第10章 住み込みの家政婦、始める
ーー私と優斗さんの関係って何になるの?
自分自身に疑問符を投げかけてみた。
恋人同士?それとも友達以上恋人未満?
丁度その間ぐらいに私達がいるのかな?
だけど、彼は私と付き合う気があるだろうか?
今の私達は中途半端だ。
気持ちを確かめるには試しにデートのお誘いをしてみようかな?
私の心は今から弾んでいたのに……それとは裏腹に母は朝から浮かない顔だった。
今日は私と母の給料日。
毎月の生活費や家賃の計算を欠かさずやるのだ。
「そうだ、お母さん!今月のお金の計算しよう?」
「……あっ、うん、そうね」
一瞬、母の表情が強張ったのを私は見逃さなかった。
何か隠し事があるんじゃないかと不信感を抱く…。
案の定、母は現金を出すのを渋っている様子だった。
「…お母さん、どうしたの?何かあるの?」
「………分かったわ」
そして、渋々母は現金を出したものの……たったの5万円?!
先月の10万円の半分?!
どういう事?
明らかに母の視線は泳いでいた…。
「ちょっと、どういう事?説明して!」
「……実は、昨日お父さんが来たの。それで10万円貸して欲しいって言われて取り敢えず5万円だけ渡したの」
「はぁ?何を考えてるのよ?!」
「…桜には分からないだろうけど、私、ずっとお父さんが好きだったの。一目惚れかな?それでお父さんに必死に猛アタックしてきて、やっとの事で結婚まで出来たのよ。今回はお金のせいでお父さんと離婚したけど何かあった時には力になりたいの」
「…何を寝惚けてるの?あんなギャンブル親父。離婚は正しい決断よ!あんな人とこれからも一緒にいてたらお金が付いて回るわよ?不幸になるわ。分からないの?」
「………」
あの父親にこの母親。
私がこの両親から産まれてきたのも運命。
手を上げる父親なんて私は認めないし縁を切ったも同然。
けれど、持ち逃げした現金だけは見過ごせない。
どんな手を使ってでも返済させる気でいたのに、まさか母が父親にお金を渡していたとは……今回ばかりは母にも幻滅した…。
「……もう、終わりね」
私は自分の部屋に戻り、身支度を始める。
取り敢えず、今は母とは暮らせない。
私は生活費の足しにと少しばかりだが現金を机に勢い良く叩き付けた。
「…暫く、別々に暮らして頭冷やして下さい」
「………」
母は無言で頷く…。
そして、纏めた荷物を手に私はマンションを飛び出した…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
飛び出したのは良いけど……これからどうするんだ私?
辺りも暗くなってきてるのに…。
後先考えず、その場しのぎで行動してしまった…。
仕方ない。もう後戻りは出来ない。
私はその辺をブラブラ歩いてるだけで泊まるとこすら決まってない。
やばいな…。
で、結局辿り着いた先は優斗さんのお宅だった。
はぁー、来てしまったけど…どう説明したら?
もうじき優斗さんも帰って来るだろし何か言い訳を考えないと!
少しの間だけ、泊めてくれますか?いや、違う。
もっと他に言い方があるはず……。
と……玄関の前で待つ事、30分。
ここは素直に泊めて下さいって頭下げるしかないかな。
そして、考えが纏まった数秒後だった。
「…あれ?妹尾さん?どうしたの?」
「あっ、優斗さん!」
彼は私の手にある荷物を見て何かを察したのか、納得したかの様に笑みを浮かべる。
「取り敢えず、入って」
「はい、ありがとうございます」
玄関の扉を開けると、私はふと安心感を覚えた。
家政婦として働き出してまだ日も浅いのに不思議とこの家は私にとって安らげる空間へと変わっていた。
「さて、例のあの親父とまた何かあった?」
「えっ?はぁー、まぁ。ただ今回は父親だけじゃなくて」
「そうか。君の家庭は複雑過ぎる。と、言うよりあの親父は最低だったよ、他人の俺が言うのもなんだけど。離婚して正解だったと思うよ」
「私もそう思ってました。けど母は違ったみたいです」
「えっ?」
「母は昔から父親の事が好きでやっとの思いで結婚出来たらしいです。だからって離婚した後もあのギャンブル親父に再びお金を渡すなんて到底理解出来ない、母親でも。しかも生活がぎりぎりなのを分かってて…。だから母の顔は見たくなくて家を飛び出したものの、優斗さんちに足が向いてしまって」
「……俺と親父は全然構わないけれど、いずれ母親とは話するべきだと思うよ。まぁ落ち着くまで居てくれて良いから」
「ありがとうございます」
「取り敢えず、今日は親父は会社に寝泊まりだしメッセージだけ送信しとくよ。反対するよか大喜びしそうだけど」
「宜しくお願いします」
まさか、住み込みで家政婦の仕事する事になるなんて夢にも思わなかったよ。
あっ!この際だからと、私は意を決して優斗さんに訊ねた。
「…あの、優斗さん話があるんです」
「うん?何?」
「あの、私と優斗さんって……どういう関係なんですか?」
「ーー?!」
「良く分からないんです。それに私達……キ、キスもしたし」
「……うん、そうだね」
「……だから、その」
「えーっと、俺達は……」
その続きは……と、私は思わず息を飲んだ…。
「…恋人同士なんじゃない?」
「………?!なん、じゃない?」
面白可笑しく場を和ませるのは良いけど、返事としてはいい加減で中途半端…。
彼の本心を知れるのはいつになるやら?と、私は切に願っていた…。




