『恭子の初めての同人イベント-⑤-』
氷織と紙透と合流できたし、2人も既にお昼ご飯は食べたとのことだから、みんなでコアマを廻ることになった。沙綾とあたしだけでなく、氷織と紙透もこれまでずっと東展示棟にいたそうだから、企業ブースというのもある西展示棟へ行くことになった。
西展示棟に行き、まずはサークルスペースがある場所へ。
午後になったのもあるのかしら。人はそれなりにいるけど、長蛇の列になっているサークルはほとんどない。あと、『完売しました』という旨の札が置かれているサークルもちらほらと見かける。
サークルスペースを廻った後、企業ブースへ。
大画面のモニターでアニメのPVと思われる動画が流れていたり、キャラクターが印刷された大きな看板が飾られていたりするので、サークルスペースとは雰囲気が違う。
企業ブースを廻る中で、あたし達はクリアファイルやアクリルスタンドといったグッズを購入した。どのブースもすぐだったり、数分ほど並んだりすれば買うことができた。ただ、沙綾達曰く、企業によっては数時間ほど並ばないといけない列もあるらしい。紙透は去年の夏に屋外で3時間ほど並んでグッズを買ったとのこと。紙透凄いわ。
企業ブースを一通り廻って、グッズも買えたから、企業ブースの横にある屋外のコスプレエリアを通って帰ろうということになった。
コスプレエリアに行くと……あたしも知っているアニメや漫画とかのキャラクター、メイドとかナースさんとかの制服ものといったこれぞコスプレというものから、実際にいる人や最近話題になったネタといった笑えるコスプレもあって。沙綾曰く、過剰な露出とかがなければ基本的に何でもOKらしい。
幅広いジャンルのコスプレをしている人が一堂に会しているからなのか、コスプレ広場も結構盛り上がっている。たくさん人に写真を撮られている人もいて。これも沙綾曰く、プロのコスプレイヤーも参加しているらしい。
色々なコスプレがあって面白いけど、あたしは……コスプレしている女性達に目が行ってしまうわ。綺麗だったり、可愛かったりする人が多いから。あと、コスプレしている女性を見ると、氷織にも似合うんじゃないかと思って、
「あのメイドさん、セクシーで可愛いわ! 氷織が着たらきっと可愛いと思うわ! メイドさん氷織にご奉仕されたいわ!」
「あのみやび様のコスプレをしている人可愛いわ! 氷織が着たらきっと似合うでしょうね!」
「マジキュアのコスプレも可愛いわ! 氷織が着たら可愛くて人気間違いなしよ!」
なんてことを言っちゃった! 氷織がコスプレしている姿を想像したら凄く興奮しちゃって!
あと、あたしの言葉に紙透が何度も頷いているのが嬉しい。紙透もあたしのように氷織のコスプレ姿を想像しているのかしら?
当の本人である氷織は楽しそうな様子でコスプレしている人達を見ていた。嫌がっていなさそうで良かったわ。
「いやぁ、コスプレエリアではヒム子のテンション爆上がりだったッスね。毎度のことひおりんに似合うって言うところがヒム子らしいッス」
コスプレエリアを通り抜けた直後、沙綾がとても楽しそうに言った。
「俺も同じことを思ったよ、葉月さん」
「だって、氷織に似合いそうなコスプレがいっぱいあったんだもの! あたしの脳内では色々なコスプレをした氷織がいるわ!」
そのおかげで今も興奮しているわ!
氷織はあたしのことを見ながら「ふふっ」と上品に笑っていて。
コスプレ広場で氷織のコスプレ姿を想像したら、実際に氷織がコスプレする姿を物凄く見たくなってきたわ。……そうだ!
「紙透。2学期になって、文化祭の出し物を決めるときにはメイド喫茶かコスプレ喫茶を提案するわよ! 氷織のコスプレした姿を見たいし、接客されたいから! それに、氷織と一緒にコスプレしてみたいし」
あたしはそう言い、紙透の左肩をガッシリと掴んだ。
あたし達が通う東京都立笠ヶ谷高等学校の文化祭は2学期に開催される。それにより、クラスの出し物は2学期になってから決める。だから、メイドをはじめとしたコスプレした姿の氷織を文化祭で見られる可能性があるわ! 凄く実現させたいわ! もし実現できたら、物凄く楽しい文化祭になると思うわ! まあ、氷織と同じクラスってだけで楽しい文化祭になるのは間違いないと思うけどね。
「そうだな。氷織が嫌じゃなければ、メイド喫茶やコスプレ喫茶はとてもいいな。俺も見てみたい」
「さすがは紙透! 話が分かるじゃない!」
氷織の彼氏だけのことはあるわね! あたしは紙透に向かってサムズアップ!
「氷織なら色々なコスプレが似合いそうだからな」
「確かに、紙透君の言う通りッスね。ひおりんは美人で可愛いッスから。スタイルも抜群ッスし。ヒム子も色々なものが似合いそうッス」
「確かに、火村さんも色々似合いそうだな」
「2人がそう言ってくれて嬉しいわ」
「嬉しいですね。……コスプレエリアでは可愛いコスプレをしている人がいっぱいいました。あの光景を見ていたら、私も文化祭やハロウィンなどでコスプレしてみたいなって思えました」
氷織はいつもの優しい笑顔でそう言ってくれた。嬉しいわ。
コスプレエリアでは氷織はコスプレする人を楽しそうな様子で見ていたわね。コスプレしていた人達の姿を見て、自分もコスプレしたい気持ちになったのかもしれない。
「コスプレしてみたいって言ってくれて嬉しいわ、氷織! 2学期が楽しみになったわ!」
2学期になることが待ち遠しく思えるのは初めてかも。まあ、残り半分を切ったこの夏休みも楽しみたいけどね。
コスプレのことや文化祭のことを話していたら、気付けば最寄り駅の国際展示ホール駅が見えてきていた。
「ねえ、みんな。帰る前に4人で国際展示ホールをバックに写真を撮らない?」
あたしは立ち止まって、みんなにそう提案をした。朝、国際展示ホール駅を出たときに沙綾とツーショット写真を撮ったから、今度は氷織と紙透も交えてみんなで撮影したくなったの。
「いいですね、恭子さん!」
「いいッスよ!」
「ああ、いいぞ」
氷織、沙綾、紙透は笑顔で快諾してくれた。そのことに嬉しくなって、
「ありがとう!」
あたしは普段よりも大きめの声でお礼を言った。
その後、あたしのスマホで、東京国際展示ホールをバックにみんなとの自撮り写真を何枚も撮影した。その写真はLIMEで4人のグループトークに送った。
「いい写真を撮れたわ。……同人イベントに参加するのは初めてだったけど、とても楽しかったわ! 沙綾と一緒に同人誌を何冊も買えたし、グッズも買えたし、氷織とも会えたから」
とても楽しいイベントだったわ。今年の夏休みの楽しい思い出の一つになった。
「あたしも楽しかったッス。目当ての同人誌の多くを買えて、並んでいるときもヒム子と漫画やアニメのことなどでたくさん話せたッスし。ひおりんに同人誌を代理購入してもらえたッスし。この4人で会場を廻れたッスから」
「私も楽しかったです! 明斗さんとコアマデートをしながらお目当ての同人誌を全て買えましたし。沙綾さんには同人誌を代理購入してもらえて。沙綾さんと恭子さんと4人でも会場を廻れましたからね」
沙綾と氷織はとてもいい笑顔でそう言った。2人にとっても楽しいイベントになって何よりだわ。あと、今日はずっと一緒に行動していた沙綾が楽しいと言ってくれたことが本当に嬉しくて。
「明斗さんはどうでしたか?」
「俺も楽しかったよ。氷織と初めて同人イベントデートができたし。いくつか同人誌を買ったしな。この4人で廻るのも楽しかった。こういう時間を過ごせたのは氷織が誘ってくれたおかげだよ。氷織、ありがとう」
氷織を見つめながら紙透はお礼を言い、氷織の頭を撫でる。そのことで氷織の笑顔は楽しそうなものから柔らかいものに変わっていく。
「いえいえ。明斗さんも楽しんでもらえてとても嬉しいです。こちらこそありがとうございます、明斗さん」
氷織は優しい声でお礼を言って、紙透にキスをした。大勢の人が周りにいる中でキスできるなんて。ほんと、このカップルはラブラブね。
数秒ほどして、紙透が氷織から唇を離した。氷織はちょっと照れくさそうにしていて、紙透はそんな氷織を見て癒やされているように見える。
「では、帰りましょうか」
「そうだな、氷織」
「帰ったらさっそく同人誌を読むッス!」
「あたしも読むわ!」
「私も同人誌を読むのが楽しみです。読んだのはお二人を待つ間に明斗さんと読んだGL同人誌くらいですから」
「俺もまだ読んでいない同人誌が何冊かあるからな。読むのが楽しみだ」
同人誌を読むのが楽しみな気持ちを胸に、あたし達は帰路に就いた。家に帰ってからも楽しみなことがあるのっていいわね。
駅のホームにはとても多くの人が電車を待っていた。だから、帰りの電車も途中までかなり混んでいて。ただ、氷織とくっつけたから、混んでいることは嫌だと思わず、むしろ良かったと思えたほど。今までで一番幸せな満員電車だったわ!
初めての同人イベントは本当に楽しかったわ。これからも参加してみたいと思う。
『恭子の初めての同人イベント』 おわり
明日公開のエピソードで夏休み小話編2は完結する予定です。
最後までよろしくお願いします。