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第37話『ウォータースライダー』

 流れるプールを楽しんだ俺達は、氷織の希望でウォータースライダーで遊ぶことに。

 浮き輪を遊具のレンタルコーナーに返却し、ウォータースライダーの入口へと向かう。


「きゃーっ!」

「うおおっ!」


 そんな男女の叫び声が聞こえた直後、ウォータースライダーの出口から男女2人が乗った浮き輪が姿を現す。勢いがあるのか、到着すると2人とも浮き輪から投げ出されてプールに落ちた。


「な、なかなかの勢いがありそうだな。ここのウォータースライダー」

「そうですね。スリルがあって結構楽しいですよ。あと、今見て分かったと思いますが、ここのウォータースライダーは2人同時に滑ることができるんです。去年遊びに来たときは、沙綾さんや絶叫系のアトラクション好きな友達と何度も一緒に滑りました」

「そうなんだ」


 そのときのことを思い出しているのか、氷織はとても楽しげな様子に。氷織は絶叫系のアトラクションは好きな方だからな。ゴールデンウィーク中に遊びに行った東都ドームタウンでは、ジェットコースターやフリーフォールといった絶叫系アトラクションを凄く楽しんでいた。

 去年は葉月さんと一緒にウォータースライダーを滑ったのか。葉月さんもドームタウンでは絶叫系を楽しんでいたからなぁ。


「明斗さんはウォータースライダーを滑ったことはありますか?」

「何度かあるよ。家族旅行で行ったホテルのプールとかで。2人一緒に滑れるって分かると、姉貴に連れて行かされたこともあったよ」

「ふふっ、明実さんらしいです」


 姉貴も絶叫系が大好きだからなぁ。俺と一緒に滑ると物凄く楽しそうにしていて。休憩を入れずに、数回付き合わされたこともあった。


「経験があれば、とりあえずは大丈夫そうですね。明斗さん、ドームタウンのジェットコースターに乗った後はフラフラしていましたし、フリーフォールの後は地面に足を付けられることに感激していましたから。ウォータースライダーは大丈夫なのかなと思いまして」

「ウォータースライダーは3、4年ぶりだけど、きっと大丈夫だと思う。勢いがあるみたいだからちょっと怖いけど。ただ、さすがに、ジェットコースターとかフリーフォールほどの勢いはないだろうし。それに、氷織と一緒に滑れるからな。大丈夫だろう」


 そう言って、俺は氷織と繋いでいる手の握り方を少し強くする。


「まずは一度滑ってみないと」

「そうですね。一度試してみることは大切だと思います。私も一緒に滑りますし、ゴールして浮き輪から投げ出されても、私が助けますから安心してください!」


 明るい笑顔でそう言うと、氷織は自分の胸元をポンと叩く。頼りになるオーラが物凄く出ている。


「ちなみに、ゴールのプールって足がつく深さだよね?」

「はい」

「それならさすがに溺れないと思うけどなぁ。それでも安心できるよ。ありがとう」

「ふふっ」


 優しく笑う氷織。きっと、俺が流れるプールであまり泳げない話をしたから助けると言ってくれたのだろう。

 ウォータースライダーの入口に到着する。

 入口のところにいた係の男性に「2人で滑りますか?」と訊かれた。そうだと答えると、男性から2人乗り用の浮き輪を渡され、スタート地点に向かう階段に通された。

 階段を上っていくと……途中で女性2人の姿が見える。その先にも立ち止まっている人の姿が何人も。


「きっと、ここが待っている人達の列の最後尾だろうね」

「そうですね。人気がありますので、去年も何度か階段から並びました」

「そうなんだね。まあ、気長に待とう」


 良かった、並んでいる人がいて。もし、人がいなかったら、心の準備ができずに滑っているところだった。


「そういえば、この2人乗りの浮き輪って前後に座るタイプなんだね。今のうちにどっちに座るか決めておこうか」

「そうですね。明斗さん、好きな方を選んでください。私はどちらでもかまいませんよ」

「……う、後ろがいいな。そうすれば、氷織の後ろ姿が見えるし」

「いいですよ。では、私が前の方に座りますね」

「ありがとう」


 氷織の姿が見える中で滑れば、少しは怖さが軽減されると思うから。

 それからも定期的に列は前に進んでいく。そして、定期的に「きゃーっ!」という女性の黄色い叫び声や、「うおおっ!」という男性の野太い声も聞こえてくる。スリルがあるって氷織が言っていたもんなぁ。あぁ、緊張してきた。

 氷織を見てみると……結構ワクワクした様子だ。さすがは去年何度も滑っただけのことはある。


「本当に楽しみなんだね、氷織」

「はいっ! およそ1年ぶりですし、今回は明斗さんと一緒に滑れますから。とっても楽しみです!」


 弾んだ声で氷織が話してくれたから、緊張が段々と解けていく。怖さがないといったら嘘になる。だけど、氷織と一緒なら楽しめそうという気持ちの方が強い。


「そっか。俺も氷織と滑れるのが楽しみな気持ちが膨らんできたよ」

「そうですか。一緒に楽しめたら嬉しいです」


 そう言い、氷織はニコッと笑った。

 ウォータースライダーに対して、ポジティブな気持ちをしっかり抱いたからだろうか。そこから俺達の順番になるまではあっという間な気がした。


「では、前後で座ってくださいね」


 スタート地点近くに立っている係の女性にそう言われたので、俺達はさっき話した通り、前に氷織、後ろに俺が座る。浮き輪には2つの穴があるから、それぞれの穴に座る形だ。意外とすぐ目の前に氷織の後ろ姿が見える。


「前に座っていますが、両側に明斗さんの脚が見えるのはいいですね」

「ははっ、そうか」

「ふふっ、仲のいいカップルさんですね~」


 氷織と付き合い始めて1ヶ月近く経つけど、知らない人に「カップルさん」って言われるとちょっとドキッとする。ふふっ、と笑われたからだろうか。


「では、カップルさんいってらっしゃーい!」


 係の女性は元気良くそう言うと、俺達が乗る浮き輪を押した。

 そのことで、俺達が乗る浮き輪はウォータースライダーの水の流れに乗る。最初こそゆっくりだけど、水の勢いもあって段々とスピードに乗り始める。


「おおっ、速くなってきた!」

「ですね! どんどん速くなっていきますよー!」


 興奮しているのか、氷織の声がいつもよりもかなり高い。きゃーっ! と声を出しているけど、声色からして楽しんでいるのが分かる。そう思っていたら、氷織がこちらにチラッと振り返ってきた。予想通り、氷織はいい笑顔になっている。

 氷織の言う通り、浮き輪の流れるスピードがどんどん速くなっていく。そんなことを考えていたら、急にコースの傾斜がキツくなり、格段にスピードが増した!


「うわっ! 今の凄かったな!」

「私も初めて滑ったときは驚きました!」


 きゃあっ! と楽しそうな声を出す氷織。

 浮き輪のスピードが結構出ていたり、コースが円形になっていたりするので、俺達の乗る浮き輪は左右に揺れながら前進していく。スピードが速いだけでなく、不規則に左右に揺れるからかなりスリルがあって怖い。揺れたときに水しぶきが飛び、顔にかかって前が見えにくくなることでスリルさに拍車がかかる。

 きゃーっ! きゃーっ! と氷織が黄色い声で断続的に叫んでいるので、俺も「おおっ!」などと何度も叫ぶ。そのことで、怖さが多少は和らぎ、楽しい気持ちにもなってきて。

 氷織と一緒に叫びながら、俺達の乗る浮き輪はゴールのプールに到着。ただ、勢い良く到着したので、俺も氷織も浮き輪から投げ出されてプールに落ちた。


「ぷはっ!」


 プールに両足を付けて、俺は水面から顔を出した。右手で顔についたプールの水を拭う。

 周りを見ると、俺達が乗っていた浮き輪の側から氷織が俺のことを見ていた。ウォータースライダーを滑ったから、氷織の濡れた顔にはとても楽しそうな笑みが浮かんでいる。これまでのプールデートで一番と言っていいんじゃないだろうか。


「ウォータースライダー楽しいですね! たくさん叫んじゃいました!」

「楽しそうな声をたくさん出していたね」

「ふふっ。明斗さんはどうでしたか? 明斗さんも叫んでいましたけど」

「……結構怖かった。途中のキツい傾斜で急に速くなるし、浮き輪が左右に揺れるし。でも、氷織の後ろ姿も常に見えるし、氷織と一緒に叫んだら楽しい気持ちにもなってさ。これなら、何度滑っても楽しめそうだ」


 ドームタウンで最初にジェットコースターを乗った後に似ている感覚だ。アドレナリンが出ているのかもしれない。

 素直にウォータースライダーの感想を言ったからだろうか。氷織の口角はより上がって、白い歯を見せながら笑ってくれる。


「そう言ってくれて嬉しいです! では、もう一度滑りますか?」

「ああ、滑ろう。今度は俺が前に座ってもいいかな?」

「もちろんですよ! さあ、行きましょう!」


 目を輝かせた氷織は2人乗りの浮き輪を持ち、俺の手を引いてくれる。そして、再びウォータースライダーの入口へ。

 さっきと同じくらいの時間を並んで、俺達は2度目のウォータースライダーを滑る。今回は前の方に座ったので、1度目よりも怖さが強くて。でも、氷織と一緒に叫ぶのでとても楽しめた。

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