を病院へ連れて行っても良いぞ?」
「何を馬鹿な?!そんな事出来る訳ないでしょ?!」
「だったら、お前もこの女とこの部屋から一歩も出るな!もし出たらどうなるか分かってるよな?」
「…脅しのつもり?」
「さぁな。だけど、お前の態度によってはどうかな?」
「………」
「何だ?どうした?やっと分かったか?お前は俺には逆らえない。抜け出すなんて考えるなよ?もし、抜け出したらお前の周りの人間がどうなるか、分からないぞ?」
余裕の笑みで勝利を物語っているこの男は私を見下していた。
このままでは優斗さんのとこに帰れない。
さぁ、どうする?
とにかく携帯電話で連絡をするしか……。
「おい!お前の携帯電話をよこせ!」
「えっ?!何でよ?!」
「下手な事されたら困るしな。断るならお前の母親がどうなっても良いならな」
「…分かったわよ」
私は鞄から携帯電話を取り出す際、咄嗟に携帯にロックをかけて中身を見られない様に細工した。
けれど、唯一の携帯電話をこの男に取り上げられお手上げ状態だった。
しかし、こんな状態のお母さんをほっとく訳にはいかない。
何とか抜け出して、ここはもう警察署に駆け込むしか手はなかった…。
この日から私は抜け出すチャンスを窺ってるけど、父親の監視が強くてその隙を与えさせない。
ろくに食事も喉を通らない母をこれ以上放置出来ない。
しかも私は縄で身体と両腕を後ろで結ばれてる状態で身動きが取れない。
どうにかして縄だけでも切りたいけど……。
そんな私に一筋の光が差し込んだ。
ピンポーン
ーー?!
「誰だ?!」
誰かは分からないけどこれはチャンスだった。
「…出ないの?多分、家主だよ。家賃払えなくて滞納してるからやばいの。今日も取り立てかな。多分何回も来るよ。出なかったら怪しまれるよ」
「ちっ、ちゃんと家賃ぐらい払っとけよ!」
「誰かさんのせいで払えないのよ」
「分かったよ!その代わり、下手な事したらただでは済まないぞ!」
私の縄は一旦ほどかれる事に成功した。
そして父親の目を盗み、1枚のメモを取り出しこう記す。
【SOS。監禁中。警察呼んで】
私は一縷の望みを胸に玄関の扉を開けたのだった…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
2日後……
私の願いは届いた。
警察官2名が私のマンションへと乗り込み父親を確保、逮捕に至った。
母は直ぐ様、救急車で搬送された。
そう、あの時インターホンを鳴らしてくれたのは私と同じマンションの隣の部屋に住む人だった。ここ何日間か、毎晩聞こえてた母を殴る、蹴るの暴行や暴言が気になり様子を窺いに部屋のインターホンを鳴らしたそうだ。
私はその人に感謝でいっぱいだった。救いの神とも言えた。
それから母の容態も無事に安定して退院を迎えた。
私自身も働き口を探すのに必死だった。
今更、優斗さんのとこで家政婦として働くのは図々しいし、連絡すらしていない状態だ。
流石に駄目だろうと、私はスーパーのレジ打ちの仕事に見事、決まりそこで働き始めた。
優斗さんを忘れる為に仕事に打ち込んだ。
次第に月日が流れ、1ヶ月が過ぎていたのだった…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
現在に至る…。
「…そういう訳で連絡しないでごめんなさい。私と貴方は住む世界が違う。家庭環境は違い過ぎると思う。だから、私は貴方と別れるべきだと考えた。月日が流れたらいずれ気持ちが薄らぐと思ってた。だけど、1年ぐらいじゃ簡単に気持ちは薄れないね」
「…俺だってこの1年忘れた事は1回もないよ。ずっと会いたかった」
「優斗さん」
「……桜、もう一度家政婦として戻ってきてくれ」
「えっ?」
「もう、これ以上君を1人にしたくない。勿論、君のお母さんの事も考えるから。……駄目か?」
いつまでも優斗さんのご厚意には甘えられない…。
私は心を鬼にして告げた…。
「…ごめんなさい、それは出来ません」
その瞬間、静寂に包まれた…。




