03_私の行く未来 sideフロスティア
2022/11/23
以前読んでいただいたことがある方がいるかは分かりませんが、「あらすじ」「主人公:ベルクの容姿(01)」「勇者と魔王の宿命(02)」を書きかえていますので、お時間があればもう一度読み直していただけると幸いです。
私――――フロスティア・アブスロードは本来魔王を継ぐ器でもなければ、立場でもなかった。厳密に言えば資格はあるが、お飾りのようなものだったというのが正確だろうか。
しかし、五十年前の魔王と勇者の戦いで状況は一変してしまった。
私には兄が二人と、姉が一人いた。幼い頃の記憶ではあるが、優しくしてもらった記憶が朧げにある。伝え聞くところによれば、三人とも才覚や武勇に優れ、将来を嘱望されていたらしい。
その三人は魔王と共に戦死した。
そうなると魔王が残した子は、第二王女である私しかいなくなってしまったということだ。当然、次代の魔王としての期待が集中することになった。
まず、魔王となる条件を説明しよう。
魔王となるには魔族が崇拝する魔神に選定されることが必要だ。だが前提として魔王の血筋を引いていることが条件でもある。
そのため、私が絶対に魔王に選ばれる、というわけではないのだ。叔父上が選ばれる可能性もあるし、はたまた私の甥にあたる人物が選ばれる可能性もある。
だが歴史を紐解けば、魔王に選ばれるのは魔王の子供であることがほとんどであり、周囲からも私が魔王になることが確定事項であるかのように聞かされていた。
私は魔王になるつもりなどなかったのに。
私は無能……ではないと思うが、兄や姉の話を聞かされる度に、私の不出来さを嫌でも自覚させられた。話しているほうは、私を激励したり、期待を寄せる意味合いで言っていたのかもしれないが、あまりにも逆効果であったと言わざるを得ない。
*
ある時、私は部屋に引きこもっていた時期があった。周囲の重圧に耐えられなくなったため、というのは説明しなくとも分かるだろう。
意外にもこの時、魔王の代理を務めていた母上からは特に何か言われることもなければ、説得のために人を寄越すこともなかった。魔王の役目を押し付けるということに引け目があったのか、はたまた私に構っている暇がなかったのか、どちちらであったのかは分からなかったが。
理由がなんであれ、現状に反抗心を抱いていた私としてはありがたい状況ではあった。
運び込まれる食事に手を付け、惰眠を貪ったり、ただひたすらに無為な時間を過ごす日々を送り続けていたある日、奇妙な事件に巻き込まれた。
その日も昼餉を終えた後、特に何かをするわけでもなく、窓から城下町を見下ろしていた。
いま自分が行っている反抗に何か意味があるのか、自分でも分からなかったが、そうしなければ自分が壊れそうであったのだから仕方がなかった。
そんな言い訳じみた言葉を延々と頭の中で巡らしていると、突如として部屋の中央に何重もの魔法陣が展開された。幾重にも重なった白色の魔法陣は、それだけで幻想的だった。
あまりにも唐突な出来事ゆえに、理解が追いつかず、ただただ見惚れていると、強烈な光の奔流に飲み込まれた。
痛みはなく、意識がなくなるようなこともなく、害を為すようなものではなかった。逆にどこか優しさや温もりの類を感じさせるものだ。
光が収まると、そこには布にくるまれた赤ん坊がいた。
ただの赤ん坊ではない。
人族の赤ん坊だ。
北と南の大地を隔てる霧が発生して久しく、人族と魔族が相対することはほとんどなくなったと言っていい。例外として、勇者と魔王の戦いがあるが、逆に言えばそれしか無いとも言える。
そのため、私としても人族をこの目で見たことはなく、伝聞の形で特徴を聞いていたに過ぎない。
だが、その白い肌は間違いなく人族の証であり、この赤ん坊がここにいるべきではないと証明するものでもある。
恐る恐る近づいてみると、あどけなく、そして驚いたかのように目を見開いた顔があった。
それもそうだろう。こんな赤ん坊に魔術など扱えないだろうし、何者かにここに飛ばされたはずだ。そんなことをこの子が理解出来るはずもなく、突如として見知らぬ場所に飛ばされ、見知らぬ人間が顔を覗き込めば驚くに決まっている。
いや、赤ん坊であればそのようなことを気にすることもないのだろうか?
赤ん坊の気持ちも、この状況のことも何一つよく分からないが、何か行動しなくては。
「ご、ごきげんよう」
最初は挨拶が肝心、というよく分からない思考の下、繰り出された挨拶は、意味がないどころか赤ん坊の顔を曇らせていった。
そして、当然のように大きな声を上げながら、泣きだしてしまった。
私は城の人間以外と接触したことはほとんどなく、加えて私が末の子どもであるがゆえに、赤ん坊に会ったこともなければ、対処法も知り得ていなかった。
こちらとしても慌てるぐらいしか能がないぐらいの状況ではあったが、なんとか泣き止まらせることはできないものかと四苦八苦し、傷つけないよう慎重に抱きかかえた。
「大丈夫、こわくない。私はこわくないぞ」
言葉をかけながら必死にあやしていると、段々と泣き声と涙が止まってくる。
安心したのも束の間、その赤ん坊の顔に浮かぶ笑顔に目を奪われた。
正直、人族に思うところがないと言えば嘘になる。実の父親を殺されたのだから、少なくとも好い感情を持つ方が難しいだろう。
しかし、この赤ん坊の笑顔は綺麗で素直で純粋で。愛おしいものであった。
*
微睡みから目が覚める。
いつもであれば馬車のなかであれ、うたた寝などすることもないのだが、今日に限っては致し方ないのかもしれない。選定の日となれば、流石の私でも否が応でも緊張してしまう。
とはいえ、ベルクと初めて会った時の夢を見れたので、逆に良かったのかもしれない。
初めて彼女を目にしたあの日、彼女をあやした後、程なくして侍女が部屋に駆け込んできてベルクを連れ去ってしまった。あの時は柄にもなく駄々をこねたものだった。
大昔に制定された、埃がかぶっていたような制度を持ち出して、私のもとに置くことは出来たが、今思えば中々無茶な要求だったような気もする。
そして現在も、それを超えるような無茶を押し通そうとしている。
その無茶を超えるような願いを叶えるためにも私は魔王に選ばれ、必ず――――
この手で勇者を殺さなければならない。
話の骨子は出来上がっていますが、書き溜めは無理でした.........
間を置かずに更新はするつもりですので暖かい目で見守ってください。