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第37話『連休明け』

 5月6日、木曜日。

 ゴールデンウィークが明けて、今日から再び学校生活が始まる。

 今日は雨が降る心配がないので、自転車で登校することに。氷織との待ち合わせ場所である高架下に向かって家を出発する。

 笠ヶ谷高校では、5月になるとブレザーのジャケットを着なくてもいい決まりになっている。なので、俺はワイシャツの上に黒いベストを着ている。そんな服装もあり、日差しを浴びてもあまり暑く感じない。

 氷織はどんな服装になるだろう? これまでと同じくジャケット姿なのか。それとも、俺と同じようにベストを着ているのか。去年は……確か、紺色のカーディガンを着ていた記憶がある。どんな服装か楽しみだ。そんなことを考えていたら、ペダルを漕ぐのが自然と早くなった。

 家を出発してから6、7分。待ち合わせ場所の高架下が見えてきた。時計を見ると、今は午前8時5分か。氷織はいつも早めに来るから、もう来ている可能性が高いな。


「……あれ?」


 高架下に行くと……そこに氷織の姿はまだなかった。待ち合わせの8時10分よりも前なので、来ていなくても問題はない。でも、今までは氷織が既に待ってくれているのが普通だったから、何かあったんじゃないかと心配してしまう。

 自転車を止め、スマホを確認する。氷織からのメッセージは……ないか。ということは、待ち合わせの時間までにはここに来るだろう。

 氷織の家がある方に視線を向ける。すると、ブラウスの上に紺色のカーディガンを着る氷織が、小走りでこちらに向かってきているのが見えた。今日は体育の授業があるので、バッグだけでなく、水色の体操着入れも持っている。氷織も俺に気づいたようで、微笑んでこちらに向かって手を振ってくる。その姿を見てほっとする。


「明斗さん、おはようございます」


 俺の目の前に立ち止まると、氷織は挨拶して軽く頭を下げた。小走りで来たからか、頬がほんのりと赤くなっており、呼吸もちょっと乱れている。


「おはよう、氷織」

「……ご、ごめんなさい。遅れてしまって……」

「気にしないで。待ち合わせの時間には間に合っているし。それに、こういう日だってあるさ」

「ありがとうございます。実は寝坊してしまいして。昨日、明斗さんにメッセージを送った後に読んだ本が面白くて、夜のかなり深い時間まで起きていたんです」

「そうだったんだ。俺もそういうことあるよ」


 そのせいでかなり寝坊してしまい、必死に自転車を漕いでギリギリ間に合ったこともあったっけ。


「あと、昨日の疲れが残っているのか、ぼーっとしてしまうときもあって。普段よりも遅く家を出たので、小走りでここまで来たんです」

「そうだったんだね。間に合うように来てくれたのは嬉しいよ。ただ、少しくらいの遅れだったらここで待っているから。遅れそうなときは、その旨のメッセージをくれれば大丈夫だよ」

「分かりました。今後はそうします」


 氷織は安堵の笑みを浮かべる。

 昨日は一日ずっと東京ドームタウンアトラクションズで遊んでいたからな。絶叫系のアトラクションもたくさん乗ったし。行き帰りでは普段は乗らない電車に乗った。それらのことで、疲れが溜まってしまったのかもしれない。

 それから少しして、氷織の呼吸の乱れが治まった。


「そろそろ行く? それとも、もう少しここで休む?」

「行きましょう」

「分かった。あと、俺の自転車のカゴはまだ少し余裕があるから……体操着入れくらいなら入れられると思う」

「そうですか。では、学校まで入れてもらっていいですか?」

「ああ、いいぞ」


 氷織から体操着入れを受け取り、自転車のカゴへ。問題なく入れることができたので安心した。もし、これで入れられなかったら、きっと格好悪かっただろうから。

 そして、今日も氷織と一緒に笠ヶ谷高校に向かって歩き始める。


「氷織。その紺色のカーディガン、よく似合っているね。可愛いよ」

「ありがとうございます。このカーディガン、気に入っていて1年の頃から着ているんです。明斗さんも黒いベスト姿が素敵です」

「ありがとう。ジャケットを着なくていい時期や、冬のとても寒い日にはベストを着ることが多いよ」

「そうですか。私も同じ感じです。夏服の時期はもちろんのこと、5月中でも晴れて暑い日はこれと同じ色のベストを着ることもありますね。あと、夏の時期は教室のエアコンがかかっていますし、去年のクラスは温度をかなり下げることが多くて。寒いので、教室ではカーディガンを着る日もありました」

「そうだったんだ。去年俺がいたクラスも、夏にカーディガンを着ている生徒がいたな。外が暑いから、教室はよーく冷やそうって方針だったから」

「ふふっ、そうでしたか」


 氷織は朗らかに微笑んだ。氷織の家でお家デートしてから、微笑みや笑顔を見ることが多くなってきた。でも、ゴールデンウィーク前まではほとんど見たことがなかったので、何だか新鮮に見えた。

 こうして氷織に会える。

 氷織と一緒に歩ける。

 氷織の笑顔を見られる。

 だから、連休明けの気怠さは全然なくて。きっと、五月病になってしまう心配はないだろう。


「ふああっ……」


 隣から氷織の可愛らしいあくびが聞こえてくる。チラッと氷織を見ると、氷織は右手で口元を押さえていた。そんな姿も可愛らしい。

 俺に見られていることに気づいたのだろう。氷織は頬をほんのりと赤くしてはにかむ。


「あくび見られちゃいました。まだちょっと眠くて。本調子ではないといいますか」

「疲れが残っているって言っていたもんね。無理はしないようにね。午後だけど、今日は体育の授業があるし」

「分かりました、気をつけます」


 体育は男女別。今は女子とは違う場所で行っている。氷織の様子を見られないのは心配だ。ただ、火村さんと清水さんがいるし、2人に氷織を気に掛けてもらうように言っておくか。

 笠ヶ谷駅近くの交差点を渡ると、今日もうちの高校の生徒が多く歩いている。5月になり、ジャケットを脱いでいいことになったため、ワイシャツ姿、ベスト姿、カーディガン姿、今までと変わらずジャケット姿と生徒の服装は様々。また、ベストやカーディガンは無地かワンポイントであれば何でもかまわない規則。なので、目の前には結構カラフルな景色が広がっている。ジャケットを着なくていい期間は10月末日まで続く。なので、これから半年ほど、こういう景色を見ることになる。

 氷織が眠たそうにしているので、あまり言葉を交わすことなく、笠ヶ谷高校に登校した。氷織には駐輪場の前で待ってもらい、俺は駐輪場に自転車を止める。


「氷織、行こうか」

「はい。体操着入れを運んでくれてありがとうございました」

「いえいえ。ただ、このまま教室まで俺が運ぶよ」

「……では、お言葉に甘えて。ありがとうございます」


 ペコリと頭を下げるのが可愛らしい。

 俺達は手を繋いで教室へと向かって歩き出す。

 5連休を挟んだけど、今日も周りにいる生徒の多くから見られている。氷織の服装がカーディガン姿に変わったり、氷織が穏やかに微笑んでいたりするからかもしれない。

 前方の扉から2年2組の教室に入ると、和男と俺の席の周りに和男、清水さん、火村さん、葉月さんの姿があった。

 最初に俺達に気づいたのは火村さんで「氷織! と紙透」と大きめの声で呼び、4人がこちらに向かって手を振った。見たところ、4人は元気そうだ。

 氷織の席に行き、俺は氷織の体操着入れを机に置いた。


「明斗さん、運んでくれてありがとうございました。あと……この前借りたおさかつの第1巻を返しますね。あと、この前の萩窪デート中のアニメイクで買った百合漫画の第1巻です」


 氷織はバッグからよつば書店の袋を取り出し、俺に渡してきた。中身を確認すると、氷織が言った2冊の本が入っていた。


「確かに受け取った。今日はバイトがあるから、夜に漫画を読んでみるよ」

「はい。楽しんでもらえたら嬉しいです」


 この漫画を楽しみに、今日の授業とバイトを頑張れそうだな。

 氷織と一緒に4人のいるところへと向かう。すると、火村さんはさっそく氷織のことをぎゅっと抱きしめる。


「カーディガン姿の氷織も可愛いわ! カーディガンだから、いつもよりも柔らかい抱き心地だわぁ」


 普段の抱き心地を覚えているのか、君は。氷織に好意を明かしてから、火村さんは氷織のことを何度も抱きしめているからな。あと、俺も抱き心地の違いが分かるくらいに氷織を抱きしめたいよ。


「ふふっ。恭子さんもベスト姿ですから、今までよりも柔らかな抱き心地ですね」


 氷織の言うように、火村さんは今までとは違って、紺色のベスト姿になっている。氷織よりも黒っぽいが。

 ちなみに、葉月さんは明るいベージュのカーディガン。和男はワイシャツ姿で両袖を肘近くまで捲っており、清水さんは今までと変わらずジャケット姿。


「恭子さん。紺色のベスト……よく似合っていますよ」

「ありがとう、氷織!」


 とっても嬉しそうに言う火村さん。


「去年、氷織が紺色のカーディガンを着ていたのを思い出したから買ったの。あたしはベストの方が好きだからベストにしたの」


 氷織のカーディガンを色が似ていると思ったら、そういう理由だったのか。火村さんらしい。俺と同じことを思ったそうで、葉月さんは「ヒム子らしいッスね」と笑いながら言った。


「そうでしたか。好きなものを着るのが一番いいかと思います」

「ふふっ。でも、改めて見ると、氷織のカーディガンよりも黒っぽい色ね。それに、ベストだから、紙透とお揃いっぽく見えるかも。まあ、見る人の主観次第ね」


 落ち着いたトーンで言う火村さん。


「パッと見たら火村と紙透はお揃いに見えるかもな!」


 和男は明るく言う。

 自分のベストと火村さんのベストを見比べると……色違いなのは分かるけど、近い色ではある。和男の言うように、パッと見たらお揃いだと思う人はいるかもしれない。火村さんを見ていると、火村さんと目が合う。すると、火村さんは頬をほんのりと赤くした。


「まあ、お揃いに見られてもいいけど。そ、それよりも氷織。今日は何だか元気がないように見えるんだけど。昨日はドームタウンで楽しそうにしている姿をたくさん見たからそう見えるのかしら」

「いえ、実際に昨日の疲れが残っているんです。思いっきり楽しみましたからね。あと、昨日の夜に読んだ小説が面白くて、寝不足になってしまったのも理由かと」

「そうだったのね」

「ひおりんらしいッスね。無理しちゃダメッスよ」

「今日は体育の授業がある。そのときは、火村さんと清水さんは氷織を気に掛けてくれると嬉しい」

「任せなさい!」

「分かったよ、紙透君」

「……明斗さんったら」


 氷織は優しい目つきで俺を見て、そう呟いた。

 火村さんと清水さんに伝えたから、体育の時間もとりあえずは安心かな。



 そして、連休明けの学校生活を過ごす。

 教室で授業を受けているときはたまに氷織を見て。昼休みには氷織と2人でお昼ご飯を食べて。お弁当が美味しいのか、氷織は朝に比べると少しは元気になっていた。

 午後の体育の授業。火村さんと清水さんがいるとはいえ、心配な気持ちも正直あって。普段よりも集中できなかった。でも、授業が終わって、火村さんと清水さんと談笑しながら教室に戻ってきたのを見て杞憂に終わった。

 今日は木曜日なので、氷織は文芸部の活動がある。俺もバイトがあって。なので、明日の放課後にデートしようと約束した。土曜日もお互いに予定がないから、どこでもいいのでデートしたいという話になった。

 氷織の体調が本調子ではなかったけど、氷織との学校生活は楽しい。明日からもこういう日々を過ごしたいと願った。

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