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第25話『蒼川小織』

 午前11時過ぎ。

 利用時間の60分が終わったので、氷織と俺は萩窪ニャフェを後にする。お店を来たときから1時間以上経っているから、そのときと比べて日差しが強くなっている。


「猫ちゃんとたくさん触れ合えたのでとても癒されました。満足です」

「俺も凄く満足できたよ。まさか、猫耳カチューシャを付けることになるとは思わなかったけど。それも含めて楽しかった」

「そう思ってもらえて良かったです」


 猫と触れ合ったからか、お店を出ても氷織は優しい笑顔になっている。

 こんなにもたくさん猫と触れ合えたのは人生初だ。あと、氷織の優しい笑顔や猫耳氷織を見られたから、とても幸せであっという間の60分だったな。本当に満足だ。


「ここでも別のお店でも、また一緒に猫カフェへ行こう」

「はいっ。以前、沙綾さんと行った猫カフェも雰囲気が良かったので、明斗さんとも行ってみたいです」

「萩窪ニャフェを体験したから、その猫カフェが気になってきたな。次行くときはそこにしようか」

「そうしましょう」


 氷織は俺に向かって首肯する。そんな氷織の笑顔は楽しそうなものに変わった。


「さてと、次はどこに行こうか」

「私の希望で猫カフェに行きました。なので、次は明斗さんの行きたい場所や私にお勧めしたい場所に行きませんか?」

「分かった。じゃあ……アニメイクはどうだろう?」

「アニメイクですか。私も行きたいと思っていました。何年か前に一度行っただけですから」

「それは良かった。一度だけ行った話を思い出してさ。アニメイクは、漫画やラノベ、アニメとかの商品が揃っているし。氷織も楽しめるかなって」

「なるほどです。では、アニメイクへ行きましょうか」

「ああ。アニメイクはロミネの中にあるよ。行こう」

「はい」


 氷織と手を繋いで、ロミネに入っているアニメイクに向かって歩き始める。

 ロミネは萩窪駅に直結する商業施設。なので、南口の方からでもロミネに入ることができる。駅の南口近くにある入口から、ロミネの中に入った。


「ロミネも久しぶりです。懐かしいですね」


 そう言って、店内をキョロキョロと見る氷織が可愛らしい。

 氷織に詳しく話を聞くと、中学生の頃に家族でロミネの近くにある料亭へ食事に来たのだそうだ。その帰りにロミネに行き、アニメイクにも立ち寄ったとのこと。

 アニメイクは4階にある。入口の近くにある上り用のエスカレーターで4階まで行く。


「4階は様々なジャンルの専門店が入っていますね」

「アニメイクだけじゃなくて、文房具や雑貨などの専門店がある。あとはゲームコーナーも。だから、このフロアにはたくさん来ているよ」

「そうなのですね。ここが明斗さんのたくさん来ている場所ですか……」


 4階を見渡す氷織の目が輝いている。興味を持ってくれているのかな。

 ゲームコーナーなどの横を通り、俺達はアニメイク萩窪店に到着した。


「ここがアニメイクだよ」


 俺がそう言うと氷織は店内をじっと見て、やがて微笑む。


「懐かしいです。以前来たときもこのような雰囲気でした」

「そうか」

「さあ、入りましょう」


 氷織に手を引かれる形で、俺はアニメイクの中に入る。休日なのもあり、店内にはお客さんがそれなりにいる。

 入口の近くは新刊の少年漫画や少女漫画、青年漫画のコーナー。その近くにはこの春からTVアニメがスタートした作品の関連商品が展開されている。そこにはモニターがあり、アニメの第1話の映像が流れている。そこまで大きくないが音声も出ている。


「アニメが流れているのもあって、賑やかな雰囲気ですね」

「そうだね。氷織の連れて行ってくれたよつば書店とは雰囲気が真逆だね」

「よつば書店は本当に静かですからね。ああいう静かなお店も好きですが、ここのような賑やかなお店もいいですね」

「それは良かった」


 氷織と一緒に新刊の漫画コーナーを見ていく。このお店に来るのは先週の金曜日以来だけど……新刊がいくつも出ているな。


「さすがは専門店です。品揃えがいいですね」

「ああ。だから、欲しい漫画やラノベは大抵ここで買うよ」

「地元にあるのですからそれも納得です。……あら、この漫画の特典はミニクリアファイルですか。そちらの漫画は特製の掛け替えカバー。特典の種類はよつば書店より豊富ですね。向こうはメッセージカードやペーパー、特製しおりとかが多いですから」

「全国展開されているアニメ専門ショップだからかな」

「なるほどです。……あっ、このガールズラブ漫画……新刊が出ていたんですね。特典は4ページのリーフレットですか」


 いつもよりも弾んだ声でそう言うと、氷織はガールズラブ漫画を手に取った。タイトルを見ると……氷織の部屋の本棚にあったな。購読している漫画の新刊があり、特典付きだからか氷織の目はキラキラ輝いている。


「この漫画、買います。帰ったらさっそく読みます」

「そうか。欲しい漫画があって良かったね。その漫画はタイトルは知っているけど、まだ読んだことがないな」

「もし興味があれば、今度第1巻をお貸ししましょうか?」

「いいのか? じゃあ、お願いしようかな」

「はいっ。この前お借りしたラノベがもう少しで読み終わるので、それを返すときに渡す形でもいいですか? 連休明けになるかと」

「うん、それでかまわないよ。ありがとう」


 明日は氷織に用事があるし、明後日はみんなで遊園地。連休明けの学校がちょうどいいだろう。

 漫画の新刊コーナーを一通り見終わったので、次にラノベや小説の新刊コーナーを見ることに。ラノベの方も、前回来た後に発売された作品が何作かある。


「おっ、この作品面白そうだな」


 タイトルに見覚えがあり、表紙に描かれている黒髪のヒロインが可愛いから手に取る。帯を見てみると……この作品は投稿サイトのランキングで1位を取ったことのある作品か。だから見覚えのあるタイトルだったんだな。よし、買おう。


「……そういえば、氷織は『蒼川小織』というペンネームで、投稿サイトに作品を公開しているよね」

「ええ」

「氷織は書籍化を目指していたりするのか? 買うことに決めたこの本は投稿サイトの作品が書籍化されたものだ。近くにあるその本は、ネット小説の公募で大賞を受賞したもの。俺が今まで読んできた本の中にも、元々は投稿サイト公開されていた作品っていうのがいくつもあるからさ」

「私もネット発の作品はいくつも読んでいますよ。投稿サイトから作家デビューする方がたくさんいますよね。人気作家になる方もいますし」

「いるよな」


 投稿サイトで公開した作品を書籍化した小説が大ヒットして、それを原作にした実写映画やアニメ映画も大ヒット。その作品以降も、ヒット作を続々と世に出している作家もいるほどだ。


「蒼川小織名義で投稿している作品は面白いのが多いし、有栖川シリーズはかなりの人気じゃないか。投稿サイト出身の作品の後書きには『お声がけいただいた』って書いてあったりするけど、そういった経験はあるのか?」

「書籍化打診の経験は一度もないですね」

「そうか。……何か、ごめん」


 もしかしたら、氷織の気に障ってしまうことを訊いてしまったかもしれない。

 氷織は……特に不快な感情は顔に出していない。俺を見て首を横にゆっくり振った。


「いいえ、気にしないでください。それに、書籍化や公募での受賞を目指そうとは今のところ考えていません。物語を書くのが楽しいんですよね。投稿して、読んでくださる方達から感想をもらえて。批判や否定の感想もありますが。リアルでも明斗さんや沙綾さん、七海、恭子さん、文芸部のみなさんから感想を言ってもらえますし。あとは、広告収入で趣味や今日のような休日を謳歌できるほどの額をもらっているのもありますね。今のところ、創作に関しては満足できています」


 落ち着いた笑みを見せながら言う氷織。そんな氷織を見ると、創作に関して満足しているという今の言葉は本当のようだ。

 ただ、有栖川シリーズにも書籍化の打診がないとは。面白いし人気もあるのに。特に過激な内容や表現があるわけでもないし。意外だ。


「そうか。満足できているならそれでいいんじゃないかなって思うよ。どんなスタンスであれ、俺は氷織の創作活動を応援しているよ」

「ありがとうございます。この前、家に来てもらったときのように、今後も公開前の作品を読んでもらって、感想を求めることがあるかもしれません。人から感想や意見をもらうのはいい刺激になります。新しい話や作品のアイデアに繋がることもありますから」

「そうか。俺で良ければいつでも協力するよ。この前みたいに、ただ楽しむだけになっちゃうかもしれないけど」

「それはそれで嬉しいですよ。ありがとうございます、明斗さん」


 氷織はお礼を言うと、俺に向かって小さく頭を下げた。どんな形でも、氷織の創作活動に協力できたら何よりだ。

 その後はCDやグッズなどのコーナーを見たりした。氷織は興奮気味。笠ヶ谷にはアニメ系のCDやグッズを豊富に揃えているお店がないからだそうだ。

 グッズコーナーで、『秋目知人帳』に出てくるニャン太郎先生という猫の姿をしたキャラクターのクリアファイルを見つけた。その瞬間、氷織はワクワクとした様子で手に取り「買います」ときっぱりと言っていた。

 お店の中を一通り見終わり、俺達はレジに向かうのであった。

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