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――悪――  作者: 亜逸


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第21話 審判計画

 大地は先程グランドマスターの口から出てきた言葉を、反芻するように訊ねる。


「審判計画?」

「そうじゃ。じゃが、計画について話す前に、東京を消滅せしめる我が秘術、ディバイン・トリビューナルについて話すとしよう」


 そう前置きしてから、グランドマスターは言葉をつぐ。


「この星の地の底には、聖光脈(せいこうみゃく)と呼ばれる光のエネルギーの流れが無数に存在する。その流れが合流する地点に、最も流れが強くなるタイミングで、先程カーミリアにも渡した〝釘〟を打ち込むことで、聖光脈に〝楔〟が出来上がる。その〝楔〟を用いて発動するのがディバイン・トリビューナルであり、その威力は〝楔〟の数が増えれば増えるほど指数関数的に増大していく。文字どおり、東京をこの世から消滅せしめるほどにのう」


 あまりにも荒唐無稽な話だが、グランドマスターの物言いがあまりにも真に迫っていたため、不思議と今の話が嘘でもデタラメでもないと飲み込むことができた。


「さて、ここからが審判計画の話になるわけじゃが……その目的は政府にとある選択を突きつけることにある。ディバイン・トリビューナルの力の一端を見せつけ、東京をこの世から消すという言葉に嘘偽りがないことを知らしめた上でのう」


 言いながら、グランドマスターは指を三本立てる。


「都内にいる人間全てに、東京から逃げる猶予を三日与える。その三日の間に、我は政府に選ばせる。他の者たちと同じように東京を見捨てて逃げるか、ディバイン・トリビューナルを止めるために戦うかの二択をな」


 そこまでの説明を聞いたところで、大地は得心の声を上げた。


「あぁ。だから()()計画ってわけか」

「ほう? 察したというのであれば聞かせてもらうとしよう。我が、政府をどう審判しようとしているのかを」

「んなもん簡単だ。ボスは政府に選択を突きつけると言ったが、実質は一択。三日の猶予を与えたことで、先の国会議事堂占拠の時とは違って『突然の出来事だから逃げても仕方がない』という逃げ道を封じちまっているからな。木っ端の政治家はともかく、内閣の中枢にいる政治家が逃げちまったら、その時点で今の政府の信用は地に落ちるって寸法だ」


 にへら、と楽しげな笑みを浮かべながら、大地は言葉をつぐ。 


「だから、政府は必ずディバイン・トリビューナルを止めるために戦うことを選ぶ。ボスはそれを返り討ちにした上で東京を消すことで、政府は勿論、ヒーローの求心力をも地の底に叩きつける。そして、今日本という国の舵を切っている連中が、本当に国の行く末を任せられるほどの人間なのかどうかを全国民に審判させる……で、合ってるだろ? ボス」

「ほっほっほっ。カーミリアから聞いていたとおり鋭いのう。大体そんなところじゃ」

「お褒めに預かるのは光栄だが、正直わからねぇこともある。今の政府の信用を失墜させたところで、頭が代わるだけでこの国自体は何も変わらねぇ。だからといって、ボスがこの国の支配者を気取るつもりもねぇんだろ? ただの日本征服が目的なら、アイツがついて行くわけがねぇしな」


 言いながら、椿のことを親指でさす。

 椿は当然だと言わんばかりに「ふん」と鼻を鳴らした。


「勿論、日本征服なぞするつもりはない。我の目的はただ一つ。この国に……いや、この世界に蔓延している、悪と正義、エネミーとヒーローという二元論的な考え方を払拭することにある」


 今度はグランドマスターが、椿に視線を送る。

 ここからは其方(そなた)が――と、言わんばかりの視線を。

 了承した椿は大地に向き直り、


「そしてそれこそがわたしの望みであり、グランドマスターについて行く理由であり……父様と母様が目指していたものでもある」


 大地は思い出す。

 椿の両親である九宝院夫妻が、社会に適合できずにエネミーに堕ちた者たちを救済する、社会的システムが必要だと訴えていたことを。


「この世界には、本当にちょっとした拍子で、社会という枠組みから外れてしまう者が大勢いる。そのせいでやむなくエネミーに堕ちた者には一縷すらも望みを与えずに、悪として()()することが当たり前になっている。異星も異世界も関係なく、〝人〟という生き物はもっと曖昧なはずなのに、善と悪に二極化できるほど簡単な生き物ではないはずなのに、無理矢理その枠組みに当てはめ、取り合えたかもしれない手を容赦なく振り払い、平然と悪の烙印を押す……。だから、父様と母様は……」


 涙が溢れそうになったのか、椿はしばしの間、きつく、きつく瞑目し……話を続けた。


「完全なる悪が存在しないなどと言うつもりはない。だが、一つの例外もなく全てのエネミーを完全なる悪と断じ、エネミーに手を差し伸べた者まで石を投げられるのは絶対に間違っている。わたしは、そんな世界を変えたいんだ」


 瞑っていた目を開き、一度だけ袖で擦ってから、再び大地に向き直る。


「オーガ。先程わたしが、グランドマスターの思想に共感し、《ディバイン・リベリオン》に協力してくれる者たちがいると話したことは憶えているな?」

「そりゃ勿論」

「その中には政治家も混じっていると言えば、君ならもう大体わかるだろう?」


 まさしく大体わかってしまった大地は、思わず目を剥いた。


「おいおい、テメェで東京消滅させた後に、テメェの息のかかった政治家を政府に送り込むってか? 急に地に足ついた話になったというか、なんというか」


 驚き半分呆れ半分に言った後、大地は楽しげに頬を歪める。


「まぁ、そういう腹芸じみたやり口、いかにも悪党らしくて嫌いじゃねぇけどな」


 グランドマスターもまた楽しげな笑みで応じる。


「伊達に(エネミー)とは言われておらんからのう。ゆえに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 さらっと、世間話でもするように、悲壮なまでの覚悟を口にする。


「……ソイツは、最初(はな)から死ぬ覚悟でやってるってことか?」

「この国の中枢となる()を丸ごと消滅させる以上、我は勿論、《ディバイン・リベリオン》に憎悪が集中するのは避けられん。どこかで退場しなければ、存在しているだけで新たな火種になりかねんほどにな。じゃから、皆には審判計画後でも表社会に戻れるよう、正体を隠すことを徹底させているわけじゃが……デストロイヤもそうじゃったが、ダークナイトは最後まで我とともに征くと言うて聞かなくてのう。カーミリアにしても、本当はこれからの国を創る側に回ってほしかったのじゃが……」

「その話は散々したでしょう。わたしの望みには、今の世界を変えることだけでなく、アンブレイカーを討つことも含まれているのですから」

「そうじゃったな……」


 苦渋が滲んだ顔で、グランドマスターは頷く。

 大地も同じ顔をしそうになるも、グランドマスターよりは彼女に共感できる手前、なんとか(こら)えることができた。


「にしても、いくら組織の息のかかった政治家を擁立するとはいっても、選ぶのはあくまでも国民だ。あえて成功するかどうかもわからねぇ道を選んだ上で命賭けるとぁ……ボス。アンタ、なかなかイカれてんな」

「オーガっ!」


 さすがに最後の言葉は看過できなかったのか、椿が語気を強めて注意するも、当のグランドマスターが片手を上げて制止を求めたため、やむなく引き下がる。

 続けて、どこか悪童めいた笑みを浮かべながら大地に問う。


「じゃが、嫌いじゃないじゃろう? そういうの」


 大地も、それが礼儀だと言わんばかりに悪童めいた笑みを浮かべながら答えた。


「そりゃもう」

「ならば受け取るがよい。イカれた盟主の力がこもった、この〝杭〟をな」


 グランドマスターが前方に掌をかざすと、大地の前腕とほぼ同じ長さの、この世に存在する全ての光を凝縮したかのような輝きを宿した〝杭〟が、宙に浮かぶ形で具現化する。


其方(そなた)が、カーミリアと同じくアンブレイカー打倒を目指していることは()っている。じゃが、はっきり言ってあの男は強い。この我でさえも、真っ向から戦えば勝敗が見えぬほどにな。ゆえに、この〝杭〟にはとりわけ強く我が力を込めておいた。一発限りしか使えぬ分、ダークナイトの魔剣をも凌駕するほどの力をのう」


 先程の〝釘〟と同じように、〝杭〟はふよふよと大地の眼前まで飛んでくる。


「この力ならば、あの男の〝鋼〟も容易く貫けるじゃろう。使いどころ、努々(ゆめゆめ)誤るでないぞ」

「あぁ! 恩に着るぜ、ボス!」


 大地は獰猛に笑むと、眼前に浮かぶ〝杭〟を力強く掴み取った。

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