『姉弟会-前編-』
『姉弟会』は、特別編5のお泊まり女子会エピソードのときの明斗目線の話になります。
『姉弟会』
7月31日、土曜日。
今日、氷織は氷織の家で友人の葉月沙綾さん、火村恭子さん、清水美羽さん、氷織の妹の七海ちゃんとお泊まり女子会をする。楽しいイベントになってほしい。
家族4人で夕食を食べているときにお泊まり女子会の話をしたら、
「氷織ちゃん達お泊まり女子会やるんだ。……それを聞いたら、今夜は明斗のベッドで明斗と一緒に寝たくなってきたよ」
姉貴の紙透明実がそんなことを言ってきた。
「どうして俺と一緒に寝たくなるんだよ。しかも俺のベッドで」
「だって、お泊まりと言えば同じ部屋に寝るじゃない。だから、今の話を聞いて、明斗と一緒に寝たくなったの。ちょっとでもお泊まり気分を味わいたいから、明斗の部屋で寝たいなって。ふとんを敷くのもありだけど、ベッドの方が気持ちいいと思うし」
「なるほどな」
俺が小学生までの間は姉貴と一緒に寝ることは普通にあった。俺が中学生になってからはしばらくなかったけど、姉貴が20歳になってお酒を呑むようになってからは酔っ払った姉貴が俺の部屋に入ってきて半ば無理矢理に一緒に寝ることも。氷織とお試しで付き合い始めた頃からは酔っ払ってなくても一緒に寝ることもあって。ただ、そういったことも数える程度のこと。だから、姉貴にとっては、俺のベッドで俺と一緒に寝るのは非日常感が味わえていいと思ったのだろう。
あと、「俺の部屋」で一緒に寝るのではなく、「俺のベッド」で一緒に寝ると言うところがブラコンな姉貴らしいなって思う。本人はベッドの方が気持ちいいと言っているけど。
「分かった。じゃあ、今夜は一緒に寝るか」
「うんっ、ありがとう!」
姉貴はとっても嬉しそうな笑顔でお礼を言った。お酒を呑める20歳の大学3年生だけど、今の姉貴の笑顔は幼い雰囲気も感じられた。
「向こうが女子会だから、こっちは姉弟会だね!」
「姉弟会」
初めて聞く単語なので思わずオウム返ししてしまった。その反応が面白かったのか、姉貴だけでなく、両親も声に出して笑う。
氷織達のイベントは「お泊まり女子会」という名前が付いているから、こっちも名前を付けたくなったのだろう。まあ、姉貴と俺がすることだから、姉弟会は妥当かもしれない。
こうして、今夜は姉貴と一緒に寝る『姉弟会』をすることが決まった。
姉貴も俺も明日はバイトなどの予定は特にない。2人とも、翌日が休みの日は日付が変わった後に寝るので、そのあたりの時間に姉貴が寝に来ることになった。
夕食を食べ終わった後、俺は自室で夏休みの課題をしたり、風呂に入ったり、趣味のアニメやラノベを楽しんだりして夜の時間を過ごしていく。
午後11時過ぎ。
ベッドで仰向けになりながら、積読していたラブコメのラノベを読んでいると、
――プルルッ。
枕の側に置いてあったスマホが鳴る。この鳴り方だとメッセージかメールかな。
ラノベを読むのを中断して、さっそく確認すると……LIMEというSNSアプリで氷織から新着メッセージが届いたと通知が。その通知をタップすると、氷織との個別トークが開き、
『明斗さん。今、通話してもいいですか? ビデオ通話で』
というメッセージ表示された。
氷織はお泊まり女子会中だから、通話したいというメッセージが来るとは思わなかったな。
ビデオ通話か。画面越しでも氷織の顔を見られるのはいいなって思う。魅力的なお願いだ。
『ああ。ビデオ通話してきていいよ』
という返信を送った。
トーク画面を開いているのか、俺の送信したメッセージはすぐに『既読』のマークが付いた。
その直後、氷織からビデオ通話での着信がきた。
応答ボタンをタップすると、画面には寝間着姿の氷織の姿が映し出された。寝間着姿の氷織も可愛いな。
「氷織、こんばんは」
氷織に挨拶して、手を振る。
『こんばんは、明斗さん』
氷織も挨拶して、笑顔で俺に手を振ってきてくれた。
「お泊まり女子会は楽しんでいるか?」
『はいっ! 夕ご飯は沙綾さんと私で作ったハヤシライスを食べて。恭子さんと七海と一緒にお風呂に入って。今は『秋目知人帳』のみんなが好きなエピソードを5話ほど見ました。みんなでお喋りして、お菓子を食べながら』
「おぉ、それは楽しそうだ。氷織が楽しめているようで良かった」
みんなと一緒にお泊まり女子会を楽しめていて何よりだ。
ちなみに、『秋目知人帳』というのは、少女漫画原作のあやかし系アニメだ。俺の小さい頃からアニメシリーズや映画が制作されている。俺も結構好きな作品だ。
『5話観たので今は休憩していて。それで……明斗さんに電話したんです。明斗さんの顔が見たかったのでビデオ通話で』
「そうだったのか。今は女子会だから、男の俺からのメッセージや電話は控えていたんだ。だから、氷織から電話してきてくれて嬉しいよ」
『そうですか』
氷織は微笑みながらそう言う。
『今は女子会中ですが、少しくらいはメッセージを送ってくれてもかまわないのですよ? その……美羽さんが倉木さんからメッセージが来たと嬉しそうにしているのを見て羨ましいなって思いましたし』
そう言うと、氷織はちょっと照れくさそうな様子になって、視線がチラつく。氷織がこういう反応をするのは珍しいし、可愛い。
お泊まり女子会中だから、男の俺が連絡するのはどうなのかと思って一切連絡しなかった。
俺からの連絡がない中、彼氏持ちの清水さんが彼氏の倉木和男からのメッセージに嬉しそうにしていたら……羨ましくなるのは当然だろう。おそらく、それがビデオ通話をしたいとメッセージを送ってきたきっかけだと思う。
「……そうだったのか。氷織がそう言ってくれて嬉しいよ。氷織にメッセージや電話を一切しないのは寂しいって思っていたし」
『明斗さん……』
「次からは、少しはメッセージを送るよ。電話しても良さそうなときはこうして電話もしよう。氷織の声を聴いたり、顔を見たりすると元気になれるし」
今もこうして氷織とビデオ電話をして元気になっているしな。
氷織はニッコリとした笑顔になる。
『ありがとうございます。……ところで、明斗さんは何をしていましたか?』
「俺はラノベ読んでた。積読してあるラブコメの」
『そうだったんですか。読み終わったら、私にも読ませてくれますか?』
「もちろんさ。あと、氷織が火村さん達と女子会しているって話したら、姉貴が俺のベッドで一緒に寝るって言ってきてさ。向こうが女子会ならこっちは姉弟会とか言ってる」
『ふふっ、明実さんらしいです』
楽しそうに言う氷織。姉貴がブラコンなのを知っているからそう言ってくれるのだろう。
「氷織。寝間着姿ってことは……お風呂に入ったのか。やっぱり火村さんと?」
『ええ。恭子さんと七海と3人で。髪や背中を洗って楽しかったです』
「それは良かった。……ちなみに、火村さんから変なことをされなかった?」
『特にされませんでしたよ。興奮することは何度もありましたが』
「……そうか」
何事もなくてほっとした。火村さんは氷織のことが大好きだし、変態な一面もあるからな。裸になった氷織を見て何かするんじゃないかと心配だったから。
「何事もなくて良かった」
『ええ。……もうそろそろアニメを観るのを再開するでしょうから、ここら辺で切りますね』
「ああ。この後も楽しんでね」
『ありがとうございます。次のデートのときに、今夜のことをいっぱい話しますね』
「うん、楽しみにしているよ。あと、みんなによろしく」
『はい。早めですが、おやすみなさい』
「おやすみ。またね」
『またです』
お互いに笑顔で手を振り合って、氷織の方から通話を切った。この後も、氷織がみんなと楽しく過ごせたらいいな。
姉貴が部屋に来るまではラノベを読むか。結構面白いし。そう決めて、俺はラノベを読むのを再開した。
昨日、制作が終わりました。全8話でお送りします。
よろしくお願いします。