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第41話『誕生日前日からおめでとう』

 6月18日、金曜日。

 氷織が初めて泊まりに来る自分の誕生日が楽しみすぎて、今週はあっという間に金曜日まで来た気がする。史上最速と言ってもいいくらいだ。

 それにしても、今年の梅雨前線は日本が大好きなのだろうか。今週はずっと雨がシトシトと降っており、空気もジメジメ。去年までは好感度が低かった。ただ、今年は氷織と相合い傘をして登校しているから、この天候や気候もいいなと思えるようになった。

 今日も待ち合わせ場所の高架下からは、氷織と相合い傘をして登校する。連日の雨で見慣れたのだろうか。相合い傘をして登校しても、こちらに視線を向ける生徒は少ない。

 2年2組の教室に行くと、今日もいつも通りに俺と氷織の席の周りで和男達4人が談笑していた。ただ、普段と違って、みんなお店の袋のようなものを持っているけど。


「みんな、おはよう」

「おはようございます、みなさん」


 俺達がそう声を掛けると、和男達はこちらに手を振り、笑顔で「おはよう!」と言ってくれる。外はどんよりとしているけど、ここは明るく爽やかな雰囲気だ。


「ところで……いつもと違って、みんな袋を持っているけどどうしたんだ? 中に何か入っていそうだし」

「おっ、よく気付いたな、アキ!」

「普段と違うからな。すぐに気付いたよ」


 今日の日付や和男の今の明るい笑顔を見て、4人が何を目的にお店の袋を持っているのかおおよその見当がついた。

 氷織達5人は俺を囲むようにして立ち、


「いくぞ! せーの!」

『お誕生日おめでとう!』


 和男の合図で、俺に誕生日をお祝いの言葉を言い、拍手を送ってくれる。5人が大きな声で言ったのもあってか、クラスメイトの何人かも一緒に拍手してくれて。どうもどうも、と返事した。


「みんなが持っているのはアキへの誕生日プレゼントだ! 誕生日は明日の土曜日で、予定のある奴も多いし、アキは青山とお家デートだからな。だから、前日の今日に渡すことにしたんだ!」


 やっぱり、みんなが持っていたのは俺への誕生日プレゼントだったか。学校へ行く直前に姉貴が「プレゼントをたくさんもらうかもしれないから」とエコバッグを持たせてくれたけど、それは正解だったようだ。


「私は明日の誕生日パーティーのときにプレゼントをお渡ししますね」

「うん、楽しみにしているよ」


 和男達がこれから渡してくれる誕生日プレゼントも楽しみだけど、氷織からのプレゼントも凄く楽しみだ。お泊まりもするし、色々なプレゼントの可能性を想像してしまう。ちょっとドキドキしてきた。


「じゃあ、まず俺と美羽が渡すぜ!」

「和男君と一緒にスポーツショップに行って買ったの」

「へえ、そうなんだ」


 陸上部の和男とマネージャーの清水さんらしいな。ちなみに、去年の誕生日には和男がキーホルダー、清水さんがシャーペンをプレゼントしてくれた。どちらも現役だ。

 和男と清水さんから、同じデザインの袋をもらう。

 まずは和男がくれたプレゼントを確認してみるか。

 袋から取り出すと……細長い箱だ。箱には青い水筒の写真がプリントされている。容量は500mlか。


「おっ、水筒だ」

「おう! これからより暑くなるから、水筒がいいと思ってな。保冷できるし、水筒自体も軽いんだ!」

「……確かに、箱に入っている状態でも結構軽いな。これなら持ち運びにも良さそうだ。ありがとう、和男」

「おう! 使ってくれると嬉しいぜ!」


 和男は満面の笑みを浮かべてサムズアップ。これからより熱くなるし、この水筒がさっそく活躍することだろう。

 次に清水さんが渡してくれた袋の中身を確認してみよう。取り出してみると……青くて大きめのスポーツタオルが出てきた。


「スポーツタオルか」

「和男君と同じ理由で、これからより暑くなるからね。体育の授業のときとか、汗を掻いたときに使えればと思って」

「そうだね、体育の授業のときに使わせてもらうよ。ありがとう、清水さん」

「うんっ」


 清水さんは可愛らしく笑いながら頷いた。

 和男は水筒で、清水さんはスポーツタオルか。今年も実用的なものをプレゼントしてくれたな。大切に使っていこう。


「じゃあ、次はあたしが渡すわ。紙透、17歳のお誕生日おめでとう」

「ありがとう、火村さん」


 火村さんは白い袋を手渡してくれる。大きさは両手で収まるサイズで、重さ的には清水さんのスポーツタオルと同じくらいかな。

 袋の中身をさっそく取り出してみると……みやびのぬいぐるみが出てきた。氷織と葉月さんと清水さんが「かわいい」と声を漏らす、


「おおっ、みやびのぬいぐるみだ!」

「反応がいいわね。紙透は漫画やアニメ、ラノベが好きだからキャラクターグッズがいいと思ったの。それで、氷織に相談したら、紙透は『みやび様は告られたい』が大好きだって教えてもらって。あたしの地元にもゲームセンターがあるから、そこのクレーンゲームでみやびのぬいぐるみを取ったの」

「そうだったんだな」


 ちなみに、『みやび様は告られたい』は2度TVアニメ化されるほどの大人気のラブコメ漫画。俺の大好きな作品で、氷織と一緒にアニメのBlu-rayを観たので、思い入れの深い作品でもある。タイトルに登場しているように、みやびはこの作品のメインヒロインだ。

 火村さんがこのぬいぐるみを手にするまでの話を聞いたから、このみやびのぬいぐるみがとっても可愛く思えてきた。


「嬉しいよ、ありがとう。あの漫画の中でも、みやびは結構好きなキャラクターだし」

「そう言ってくれて良かったわ。大切にしてね」

「もちろん」


 俺がそう言うと、火村さんはニッコリと可愛らしい笑みを浮かべた。

 大きさと形的に、俺の部屋の勉強机かテレビの台に飾るのが良さそうだ。みやびのぬいぐるみの頭を撫でながらそう思った。


「そうやって撫でていると、あたしが頭を撫でられているみたいでドキドキするわ」


 頬をほんのりと赤らめてそう言う火村さん。何だか火村さんらしいな。火村さんのいる前では、変なところを触ってしまわないように気をつけよう。


「じゃあ、ラストはあたしッス!」


 そう言って、葉月さんは深緑色の袋を渡してくれる。この袋……先日の葉月さんがバイトしている有前堂という書店の袋だ。ということは、プレゼントは書籍関連かな。

 袋から中身を取り出すと……シュリンクされた一冊の本が。表紙にはセーラー服姿の2人の女の子が寄り添った可愛らしいイラストが描かれている。扉や天の雰囲気からしてこれはコミックかな。ええと、本のタイトルは――。


「『微かに。そして、確かに。』っていうんだ」

「そうッス。あたしの好きなガールズラブ漫画家の今週発売の最新作ッス。以前、紙透君の本棚を見たときに、ガールズラブ作品の漫画の背がちらほら見えたッスから」

「ガールズラブ漫画もそれなりに読むよ。この漫画家さんも知ってる」

「そうッスか! その作品も読んだッスけど、結構良かったッスよ」

「そうなんだね。ありがとう。今日、家に帰ったら読んでみるよ」

「楽しんでもらえたら何よりッス」


 葉月さんは爽やかな笑みで俺にそう言ってくれた。ガールズラブとボーイズラブ作品が大好きで、書店でバイトしている葉月さんらしいプレゼントだな。あと、葉月さんは恋愛描写の激しい作品を読むのも書くのも好きだから、この漫画にもそういうシーンがあるのかどうか興味がある。


「誕生日の前日からこんなにおめでとうって言ってもらえて、誕生日プレゼントをもらえて凄く嬉しいよ。本当にありがとう」


 素直に感謝の気持ちを伝えると、氷織は優しい笑顔を、和男と清水さんと葉月さんは明るい笑顔を、火村さんはちょっと照れくさそうな笑顔を見せてくれた。本当に俺はいい恋人と友人達に囲まれている。幸せ者だと思うのであった。




 その後も、俺の誕生日を覚えていてくれたのか、1年のクラスが一緒だった友人が誕生日プレゼントを渡しに来てくれて。あと、朝礼前の和男達を見て俺が明日誕生日なのを知ったのかお菓子や飲み物をくれるクラスメイトもいた。

 また、放課後にバイトへ行くと、シフトが重なっていた筑紫先輩が、俺が好きで、氷織にも貸したラノベ『幼馴染が絶対に勝つラブコメ』のヒロイン2人のミニフィギュアをプレゼントしてくれた。

 バイトから帰るときには、姉貴が持たせてくれたエコバッグはパンパンになっていたのであった。




 夜。

 今日の授業で出た課題を終わらせ、葉月さんが誕生日プレゼントでくれたガールズラブ漫画『確かに。そして、微かに。』を読む。キュンキュンするガールズラブコメ作品で、終盤は表紙に描かれた2人のヒロインが結ばれ、濃密にイチャイチャしていた。


「いい漫画だった……」


 読み終わってすぐに、葉月さんへ『面白くて、とてもいいガールズラブ漫画だった』とメッセージを送る。すると、


『楽しんでもらえて嬉しいッス! いい作品ッスよね!』


 という返信がすぐに届いた。スマホを持って嬉しそうにしている葉月さんの姿がすぐに思い浮かぶ。とても良かったので、この漫画の作者の他のオススメ作品を訊くと、葉月さんはいくつも紹介してくれた。今後は紹介してもらった作品から読んでみようと思う。

 葉月さんとメッセージを送り合った後は、昨日の深夜に録画したアニメを視聴する。そんな中で日付が変わり、6月19日に。


「17歳になったか……」


 まさか、恋人ができて17歳になるとは。しかも、その恋人は絶対零嬢の異名を持つ青山氷織。16歳になった1年前には想像もしなかったな。

 ――コンコン。

 扉がノックされた音が聞こえる。このタイミングでノックする人間は一人しか考えられない。


「はい」


 と、部屋の扉を開けると、そこには寝間着姿の姉貴が立っていた。


「明斗、お誕生日おめでとう!」


 とっても嬉しそうに祝福の言葉を言うと、姉貴は俺のことをぎゅっと抱きしめてきた。俺が小学生くらいまでの間は、誕生日に「おめでとう」と抱きしめられたことはあった。だけど、誕生日になった直後にされたのは初めてだ。

 17歳になってから最初に誕生日をお祝いしてくれるのは、氷織を含めたいつもの5人の誰かと思ったんだけどな。まあ、姉貴は一緒に住む家族だもんね。ブラコンと言っても過言ではないし。


「ありがとう、姉貴」

「いえいえ。明斗の誕生日は嬉しい日だよ。明斗が生まれたのはもちろん、私が明斗のお姉ちゃんになれた日なんだもん!」

「……確かにそうだな。良かったね」


 当たり前のことなんだけど、ここまで嬉しそうに話されると自然に「良かったね」という言葉が出てくる。俺が言うのはおかしいかもしれないけど。


「17歳になった明斗に会って、抱きしめたからよく眠れそうだよ。じゃあ、おやすみ!」

「うん、おやすみ」


 夜の挨拶を交わすと、姉貴は俺への抱擁を解いて自分の部屋に戻っていった。もしかしたら、来年からもこれが恒例になるかもしれないな。

 ――プルルッ。プルルッ。

 ローテーブルに置いておいたスマホが何度も鳴るので確認すると、LIMEで複数人からメッセージが届いていると通知が。

 アプリを開くと、いつもの5人とのグループトークに『5』という新着のメッセージや写真の数を表す数字が表示されていた。


『明斗さん! 17歳のお誕生日おめでとうございます!』

『アキ! 改めておめでとうだぜ!』

『紙透、お誕生日おめでとう!』

『お誕生日おめでとう! 紙透君!』

『紙透君お誕生日おめでとうッス! あと、みんな送るの速いッスね!』


 と、俺にバースデーメッセージを送ってくれた。

 いつもの5人以外にも、筑紫先輩や学校で誕生日プレゼントをくれた友人中心に個別トークで『誕生日おめでとう!』とメッセージをくれる。今年は誕生日が土曜日で学校が休みなのもあるだろうけど、誕生日になった直後にこんなにたくさんメッセージが来るとは。初めてかもしれない。

 みんなに『ありがとう』と返信を送っていると、氷織からビデオ通話の着信が。さっそく通話に出ると、画面には桃色の寝間着姿の氷織が映る。俺の姿が映ったのか、氷織は可愛い笑顔で手を振ってくる。


『明斗さん、お誕生日おめでとうございます! メッセージも送りましたけど、明斗さんの顔を見て声で伝えたくて』

「ははっ、そっか。本当に嬉しいよ。ありがとう、氷織」

『いえいえ』

「明日……いや、今日って言った方がいいか。氷織がうちに来て、一緒に過ごすのを楽しみにしてるよ」


 俺がそう言うと、スマホの画面に映っている氷織はニッコリと笑って、


『はいっ! 私も楽しみにしていますね!』


 明るい声でそう言ってくれた。そんな氷織を見ると、氷織と一緒に誕生日を過ごすことの期待感がより膨らんでいく。しかも、泊まるのは初めてだから。

 それから少しの間、17歳になってから初めてする氷織との通話を楽しむ。氷織はここにいないけど、幸せな気持ちで満たされた。



 ちなみに、通話が終わると、枕を持った姉貴が「17歳になった明斗と寝たい!」と俺の部屋に入ってきて。なので、一緒に寝てあげたのであった。

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