表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おでん屋春子婆さんの偏屈異世界珍道中【書籍化/コミカライズ企画進行中】  作者: 紺染 幸
二章 王トマス治世下

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/119

 【0】白き湖のほとりにて

二章始めます。

『おでん屋春子の箸休め ~嗚呼青春のセントノリス~  (『おでん屋春子婆さんの偏屈異世界珍道中』番外編)』と同時並行、不定期更新でいきますのでのんびりお付き合いください。


間違っても一章のようなピタゴラはありません! ありません! のんびり春子さんのおでんを食べながら、熱燗飲んであの日のその後をのんびり見守っていただく形で、どうぞお付き合いくださいませ。




 底も果てもわからぬような大きな光る湖のほとりに男が一人ゆるりと立っている。

 光の当たる角度で彼は男とも女とも、若くも、途方もない老人にも見える。


『困ったものだ』


 手の中の光る丸を見ながら男は歌うように言う。


『本当に困ったものだよ。心あるものとはときに、信じられないようなことをするものだ』


 歌うように。どこか楽し気に。


『戻る道もあるというのに、次はあれに生まれ変わりたいだって? なんと愚かな馬鹿げたことを願うのだ。心というものは実に愚かしく、不可解だよ。どうして君たちは皆そのようなおかしなものを持って生まれるのだろう。誰も、彼もが。そのような愚かしく不可解なものを』


 男は光を持っていないほうの手をゆるりと動かした。

 そこだけぽっかりと穴の開いたように暗い黒い場所からひとつ、輝く光を果実を摘むように取る。

 新たな光は男の手の上でぶるりと身を震わせ、やがてぴょんと跳ね動物の形をとって尻尾を揺らしながら地に下り主を見上げる。


『次は君にやってもらう。見る限り君は類を見ぬほどの力があるが、きわめて魂が幼い。決して前任のような無茶はするのではないよ。……なんだその顔は。ああまったく、誰も彼も本当に困ったものだ。まあ、好きにやりなさい』


 男は手の中にあった光の丸にふうと息を吹きかけ空に放つ。


『君も好きにするがいい。私はこの終わりなきくだらない繰り返しに実に飽き飽きしている。やりたいならそれぞれ勝手にやるがいい。せいぜい私を楽しませておくれ』 


 男はゆるりと歩み、やがて湖のほとりを去った。


 動物の形のものに、男から放たれた小さな光の玉が寄り添う。

 耳の形のところに丸い光は浮き、動物の形のものはじっと内緒話を聞くように、静かに、ときどきぶるりと耳を動かしじっと座っている。


 やがて動物の形はこんと一声鳴き、とぷん、と湖に飛び込み消えた。


 残された丸い光はふわふわと浮きながら湖を覗き込み、じっとときを待っている。


 ゆっくりでいいよ、と。

 ともに生まれ変わるそのときを、じっと待っている。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 祝! 第二章スタート! 女王様とそれを待つ小さな光が、来世では一緒に鬼ごっこできそうで嬉しいです。 [一言] イイネ✕10! ★★★★★! ちょうど周回途中での再開でしたので、遅ればせ…
[一言] 祝!二章スタート! 嬉しい!待ってました! 一章の最終回に感動して、こんな傑作ひとりで味わうのはもったいないと、毎晩、一皿ずつ、小学生の息子ふたりに読み聞かせしています。(R15的?な部分は…
[良い点] 小さな光の『彼』は『彼女』と共に生まれ変わるのを待っている。 でも『彼女』はまだその生を全うしていないから。じっと待っている。 ーーゆっくりでいいよ。 早くおいでよ、とは言わないんだな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ