『恭子の初めての同人イベント-④-』
「これで全部廻れたッスね」
「そうね」
午後1時半過ぎ。
7番目に行きたかったサークルの同人誌を買い終わって、これで沙綾が今日行きたいサークルに全て行き終わった。
「7つのサークル中6つのサークルの同人誌を買えたッス。上々ッスね」
沙綾は満足そうな笑顔でそう言った。
ちなみに、5番目に行ったサークルの新刊の同人誌が買えなかった。あたし達が行ったときには既に『新刊完売です。ありがとうございました!』と書かれた札がテーブルに置かれていた。そのとき、沙綾は「完売ッスか~」と微笑んでいた。
「沙綾がそう言うならいいけど。まあ、友人としては全部のサークルの同人誌を買えたら良かったのになぁって思って」
「その気持ちが嬉しいッス。どうもッス。まあ、お目当てのサークルの同人誌を全て買えることは珍しいッスからね。お目当ての半分も買えないこともあるッスし」
「そんなこともあるのね」
「ええ。それに、一番買いたい『ばらのはなたば』の同人誌を買えて、ひおりんに頼んだ同人誌を買ってもらえたので満足ッス」
依然として満足そうな笑顔でそう言う沙綾。
「そっか」
「ええ。あと、いくつかのサークルでヒム子も同人誌を買ったことが嬉しいッス」
「ポスターや表紙を見たり、見本誌をちょっと読んだりしたら興味が出てね」
その結果、4つのサークルの同人誌を購入したわ。
「帰ったらさっそく読むわ」
「あたしもそうするッス。……どのサークルの同人誌も良さそうッスし、読んだら創作意欲が湧きそうな気がするッス」
沙綾はワクワクとした様子でそう言う。沙綾は花月沙耶というペンネームで、小説投稿サイトにBLやGLものを中心に小説を公開している。購入した同人誌のジャンルもBLやGLものだし。だから、創作意欲が湧きそうだと言うのは沙綾らしい。
「沙綾らしいわね」
「ふふっ。あと、読み終わったら感想を語りたいッス」
「そうねっ」
「……じゃあ、あたし達もひおりんと紙透君の待ち合わせ場所に行くッスか」
「そうね。2人が待っているし」
今から15分くらい前、最後のお目当てのサークルに向かう中で、氷織と紙透から、買い物が終わって待ち合わせ場所である1番ホールの出入口前に到着したと連絡があった。
あたし達は氷織と紙透が待っている1番ホールの出入口前に向かい始める。
コアマが開始してから3時間以上経っているけど、今も多くの人がいる。中には同人誌を読んでいる人もいて。面白いのか笑いながら読んでいる人も。いい光景だわ。
1番ホールの出入口が見えてきた。出入口を注視すると、
「……いた」
ジーンズパンツにノースリーブのブラウス姿の氷織を見つけたわ。夏らしい爽やかな服装で可愛いし美しいわ! この会場にいる女性の中で一番素敵よ!
あと、今日の氷織の髪型はいつものストレートのロングヘアじゃなくてポニーテール。暑い時期にはたまにポニーテールにするって言っていたっけ。あぁ……初めて来た場所で、レアな髪型の氷織を見られるなんて。もう感激だわ!
それと、ノースリーブの服を着ていたり、髪をポニーテールにしていたりしていることで見えている腋やうなじがたまらないわ。うふふふっ。
氷織は紙透と楽しそうにお喋りしている。紙透の服装がスラックスと半袖のVネックシャツなので、とれも爽やかな雰囲気の美男美女カップルに見えるわ。男女問わず2人のことを見ている人が何人もいて。そう思いながら、沙綾と一緒に2人のところへ向かう。
「氷織、紙透、待たせたわね」
「ひおりん、紙透君、お待たせッス」
あたしと沙綾がそう言うと、氷織と紙透はあたし達に向かって笑顔で手を振ってくれる。
「2人ともこんにちは」
「こんにちは、沙綾さん、恭子さん。無事に会えて良かったです」
「ええ! コアマの会場で氷織に会えて嬉しいわ! その服もポニーテールもよく似合っているわ!」
「ありがとうございます。恭子さんのジーンズパンツとノースリーブの縦ニットも似合っていますよ。スラックスにパーカー姿の沙綾さんも」
氷織に服装を褒められたわ! 嬉しくてたまらないわ!
「ありがとう! 氷織!」
「どうもッス!」
あたしと沙綾がお礼を言った後、あたしは氷織のことを抱きしめる。
「氷織あったかい。汗混じりのいい匂いがする……」
温かくて、甘さのある凄くいい匂いがして、服越しでもFカップの大きな胸の柔らかさがはっきりと伝わってきて。あぁ、氷織は最高だわ。本当に幸せ。だから、
「うへへっ」
って、変な感じの笑い声が出ちゃう。
すると、あたしの頭に優しく触られる感触が。氷織があたしの頭を優しく撫でてくれているんだ。あぁ……会場前やサークルの列に並んだことや、広い会場の中を歩き回ったことの疲れが取れていくわ。本当に氷織って癒やしの存在だわ。天使。女神。好き。
「沙綾さん。私が代理購入を頼んだ同人誌は買えたと教えてくれましたが、それ以外の同人誌はどうでしたか?」
「全部で7つを廻って、6つのサークルの新刊を買えたッス。全部買えることの方が珍しいッスし、ひおりんの代理購入も頼まれた一番買いたい同人誌も買えたので、個人的には上々の結果だと思っているッス」
沙綾は爽やかな笑顔でそう言った。さっき、最後のサークルを廻り終わったときにも同じことを言っていたわね。
「そうでしたか。上々だと思える結果になって良かったです」
氷織はニコリとした笑顔でそう言った。
「良かったな、葉月さん」
「どうもッス! ひおりんはどうだったッスか?」
「お目当てのサークルの同人誌は全て買えました!」
「それは良かったッス!」
「ありがとうございますっ。それに、明斗さんと初めて一緒に同人イベントを廻ったので楽しいデートになりました」
氷織はニコニコしながらそう言った。
紙透と楽しいコアマデートができて、お目当てのサークルの同人誌を全て買えたと分かって、友人としてとても嬉しいわ!
「楽しかったな。氷織と一緒にサークルを廻って、俺もGLの同人誌を何冊か買ったよ」
紙透は落ち着いた笑顔でそう言う。
「おぉ、それはいいッスね!」
「あたしも沙綾目当てのサークルの同人誌を何冊か買ったわ。BLもGLも。氷織が沙綾に買うのを頼んだ同人誌もね!」
「そうですか! 夏休み中にその同人誌のことで一緒に語らいたいですね」
「そうねっ!」
そのときがとても楽しみだわ! いつ語ってもいいように、帰ったらすぐに、最初に購入した『ばらのはなたば』の新刊同人誌を読みましょう。
「沙綾さん。代理購入したものを渡しますね。それと、沙綾さんに買っていただいた同人誌の代金も」
「了解ッス。あたしも渡すッス」
沙綾と氷織はお互いに代理購入を頼んだ同人誌と代金を渡し合った。
2人とも、代理購入を頼んだ同人誌を受け取ると凄く嬉しそうな様子になって。欲しかったものを代わりに買ってもらって、実際に手にできたのだから嬉しいわよね。そんな2人を見ているとあたしも嬉しい気持ちになるわ。気付けば頬が緩んでいた。
あと、紙透はとても優しい笑顔で、沙綾と氷織のことを見ていた。
「代わりに買っていただいてありがとうございます、沙綾さん!」
「いえいえ! こちらこそありがとうッス、ひおりん!」
お互いにお礼を言うと、沙綾と氷織は笑顔で抱きしめ合った。何て美しい光景なのかしら! これもまた一つ、今日のコアマの思い出の一つになったわ。
沙綾、氷織、本当に良かったわね。2人の友人としてとても嬉しく思うわ。