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第26話『クレーンゲーム』

 会計を済ませた俺達はアニメイクを後にする。


「好きな漫画の新刊とニャン太郎先生のグッズを買えて満足です。アニメイクはいいお店ですね。これからも来たいと思います」

「そう言ってくれて良かった」


 自分がよく行くお店を気に入ってくれて嬉しいな。この前、俺が笠ヶ谷にあるよつば書店を褒めたとき、氷織も同じような気持ちだったのかな。

 たまにでもいいから、今後も氷織と一緒にアニメイクに来たい。


「さてと。次はどこに行こうか? 正午近くだし、お昼ご飯を食べるのもいいかもな」

「お昼ご飯も魅力的ですが……あそこにあるゲームコーナーに行ってもいいですか?」

「うん、いいよ。氷織ってゲームコーナーが好きなのか? もしかして、日頃から行っていたりする?」

「たまに、笠ヶ谷駅の近くにあるゲームセンターに行きますね」

「そうなんだ」


 何だか意外だ。昨日、火村さんと葉月さんと一緒にテレビゲームで遊んだ話は聞いていたけど。


「クレーンゲームをしに行くんです。私の部屋の勉強机に、小さめのぬいぐるみやミニフィギュアがあるのを覚えていますか?」

「覚えているよ。可愛いのがいくつもあったよな」

「ええ。あれらの多くはクレーンゲームで取ったものなんです。なので、あそこのゲームセンターのクレーンゲームに、何か可愛いものがあるかなと思いまして」

「なるほど、そういうことか。じゃあ、ゲームコーナーに行ってみようか」

「はいっ」


 氷織に手を引かれて、俺達はゲームコーナーに向かう。

 ゲームコーナーも賑わっているな。休日なのもあって、小中学生のグループや親子連れが多い。

 普段、クレーンゲームをしに行くと言うだけあって、氷織は他のゲームには目もくれず。

 少し歩くと、クレーンゲームのコーナーに辿り着く。


「結構な数のクレーンゲームがありますね」

「ああ。お菓子とかはもちろんのこと、プラモデルやぬいぐるみとかが取れるクレーンゲームもあるよ」

「そうなんですね」


 俺達はクレーンゲームコーナーの中をゆっくりと歩く。

 人気があって商品があまり残っていないクレーンゲームもあれば、まだまだたくさん残っているゲームもある。中には、幾多のプレーを撥ね除けたのか、アームの爪が当たった痕がたくさん付いた箱が置かれているゲームもあった。


「あっ……」


 そんな声を漏らすと、氷織はその場で立ち止まった。氷織の視線の先にあるのは……寝そべっている猫のぬいぐるみ。茶色と白のハチ割れ模様だ。これが欲しくて立ち止まったのかな。……きっとそうだな。目をキラキラ輝かせているし。


「明斗さん。このクレーンゲームをしたいのですが。中に入っている猫の寝そべりぬいぐるみが欲しくて。私のベッドにお迎えしたいです」


 やっぱりそうか。世界一簡単な推理だった。

 あと、ベッドにお迎えしたいって。何だか甘美な響き。お迎えの対象は猫のぬいぐるみだって分かっているのに、ドキッとしちゃった。


「氷織のベッドには三毛猫のぬいぐるみがあったもんね。いいよ」

「ありがとうございます」

「ちなみに、氷織ってクレーンゲームは得意な方なの?」

「あまり得意ではないですね。目的のものをゲットはできますが、お金をたくさん使ってしまうことが多くて。お財布から1000円札が何枚も消えることも……」

「そうなんだ。目的の物を手に入れられるのは凄いと思うよ」


 途中で諦める友達を何人も知っているし。

 きっと、あの寝そべりぬいぐるみをゲットするために、氷織は頑張るのだろう。その姿も見てみたい。だけど、氷織のお財布から、お金がたくさん消えてしまう可能性があるのはなぁ。


「……氷織。俺があのぬいぐるみを取ろうか?」

「いいのですか?」

「うん。萩窪ニャフェに連れて行ってくれたお礼に、このぬいぐるみをプレゼントしたいと思って。猫には猫を……みたいな」


 プレゼントしたいのは本音だ。それに、こういう風に言えば氷織も躊躇わずに俺を頼ってくれそうな気がしたから。

 氷織は柔らかい微笑みを見せ、「ふふっ」と笑う。


「ありがとうございます。では、お願いします。ただ、無理はしないでくださいね。プレーはタダではありませんから」

「分かった。でも、きっと大丈夫さ。昔からクレーンゲームはたくさんやってきて。友達や姉貴に頼まれているよ」

「そうなんですね」

「このぬいぐるみだと……500円くらいで取れるかな」

「そうですか。では、明斗さんの横で見ていますね」

「うん、見ていてくれ」


 お試しの恋人として、氷織にかっこいいところを見せたい。

 どのぬいぐるみも茶色と白のハチ割れ猫か。それなら、一番取りやすそうな、手前にあるぬいぐるみを狙おう。


「氷織。このプラスチックの橋渡しの上にあるぬいぐるみを取るね」

「私達にお尻を向けているぬいぐるみのことですね」

「そうだよ。この橋は俺達から向かって右側に幅が広がってる。アームを使って、頭が右側へ向くようにずらそう」


 俺は3回プレーして、目的のぬいぐるみの頭を右側に向けた状態まで動かす。そのことで、ぬいぐるみの頭が2本のプラスチックの間の上に来る。


「これで大丈夫かな」

「向かって右側を向きましたね。次はどうするんです?」

「あとは、頭の上にアームを落とそう。アームの力で頭を押して、頭からぬいぐるみを取り出し口へと落下させよう」

「なるほどです」


 4度目のプレー。アームをぬいぐるみの頭の上まで動かす。

 アームが下に降りると、ぬいぐるみの頭に当たる。下へ下がる力で頭が押し込まれていく。あと少しのところで、アームが上がってしまった。その際、氷織は「惜しい」と呟いた。氷織の言う通りだ。これならあとワンプレーで落とせるだろう。

 5度目のプレー。アームを再びぬいぐるみの頭の上まで動かす。

 アームが下がり、今回もぬいぐるみの頭に当たる。さっきよりもぬいぐるみが押し込まれ、ぬいぐるみが商品の取り出し口へと落下していった。


「凄いです!」


 興奮した様子で、氷織は俺に向かってパチパチと拍手。いい姿を見せられて何よりだ。あと、宣言通りに500円でゲットできてほっとしている。

 俺は商品の取り出し口から、ハチ割れ猫のぬいぐるみを取り、「プレゼントだよ」と言って氷織に渡した。


「ありがとうございます、明斗さん! 大切にしますね!」


 氷織は目を輝かせながらぬいぐるみを見る。そして、嬉しそうにぎゅっと抱きしめた。その姿がちょっと幼げで可愛らしい。あと、抱きしめられているぬいぐるみが羨ましい。少しの間でいいから変わってくれ。


「明斗さんの言う通り、500円で取れましたね」

「ああ。ちゃんと取れて良かったよ。正直、ほっとした気持ちもある」

「ふふっ。明斗さんのクレーンゲームの上手さが分かりました。私だったら、きっと……運が良くても1000円はかかっていたでしょう」

「そうか。俺で良ければ、これからも取りたいものがあったときには言ってくれ」

「はい。きっと、そういうことがあると思います。そのときはよろしくお願いします」


 優しく微笑みながら氷織はそう言った。

 もし頼まれたときには、できるだけ少ないお金でゲットできるように頑張らないと。

 その後、猫のぬいぐるみを取ってくれたお礼として、ぬいぐるみを抱きしめる氷織の写真を撮らせてくれた。

 写真に写る氷織の柔らかい笑顔を見ると心が温かくなる。きっと、それはいつまでも変わらないだろう。

 猫のぬいぐるみは、氷織の持つトートバッグに入る大きさ。ただ、縦に長いのでちょっと顔が出てしまっている。ただ、それが可愛いと氷織は嬉しそうに言っていた。

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