プロローグ『2学期の始まり』
特別編9
9月1日、水曜日。
夏休みが終わり、今日から2学期の学校生活が始まる。
これまで、長期休暇明けは気が重くなることが多かった。
しかし、今回は違う。
長期休暇が明けて、学校生活が再開するのがとても楽しみだ。そう思えるのは、俺・紙透明斗の恋人でクラスメイトの青山氷織と一緒に学校生活を送ることができるからだと思う。こんなに楽しみなのは初めてだ。
「いってきます、母さん」
「いってらっしゃーい」
午前7時55分。
俺は自宅を出発する。今日は一日中晴れ、雨が降る心配はないので自転車で。
日差しは暑いけど、自転車で風を切っているので爽やかさも感じられる。その爽やかさが心地いい。ただ、今日から始まった秋が深まっていくと、日差しの温もりの方が心地良く感じられるようになるのだろう。
数分ほど漕ぐと、氷織との待ち合わせ場所である高架下が見えてきた。待ち合わせの時間まで10分くらいあるけど、氷織はもう来ているだろうか。氷織は早めに来ることが多いけど。そう思いながら漕いでいくと、
「……いた」
高架下には、俺達が通っている東京都立笠ヶ谷高等学校の夏服姿の氷織がこちらに向いて立っている。夏服姿の氷織を見るのは7月の1学期の終業式の日以来。なので、懐かしさを感じられた。
氷織は俺に気付いたようで、
「明斗さーん!」
と、大きめの声で俺の名前を呼び、ニコッとした笑顔で俺に手を振ってきた。その姿が本当に可愛い。そう思いながら、俺は右手を軽く挙げた。
それから程なくして、俺は高架下に到着し、自転車から降りた。
「おはよう、氷織」
「おはようございます、明斗さん。……夏服姿の明斗さんは何だか懐かしいです」
「そっか。俺も同じことを思ったよ。1学期の終業式の日以来だからかな」
「そうですね。それに、夏休み中は盛りだくさんでしたし」
「そうだな」
夏休み中は定番のお家デートはもちろんのこと、海水浴に行ったり、お泊まりしたり、氷織の従妹の愛莉ちゃんの面倒を見たり、コアマという同人イベントに行ったり、オープンキャンパスに行ったり、花火大会に行ったりするなど盛りだくさんだった。あと、氷織はお泊まり女子会をしたり、助っ人の形で初めてバイトをしたりもしたんだよな。夏休みが充実した日々だったから、1学期の終業式の日が結構前のことのように感じられるのだろう。
「明斗さん。おはようのキスをしましょうか」
「ああ、しよう」
俺達はそっと顔を近づけて、おはようのキスをする。
氷織の唇の柔らかさと温もりが優しく感じられて。凄くいいな。
氷織と正式に付き合うようになってからは、こうして高架下でおはようのキスをするのが日課だ。登校中のおはようのキスは1学期以来なので、おはようのキスができるのが嬉しい。あと、今日から2学期の学校生活が始まるんだって実感するし、2学期も頑張れそうだ。
それから少しして、氷織の方から唇を離した。すると、目の前には頬をほんのりと赤らんだ氷織の笑顔があって。可愛いし、キスした直後なのもあり、キュンとなる。
「明斗さんとおはようのキスができて嬉しいです。この場所でキスをしたので、今日から学校生活が再開するんだなって思えますね」
「そうか。俺もだよ。2学期も頑張れそうだって思った」
「私もです。夏服姿を懐かしく思うことといい、いくつも同じように考えますね」
「そうだな」
そう言葉を交わし、氷織と俺は声に出して笑い合う。
氷織といくつも同じように考えることも、そのことで笑い合えることも嬉しい。胸がとても温かくなる。
「2学期の学校生活、一緒に頑張りましょうね!」
「ああ、一緒に頑張ろうな。そして、一緒に楽しもうな。2学期もよろしく」
「はいっ、よろしくお願いします!」
氷織は満面の笑顔で元気良く返事をしてくれた。それを受けて、2学期の学校生活は楽しみながら頑張れると確信した。
「ところで、明斗さん。今日の放課後って確か、バイトのシフトは入っていませんよね」
と、氷織が言ってくる。こういう言い方になるのは、デートなどの予定を立てやすいように、俺のバイトのシフトが決まったら氷織に教えているからだ。
「ああ、入っていないよ」
「そうですかっ。……実は明斗さんと一緒に行ってみたいお店がありまして」
そう言うと、氷織はスクールバッグから1枚の紙を取り出した。その紙を俺に見せてくる。
紙を見てみると……新しいカラオケ店のチラシか。チラシによると、笠ヶ谷駅北口の近くにオープンしたとのこと。利用料金が安くなるクーポンもついている。
「カラオケ店のチラシか。笠ヶ谷駅の近くにオープンしたんだ」
「はい。今朝、うちのポストに新聞と一緒にこのチラシが入っていました。料金が安くなるクーポンがありますし、明斗さんとはカラオケに行ったことがありませんから、放課後にカラオケデートをしたいなって思っていまして。どうですか?」
「カラオケデートいいな。氷織と一緒に行きたい」
氷織の言う通り、氷織とは一緒にカラオケに行ったことはないから。あと、選択芸術で氷織と一緒に音楽を選択しているけど、氷織は授業中に楽しそうに歌っていて、綺麗な歌声が聞こえて。だから、カラオケで氷織の歌を堪能したい。……音楽の授業で氷織の歌声に触れていたけど、不思議とカラオケに一緒に行ったことはこれまで一度もなかったな。
氷織はパッと明るい笑顔になって、
「そう言ってくれて嬉しいです! では、今日の放課後はカラオケデートをしましょう!」
と、弾んだ声で言った。氷織との初めてのカラオケデート……楽しみだな。
「では、学校に行きましょうか!」
「そうだな」
俺達は笠ヶ谷高校に向かって歩き始める。夏休み中のことや最近観ているアニメのことなどについて話しながら。
こうして自転車を押しながら氷織の隣を歩くのも1学期以来だから、何だか懐かしいな。学校の近いところを歩いているから、周りに制服姿の生徒がたくさん歩いている光景も懐かしい。
高校に到着して、俺は駐輪場に自転車を停めにいく。
自転車を停めて、駐輪場の入口近くで待っている氷織のところに向かうと……氷織は友人の葉月沙綾さんと楽しそうに喋っていた。
「葉月さん、おはよう」
「おはようッス、紙透君。夏休み中に何度も会ったッスけど、制服姿なんで久しぶりな感じがするッス」
「1学期以来だもんな。2学期もよろしくな、葉月さん」
「よろしくッス!」
「ああ。……自転車停めたから校舎に行くか」
「はいっ」
「うちのクラスに行く前に、2組の教室に行くッス。ヒム子達に会いたいんで」
「では、3人でうちの教室に行きましょう」
俺は氷織と葉月さんと一緒に教室B棟に行き、氷織と俺のクラスである2年2組の教室へと向かう。
今日みたいに駐輪場の入口前で葉月さんと会い、3人で2組の教室に行くことは1学期に何度かあった。
2年2組の教室の前に到着して、後方の扉から教室に入った。すると、
「おっ、アキ達来たな! みんなおはよう!」
「紙透君、氷織ちゃん、沙綾ちゃん、おはよう!」
「氷織、沙綾、紙透、おはよう!」
後方の窓側から、クラスメイトで友人の倉木和男、清水美羽さん、火村恭子さんが元気良く挨拶してくれた。3人とも持ち前の明るい笑顔で俺達に手を振ってくれる。1学期から変わらない登校時の光景だ。
「みんなおはよう」
「おはようございます! 美羽さん、恭子さん、倉木さん」
「みうみう、ヒム子、倉木君、おはようッス!」
俺達は和男達にそう挨拶して、小さく手を振りながら3人のところへ向かう。その際、俺と氷織はそれぞれ自分の席に荷物を置いた。ちなみに、俺の席は窓側最後尾で、氷織の席は俺の一つ前だ。
「あぁ、久しぶりに制服姿の氷織を見られて嬉しいわ! 可愛いわ! これで2学期はより頑張れそうだわ!」
「ふふっ、そうですか」
「ヒム子らしいッスね」
葉月さんのツッコミもあって、俺達6人は笑いに包まれる。
確かに火村さんらしさは感じるけど、氷織の制服姿は可愛いと思うし、氷織がいるので2学期を頑張れると思っているので結構共感する。
「火村さんの言うことに共感するよ」
「紙透ならそう言ってくれると思ったわ!」
火村さんはニッコリとした笑顔でそう言ってくれた。サムズアップもしてくれて。この反応も火村さんらしいな。
また、火村さんの横で氷織は俺に嬉しそうな笑顔を向けていた。
「和男、清水さん、火村さん、2学期もよろしくな」
「おう、よろしくな、アキ!」
「よろしくね!」
「よろしく!」
和男、清水さん、火村さんは快活な笑顔で返事をしてくれた。
恋人の氷織はもちろんのこと、クラスメイトで友人の和男と清水と火村さん、クラスは4組で違うけど友人の葉月さんもいるから、2学期はとても楽しめそうだ。
それからも、6人で夏休み中のことを話しながら朝礼前の時間を過ごす。海水浴とか和男と清水さんと火村さんの課題を手伝うとか6人一緒で過ごしたこともあったので結構盛り上がる。
途中、葉月さんは「そろそろ自分のクラスに行くッス」と言って2年2組の教室を後にした。
葉月さんが教室を後にしてから5分ちょっと経ったところで、
――キーンコーンカーンコーン。
「は~い。みなさん自分の席に座ってくださ~い。他のクラスの生徒は自分のクラスに戻ってくださいね~」
朝礼のチャイムが鳴ったと同時に、担任の高橋由実先生が教室に入ってきた。ロングスカートにノースリーブのブラウスと涼しそうな服装だ。
俺達はそれぞれ自分の席に座った。
俺の席は氷織の席の後ろなので、目の前には氷織の後ろ姿があって。サラサラとした長い銀髪なのもあって、後ろ姿がとても綺麗だ。1学期の中間試験が終わった直後の席替えでこの席になったけど、この席での学校生活はとても良かったな。
それから程なくして、朝礼が始まる。
高校2年生の2学期が始まった。
新しい特別編がスタートしました! 既に完成しており、全5話でお送りします。
1日1話ずつ公開していく予定です。よろしくお願いします。




