『姉弟会-後編-』
――コンコン。
ラノベを読んでいると、部屋の扉がノックされた。部屋の時計を見ると、日を跨いで少し過ぎている。おそらく姉貴が姉弟会をするために来たのだろう。あと、ラノベが面白いから、あっという間に日付が変わっていたな。
はい、と返事をして、俺はベッドから降りる。
部屋の扉を開けると、そこには枕を抱きしめている寝間着姿の姉貴が立っていた。
「姉弟会をしに来たよ!」
ニッコリとした笑顔でそう言う姉貴。これから姉弟会という名の就寝をするからだろう。一緒に寝るのが楽しみな気持ちがひしひしと伝わってくるよ。
「いらっしゃい。……じゃあ、寝る準備をするかな。姉貴は寝る準備はできてるか?」
「うん、できてるよ」
「分かった。じゃあ、先にベッドに入ってて」
「分かったよ。ベッドで待ってるね」
「ああ」
俺は部屋を出て、歯を磨いたり、お手洗いを済ませたりして寝るための準備をする。
部屋に戻ると、姉貴は扉の方を向きながらベッドに横になっていた。
「おかえり、明斗」
「ただいま。電気消すぞ」
「うんっ」
俺は部屋の照明を消して、ベッドへと向かう。その際、ベッドライトの灯りを点けた。
「ねえ、明斗。壁側と床側……どっちがいい?」
「床側がいいかな。これまで床側の方が多かった憶えがあるし。それに、壁側なら姉貴が落ちる心配もないし」
「ふふっ、ありがとう。そういうところ好きだよ。じゃあ、明斗が床側で、私が壁側に寝よう」
ニコニコとした笑顔で姉貴はそう言った。
俺もベッドに入り、壁側に姉貴、床側に俺という形で横になる。その際、俺は仰向けで、姉貴は俺の方を向いた体勢で。また、タオルケットを足元から胸元のあたりまでかける。
「明斗のベッド気持ちいいね。ふかふかだし、明斗のいい匂いもするし。今夜は凄くいい夢を見られそうだよ」
「ははっ、そっか」
嬉しそうな笑顔で言うところを含めて、ブラコンの姉貴らしいな。
「明斗の実のお姉ちゃんで良かった。氷織ちゃんっていう恋人ができても、こうして明斗と一緒に寝られるから」
「まあ、血の繋がった家族じゃなければダメだな。……あと、さっき氷織から電話がかかってきてさ。姉弟会のことを伝えたら、笑顔で『明実さんらしいです』って言ってた」
「そうだったんだね。……明斗、姉弟会をしたいっていう私のお願いを聞いてくれてありがとう」
「いえいえ。昔は一緒に寝ることが多かったし、姉貴が20歳になってからまた一緒に寝ることもあるからな。それに、姉貴を一緒に寝て嫌だと思うことはなかったし」
だから、お泊まり女子会の話を聞いた流れで姉貴が一緒に寝たいと言ってきたときは、どうしてなのかと疑問には思ったけど、一緒に寝るのが嫌だとは一切思わなかった。
「嬉しいことを言ってくれるね、明斗。お姉ちゃん幸せ」
そう言う姉貴の笑顔は言葉通りの多幸感に満ちたものになっていて。そんな姉貴の笑顔を見て、頬が自然と緩んでいくのが分かった。
「ねえ、明斗。腕を抱きしめて寝てもいい?」
「ああ、いいぞ」
「ありがとう」
姉貴は俺の左腕をそっと抱きしめてきた。そのことで、左腕が姉貴の体の柔らかさや温もりに包まれる。抱きしめるのが氷織ならドキドキするところだけど、姉貴なので特にそういったことはない。姉貴の方はどうなのかは分からないけど。
「腕を抱きしめるの気持ちいい。抱き心地いいし、サイズ的にもちょうどいいし」
「何だか抱き枕みたいだな」
「ふふっ、そうだね。……気持ちいいから結構眠くなってきたよ」
「そうか。じゃあ、そろそろ寝るか」
「うん。おやすみ、明斗」
「おやすみ、姉貴」
就寝の挨拶を交わして、俺はベッドライトを消した。
俺達はもう寝るけど、お泊まり女子会中の氷織達は就寝したのだろうか。俺達みたいに寝床に入って喋っているのだろうか。さっきの電話で氷織がアニメを観ていると言っていたから、今も観ている可能性もありそうだ。
「すぅ……」
姉貴の寝息が聞こえてきた。なので、視線を向けると……姉貴はさっそくぐっすりと寝ているようだ。俺の腕効果かな? あと、20歳になったけど、寝顔が可愛いのは昔から変わらない。
姉貴の温もりや柔らかさ、匂いを感じられるからだろうか。目を瞑ると、程なくして眠りに落ちていった。
翌朝。
ゆっくりと目を覚ますと、部屋の中がうっすらと明るくなっていた。もう朝になっているのか。
「おはよう、明斗」
すぐ近くから姉貴の声が聞こえた。
姉貴の方を見ると、優しい笑顔で姉貴が俺のことを見ていた。
「おはよう、姉貴」
「うんっ。10分くらい前に起きて、明斗の可愛い寝顔をずっと眺めてた」
「そっか。姉貴、よく眠れたか?」
「明斗の腕を抱きしめたからよく眠れたよ! 内容は覚えてないけど、いい夢を見られたような気もするし。それに、スッキリと起きられた」
「それは良かった」
「うんっ。起きてすぐに明斗の寝顔を見られたから本当にいい朝だよ。姉弟会をして良かった!」
満足そうな笑顔で姉貴はそう言った。
「そうか。姉貴がそう言ってくれると、俺もして良かったって思えるよ」
「嬉しいな。明斗はよく眠れた?」
「ああ、眠れたよ」
「良かった。これからもたまに一緒に寝ようね! 姉弟会しようね!」
「そうだな」
姉貴と一緒に寝てもよく眠れるし。何よりも姉貴が満足そうにしているからな。これからもたまに、こうして姉弟会をすることにしよう。
『姉弟会』 おわり