『ツンデレ氷織』
『ツンデレ氷織』
夏休みが始まってから数日ほど。
今日は自宅で、恋人の青山氷織とお家デートをしている。
古典の夏休みの課題をキリのいいところまでやり、今は休憩を兼ねて、氷織と寄り添いながら、昨晩の放送されたラブコメのアニメを観ている。氷織と一緒にキャラクターやストーリーのことなどで話しながら。これがお家デートでの定番の過ごし方だ。
このアニメは氷織も俺・紙透明斗も好きな作品なので、自然と話が盛り上がって。だから、氷織も楽しそうな笑顔をたくさん見せてくれる。そのことに嬉しい気持ちになって。もちろん、話すのも楽しくて。だから、氷織とアニメを観るのは俺がとても好きなことの一つだ。
「今週も面白かったですね!」
「面白かったな」
アニメはもちろんのこと、氷織と話しながら観るのも楽しいので、あっという間にエンディングになっていた。
「今週のエピソードから登場した女の子が可愛かったですね」
「可愛かったな。ツンデレなところも良かった」
「そうでしたね。『別に○○じゃないんだからね』とツンデレな言葉が可愛かったです」
「そうだな。あと……今の氷織のツンとした口調も可愛かったぞ。氷織はツンデレじゃないから新鮮な感じがして」
「ありがとうございます」
ふふっ、と氷織は嬉しそうに笑う。
「今の氷織のツンとした口調が可愛かったから、ツンデレな感じの氷織を見たくなってきた」
「ふふっ。では……今観たアニメの女の子を参考に、ツンデレの演技をしてみましょうか。明斗さんの希望に応えたいですし。それに、小説執筆の参考になるかもしれませんから」
氷織はいつもの優しい笑顔でそう言ってくれる。
氷織は蒼川小織というペンネームで、小説投稿サイトで作品を公開している。ツンデレを演じてみることで、キャラクター作りとかの参考になるかもしれないと考えているのだろう。
「ありがとう、氷織」
「いえいえ。……ツンデレな演技ができそうな流れを思いついたのでやってみますね」
「ああ」
ツンデレな雰囲気の氷織がどんな感じなのか楽しみだ。
氷織はそっと俺に体を寄りかかり、俺の肩に頭を乗せてくる。
氷織は俺のことを見上げると、ちょっと照れくさそうな表情になり、
「ちょ、ちょっと疲れたから寄りかかっただけです。別に明斗さんとくっつきたいわけじゃないんですからね。明斗さんの温もりとか匂いを感じたいからでもないですからね」
俺のことを見つめながらそんな言葉を言ってきた。おぉ、ツンとしているな。あと、アニメでのツンデレキャラの女の子も、今の氷織のように照れくさそうな感じでツンとした言葉を言っていたな。
普段は穏やかで優しいから、ギャップもあってキュンとくる。あと、氷織らしく敬語で喋るのもいいな。
「ただ……こうしていると気持ちいいです。疲れが取れてきました。明斗さんに寄りかかって良かったです」
氷織は微笑みながらそう言ってきた。ツンとした言葉を言ったから、今度はデレの言葉を言ってみたのかな。あと、ツンとした言葉を言った後なので、デレた今の言葉がかなりグッとくる。
ツンデレな演技をする氷織……凄く可愛いぞ。だから、
「可愛いな……」
気付けばそう声を漏らしていた。それが聞こえたのか、氷織は「あうっ」と可愛らしい声を漏らして、体をピクッと震わせた。
「い、今のは……明斗さんの不意打ちの声に驚いただけで、可愛いと言われてキュンとなったわけじゃないんですからねっ」
と、ツンとした感じで言う氷織。頬が赤いし、口元も緩んでいるから……本当はキュンとなったんだろうな。俺が不意に漏らした言葉にもツンとした雰囲気で反応できるとは。さすがは氷織だ。
「ははっ、そっか。ただ、ツンデレな氷織は本当に可愛いぞ。普段とのギャップにキュンときたよ。あと、氷織らしく敬語で喋るところもいいなって思った。あと、俺が漏らした言葉にもツンとした感じで反応するのもさすがだな」
ツンデレな演技をする氷織について、素直に感想を言った。
俺の感想が嬉しいのか、氷織はニッコリとした笑顔になって、
「そ、そんなに褒められても……別に嬉しくないんですからねっ」
と言った。言葉と表情が全く合っていない。ただ、口では否定しているのに顔には出ちゃうのは、デレている気持ちがとても強いツンデレキャラって感じがして可愛い。
「嬉しくないって言っているけど、顔では隠しきれていないな。本心では嬉しいんだってすぐに分かるよ」
俺がそう言うと、氷織は「ふふっ」と声に出して笑う。
「凄く褒めてくれましたからね。それが嬉しくて。頬が緩んじゃいますよ。ただ、ツンデレの演技中だったので、嬉しくないと言ってみました」
「ははっ、そっか。でも、嬉しい気持ちが隠せてないツンデレキャラって感じがして可愛かったよ」
「ふふっ、そうでしたか。……ツンデレな言葉を何回か言ってみましたが、どうでしたか?」
「凄く良かったよ。可愛かった。ツンとした言葉を言ったときは、普段の氷織とは違った感じがしてギャップもあったし。満足だ」
「そうですか。明斗さんにそう言ってもらえて嬉しいです。私もツンデレの演技をして楽しかったです」
氷織は可愛らしい笑顔でそう言ってくれた。
「そっか。……ツンデレな氷織もいいけど、今みたいに気持ちを素直に言葉にするいつもの氷織が一番いいなって思うよ」
「えへへっ、嬉しいです。ありがとうございます」
そう言うと、氷織の笑顔は嬉しそうなものに変わって。そんな氷織の笑顔が段々と俺に近づいてきて、やがて、俺の唇に柔らかいものが触れた。この独特の感触は氷織の唇であるとすぐに分かった。
氷織の唇から伝わる柔らかさや温もりはとても心地いい。
数秒ほどして、氷織の方から唇を離す。すると、目の前には頬を中心に赤みを帯びた氷織の嬉しそうな笑顔があった。
「今の明斗さんの言葉がとても嬉しかったので、キスしました」
「そっか。……キスしてくれるのもいいなって思うよ」
俺がそう言うと、氷織は「ふふっ」と声に出して笑った。
ツンデレな演技をする氷織を見て、いつもの氷織がとても素敵だなと改めて思えた。
その後は、古典の課題の続きをしていく。氷織と一緒に観たアニメが楽しかったし、普段とは違うツンデレな可愛い氷織を見られたから、休憩前よりも課題を頑張れた。
『ツンデレ氷織』 おわり
夏休み小話編がスタートしました! 夏休み中の短編エピソード集です。
4つの小話を公開する予定です。よろしくお願いします。