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第6話『映画デート』

 5月22日、土曜日。

 空は快晴であり、時折、涼しい風が穏やかに吹いている。雨が降る心配もないので、まさにデート日和だ。

 午前9時45分。

 俺はNR萩窪駅の東京中央線快速・上り方面のホームに立っている。

 今日は約束通り、『空駆ける天使』というアニメーション映画を氷織と一緒に観に行く予定だ。お互いに何度も行ったことのある都心の琴宿(きんじゅく)区にある映画館で、午前10時半の上映回で。チケットはネットでの予約が始まった一昨日に、氷織とどこの座席にするかを相談した上で俺が予約した。

 また、お昼ご飯は琴宿で食べ、午後は火村さんと葉月さんが住んでいる高野(たかの)という街へ。2人がバイトしているお店や、氷織が葉月さんと何度か訪れたことのある猫カフェに行く予定だ。

 氷織曰く、火村さんも葉月さんも今日の午後にシフトが入っており、2人にはその時間帯にお店に行くと伝えてあるとのこと。ちなみに、2人は俺達が映画デートをすることを知っている。

 ゴールデンウィークにみんなで遊園地へ行ったときと同じように、氷織とは乗っている電車で会うことになっている。

 俺は氷織に、乗る予定の電車の萩窪駅の発車時刻と、俺がどの場所に乗る予定なのかをメッセージで送った。すると、10秒ほどで俺のメッセージに『既読』のマークが付き、分かりましたと返信が届いた。これで大丈夫かな。


『まもなく、4番線に快速・東京行きがまいります。黄色い線の内側までお下がりください。まもなく――』


 上り方面の電車がまもなく到着するという放送が流れる。これなら、定刻通りに萩窪駅を発車しそうだ。

 それからすぐに、東京行きの電車が到着する。

 乗車すると……先頭の車両だから空席となっている座席もある。今のところ2つ連続で空いている席はないけど、氷織の待つ笠ヶ谷駅での乗降次第では氷織と一緒に座れるかもしれない。

 やがて、扉が閉まり、電車は定刻通りに萩窪駅を出発する。

 扉のすぐ上に設置されている液晶ディスプレイには、終点の東京駅までの各駅の所要時間が表示されている。笠ヶ谷駅までは2分、琴宿駅までは10分か。人身事故や電線トラブルで遅延したり、運転見合わせになったりしないことを祈ろう。

 みんなで遊園地に行ったときの話題にもなったけど、電車に乗っていると気分が高揚としてくる。通学が自転車か徒歩だからかな。あとは、これからデートで、もうすぐ氷織と会えるからなのもある。


『まもなく、笠ヶ谷。笠ヶ谷。お出口は右側です』


 萩窪駅から2分で到着するだけあって、もうアナウンスが流れるのか。さっき、乗る電車と場所のメッセージを送ったし、到着したら開く扉の先に氷織がいるだろう。

 電車は減速し、笠ヶ谷駅の中に入る。

 笠ヶ谷駅のホームには……階段やエスカレーターの近く中心に人がいるな。土曜日だからカジュアルな服装の人が多い。

 やがて、電車は停車する。

 俺の近くにある扉の向こうには……ネイビー色の半袖のシャツワンピース姿の氷織が立っていた。萩窪デートのときにも持っていた明るいブラウンのトートバッグを持って。氷織も俺に気づいたようで、明るい笑顔でこちらに手を振っている。氷織がいることに嬉しさを抱きつつ、氷織に向けて小さく手を振った。

 扉が開き、車内にいた人が降車した後、氷織は乗車してきた。


「おはようございます、明斗さん」

「おはよう、氷織。ちゃんと会えて良かった。正式に付き合ってから、今日が初めてのお出かけするデートだから」

「確かにそうですね。今までは放課後や休日は試験対策の勉強会をしていましたもんね。昨日は沙綾さんと恭子さんとお昼ご飯を食べただけでしたから。……あそこに2席空いていますから、そこに座りましょう」


 氷織はすぐ近くにある座席を指さした。そこは2席連続で空いている。笠ヶ谷駅で降りた人がいたから空いたのだろう。

 俺達は空いている2席に座る。琴宿駅まで10分もかからないけど、氷織と一緒に座っている時間を楽しもう。

 それにしても……こうして隣から見るとワンピースがよく似合っているな。ネイビー色だから、氷織の白くて綺麗な肌も際立っていて。ボタンが一つ開いているので、デコルテがチラッと見えることにドキッとする。


「どうしましたか? 私のことをじっと見て」

「……そのワンピース姿が凄く素敵だと思って。似合っているよ」

「ありがとうございます」


 そうお礼を言うと、氷織はとても嬉しそうに笑う。本当に可愛らしい。俺と同じようなことを思っているのか、周りにいる何人かの乗客が氷織をチラチラと見ている。

 右手を氷織の左手にそっと重ねる。すると、氷織は優しい笑みを浮かべ、唇を軽く重ねてきた。


「明斗さんのジャケット姿も素敵ですよ。かっこいいです。七分袖なので涼しそうです」

「ありがとう。今日は晴れているけど、風が吹くと涼しくて気持ちいいよ」

「そうなんですか。琴宿に着いたら、スマホで一緒に写真を撮りましょうよ」

「うん、そうしよう」


 今日のデートの思い出が形に残るから。

 それからは、今まで琴宿の映画館でどんな作品を見たのか。劇場アニメではどういった作品が好きかなどといった話に。琴宿で同じ作品を観ていたり、好きな劇場アニメ作品が複数あったりしたことが分かって結構盛り上がった。

 氷織との映画話が面白いのもあり、琴宿駅まではあっという間だった。


「琴宿に着きましたね! 1年間に数えるほどしか来ませんから、琴宿に来ると毎回、高層ビルの多さや人の多さに圧倒されます」

「さすがは都心って感じだよな。都庁のある区だし」

「ですよね。ちなみに、琴宿駅は世界で一番利用客の多い駅だそうですよ」

「へえ、そうなんだ。初めて知った」


 世界一多く利用されている駅なら、周りにたくさんの人がいるのも頷ける。あと、人がたくさんいるだけあって、すれ違う人中心に氷織のことを見ている人が結構いて。

 琴宿の景色を楽しみながら、俺達は映画館の入っている商業ビルへ向かう。年に数えるほどしか来ないからか、目を輝かせて周りの景色を見ている氷織が可愛らしい。

 映画館のあるビルの出入口に到着したとき、氷織と一緒にツーショットの自撮り写真を撮った。

 ビルの中に入り、エレベーターを使って映画館のある9階へ。


「映画館の中も人がいっぱいいますね」

「そうだね」


 土曜日の午前10時過ぎなのもあってか、映画館のフロントには多くの人が。チケット売り場に向かって長蛇の列ができている。俺達のようなカップルもいれば、数人ほどの学生のグループ、家族連れ、老夫婦、一人で来ている人など様々。

 チケット売り場の横には予約した人用の発券機コーナーがある。発券機は数台あるので、そちらに並んでいる人はいない。

 俺達は空いている発券機へ向かい、予約した『空駆ける天使』の午前10時半の上映回のチケットを2枚発券した。予約したチケットがちゃんと発券されると何だかほっとする。


「はい、氷織」

「ありがとうございます。予約して正解でしたね。あの長蛇の列に並んでいたら、10時半の上映回で隣同士に座れるチケットを買えなかったかもしれないですし」

「そうだね。あと、あんなに列が長いと、上映開始に間に合わずにチケットの販売が終了しちゃうかもしれないしね」

「ですね。上映開始まで少し時間がありますし、売店に行きましょう」

「そうだね」


 俺達はチケット売り場の近くにある売店へ。

 売店では現在公開されている作品のパンフレットやグッズ、今後上映される作品の前売り券などが販売されている。もちろん、売店には俺達が観る『空駆ける天使』のグッズやパンフもある。

 氷織と一緒に『空駆ける天使』のコーナー中心に見る。氷織はパンフレットと、主要キャラクターが描かれたポストカードセットを購入した。

 上映時間が迫ってきたので、俺達はお手洗いを済ませ、フード&ドリンクコーナーへ。

 カップル向けのドリンク&ポップコーンセットが販売されているので、俺達はそれを購入。ちなみに、ポップコーンは塩味で、ドリンクは俺はジンジャエール、氷織はゼロカロリーのコーラにした。

 ポップコーンとドリンクを買ってすぐに、『空駆ける天使』の入場案内が始まった。俺達は劇場の入り口へ向かう。女性のスタッフさんにチケットを出して、指定された番号のスクリーンへ。

 スクリーンの中に入り、俺達はチケットに書いてある座席番号へ行く。そこは後方にある通路外側の2席だけ並んでいる席だ。個室感があってゆったり観られそう、という氷織の希望からこの2席を予約したのだ。

 奥側に氷織、通路側に俺が座り、座席のホルダーにポップコーンの入ったトレイやドリンクをセットする。


「スクリーンに向かって少し角度がありますけど、後ろの方なので観やすいですね」

「そうだね。それに、席が2つだけだからプライベート感もあっていいね」

「ええ。なので、映画をより楽しめそうです」


 ニッコリと笑いながらそう言う氷織。氷織があまりにも可愛いから、上映中はスクリーンじゃなくて氷織の方を見てしまうかも。

 上映開始時間が迫るにつれて、どんどんお客さんが入ってくる。恋愛系の少女漫画が原作なだけあってか、女性が結構多いな。男性もちらほらいるけど、その大半は俺のように女性と一緒に来ている人だ。

 やがて、スクリーンの中が暗くなり、近日公開予定の作品の予告が放映される。女性向けのアニメ映画だけあって、アニメ作品や若い男性俳優やアイドルが主演する実写映画の予告が多い。氷織はアニメ作品に興味を示していた。

 予告が終わって、いよいよ映画が始まる。上映時間は100分。作品の世界にたっぷりと浸ろう。

 この作品は泣けると評判だけど……果たして、俺は泣くのだろうか。氷織が隣にいるし、号泣してしまうことは避けたい。

 この前、氷織の部屋で原作漫画をペラペラとめくり、絵柄がとても綺麗だと思ったけど、アニメになってもその美しさは変わらない。

 本編が始まってから数分ほど経ったとき、右肩に重みと温もりを感じるように。それと同時にほんのりと甘い匂いを感じて。そちらの方を見ると、氷織が俺に身を寄せ、右肩に頭を乗せていた。氷織と目が合うと、氷織は優しい笑顔を見せる。


「この体勢で観てもいいですか?」


 氷織は俺にしか聞こえないような小さな声で問いかけてくる。お家デートでBlu-rayを観るときも寄り添うことが多いからかな。

 氷織からのお願いに対して、俺は首肯する。すると、氷織は口角を上げ、小さな声で「ありがとうございますっ」と言った。

 それからは氷織と寄り添いながら映画を観ていく。ほのぼのとしたシーンのときを中心に何度か、


「明斗さん。あ~ん」

「ありがとう。じゃあ、氷織にも。あーん」


 と、お互いにポップコーンを食べさせ合いながら。氷織と初めての映画デートを楽しむのであった。

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