0_勇者と魔王
初投稿です
「《あの忌まわしき愚帝を討て》」
私にとっては何の意味もない文字列の詠唱が完了し、魔導書が自動的に魔法を構築していきます。
直後、青白い炎が再現され、相対する魔王に襲いかかっていく。
聞くところによりますと、大国を一人で滅ぼせるぐらい強い王様を殺すために使われた魔法らしい。そんじょそこらの敵であれば塵すら残らないほどの威力でしょう。
しかし、魔王はそんじょそこらの敵ではないのです。
「中々やるね」
炎が割られ、魔王がこちらに悠々と歩いてくる。予想通り、魔王には傷一つすらつけられていないみたいですね。
魔王が束ねる魔族は人族に比べ、膨大な魔力を擁し、肉体的にも強靭。その頂点である魔王は比類なき強さを持っていると考えていいでしょう。
ちゃんとした勇者であれば軽く戦意を削がれるほどの強さに違いありません。
だけど私は勇者であれど、真っ当な勇者にあらず。そのため、特に戦意が削がれるとか、そういうことはありません。
本来、勇者は魔王を討つことが使命です。逆に言えばそれ以外は特に求められていないと言ってもいいかもしれません。
しかし、私には魔王を討つ気など、これっぽちもありません。
なぜなら魔王――――魔王様は、私が仕えるべき主なのですから。