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――悪――  作者: 亜逸
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第5話 手術

「…………………………ッ」


 上半身を襲う痛みに起こされた大地は、顔をしかめながらも瞼を上げる。


 見知った鋼鉄の天井が視界に拡がっていること、個人用の病室のベッドに寝かされていること、骨折した両腕も含めてしっかりと手当てされていることから、アンブレイカーにやられて気絶した後、仲間の手でアジトまで無事に連れ帰ってもらえたことを把握する。


「……いや。さすがに無事ってわけじゃねぇな、こりゃ」


 首を上げ、毛布に覆われた両脚を見つめる。

 いまだ痛みを訴える上半身とは違い、下半身は痛みはおろか感覚そのものが全くなかった。

 これには大地も、思わず頭を抱えそうになる。というか、両腕が折れていなければ本気で抱えていたところだった。


 考えられるとしたら、アンブレイカーに蹴り足を掴まれて、アスファルトに叩きつけられたあの時。

 パワードスーツを粉砕し、アスファルトを陥没させた激烈な一撃が、大地の脊髄に致命的な損傷を負わせたのだ。

 アンブレイカーに落とし前をつける理由がまた一つ増えた。が、これでは落とし前をつける以前の問題だ。


「クヨクヨしても仕方ねぇ。動かねぇなら、動けるようになるまでリハビリでも何でもするまでだ。……脚が動かねぇのは、一時的な話かもしれねぇしな」


 希望的観測を付け加えた時点で言葉ほど割り切れていないのは明白だが、それでも大地はもう割り切ったと自分に言い聞かせる。

 そうしなければ前には進めないことを、理解しているがゆえに。


 不意に、病室の扉をノックする音が聞こえてくる。


「入っていいぜ」


 と応じると、年若い男の医師が病室に入ってくる。アジト内に数いる、医療スタッフの一人だった。

 医師はベッドの傍までやってくると、感心混じりに大地に言う。


「あれほどの怪我を負ったのに、まさかたった一日で目を覚ますとは。オーガのコードネームは伊達ではないですね」

「オレとしちゃあんまり好きじゃねぇんだけどな、そのコードネーム。それよりオレの脚、動かせるようになるのかよ?」


 こうもいきなり直球に訊ねてくるとは思わなかったのか、医師は面食らった顔をしながらも正直に答えた。


「難しいと言わざるを得ませんね。仮に動かせるようになったとしても、戦闘はおろか日常生活にも支障をきたすのは避けられないでしょう」

「なんとかならねぇのか?」


 縋るというよりも、なんとかしろと言わんばかりの目で睨まれ、医師は思わずといった風情で一歩後ずさる。


「ぼ、僕にはどうすることもできません。ですが……そうですね……カーミリア様が執り行なっている、生体サイボーグ化手術についてはご存じですか?」

「あぁ、勿論だ。組織内でも、ちょいちょい噂になってるしな――って待てよ。つうことはアレか? オマエが言いてぇのは……」


 医師は首肯を返し、断言する。


「その手術を受ければ、パワーアップができる上に、脚を治すことができると思います」


 その話自体は至れり尽くせりの朗報だが、それでも、どうしても、微妙な顔になってしまう。


 大地は、カーミリアに会うために《ディバイン・リベリオン》に入った。

 けれど一人の男として、こんな情けない状態ではできれば会いたくないのが本音だった。


「あなたのことは、デストロイヤ様から直々に『絶対に死なせるな』と命令されています。その上、一戦闘員でありながらあのアンブレイカーに一撃くらわせたとあれば、カーミリア様も手術を引き受けてくれると思いますが、如何します?」

「ソイツに答える前に一つだけ。アンブレイカーにかましたのは一撃じゃなくて二撃だ。まぁ、結局野郎は無傷で、ダメージを負ったのはオレだったけどな」


 自虐気味に言ったところで、ふと気づく。


「そういや、デストロイヤのおっさんはどうなった?」

「……アンブレイカーを相手に、最後まで立派に戦ったという報告は、受けています」

「……そうか」


 知らず、歯噛みしてしまう。

 デストロイヤの下に配属され、戦闘員として働いた期間は三ヶ月にも満たない。

 それでもなお胸の内を掻き毟られるような痛みを覚えるのは、それだけ大地がデストロイヤという(おとこ)のことを認めていたからに他ならなかった。

 アンブレイカーに殺されそうになったところを助けてもらった礼も言えなかったせいもあって、胸の内の痛みは増すばかりだった。


(このままじゃ、アンブレイカーの野郎につける落とし前が増える一方じゃねぇか……!)


 こんな情けない状態でカーミリアに会いたくないとか、くだらない面子にこだわっている場合ではない。

 動かなくなった脚を治すためにも、アンブレイカーを倒す力を得るためにも、生体サイボーグ化手術を受けない理由は、ない。


「手術の件だが、お願いしていいか?」

「! 勿論です! ですが……」

「わぁってる。引き受けてくれるかどうかは、カーミリア次第って言いてぇんだろ? だから手術について打診する際、カーミリアにはコードネームだけじゃなくてオレの本名も伝えてほしいんだ」

「本名を、ですか?」


 医師が意外そうな顔をしながら聞き返す。


 世間的に悪のレッテルを貼られた組織にいる以上、馬鹿正直に本名を名乗る者はそう多くない。いたとしても偽名がほとんどだ。

 ゆえに《ディバイン・リベリオン》においても本名は重視しておらず、コードネームで呼び合うよう取り決めている。

 組織の人間ならば、今の大地の申し出を聞いたら誰もが医師と同じ顔を見せたことだろう。


「あぁ、そうだ。海形大地が生体サイボーグ化手術を受けたいと言ってるって、カーミリアに伝えてくれ」


 大地は悪童じみた笑みを浮かべ、言葉をつぐ。


「そうすりゃ、絶対に手術を引き受けてくれるだろうからな」

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