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第19話『温もりが気持ちいい』

 俺と氷織が帰ってきたときに姉貴がちょうどお風呂から出てきて、リビングでゆっくりしている両親が「花火大会に行ってきたんだし、先にお風呂に入っていいよ」と言ってくれたので、俺達はすぐにお風呂に入ることに。

 俺の部屋で着替えなど入浴に必要なものを準備し、1階にある洗面所に向かった。

 洗面所で俺達は服を脱いでいく。

 浴衣姿の氷織も綺麗だったけど、浴衣を脱いでいく姿もそそられるものがある。そんなことを思いながら俺は着ているものを脱いでいき、水色の洗濯カゴに入れた。


「今日も明斗さんの体は素敵です。汗の匂いも……」


 衣服を全て脱ぎ終わり、お団子ヘアにしていた髪をストレートヘアに戻した氷織が俺のすぐ近くでそんなことを言った。氷織はうっとりとした様子になっている。


「氷織は俺の汗の匂いが好きだもんな。……そういえば、七夕祭りから帰ってきてお風呂に入るときも、氷織は今みたいなことを言っていたな」

「そうでしたね。あのとき以上に素敵な姿ですよ」

「ありがとう、氷織。氷織も……あのとき以上に素敵な姿になっているよ」

「ありがとうございますっ」


 嬉しそうにお礼を言うと、氷織は俺のことをぎゅっと抱きしめてきた。

 これまで、湯船に使っているときや肌を重ねるときなどに裸で抱きしめたことは何度もある。ただ、今は花火大会から帰ってきた直後なので、汗混じりの氷織の甘い匂いがいつもよりも濃く感じられて。だから、いつもよりもドキッとして。そう思いながら俺は両手を氷織の背中に回した。

 俺の汗の匂いが好きなのもあってか、氷織は俺の胸に顔を埋めてきて。深呼吸したり、頭をスリスリしたりしてきて。そんな氷織が可愛くて、俺は氷織の頭を優しく撫でた。

 そういえば、七夕祭りのときも、氷織の家に帰ってきてお風呂に入る前はこうして裸で抱きしめ合ったっけ。


「明斗さんの匂いや温もりをはっきり感じられて幸せです」


 そう言うと、氷織は俺の胸から顔を離し、俺を見上げながら幸せそうな笑顔を向けてくれる。今の氷織の言動のどれもが可愛くてキュンとなる。


「俺も幸せだよ。氷織の温もりとか匂いとか柔らかさと感じられて。それに、こうしていることに氷織が幸せだって言ってくれることがさ」


 氷織のことを見つめながらそう言い、氷織の頭をポンポンと優しく叩く。それが気持ち良かったのか、氷織の笑顔は柔らかいものになり「えへへっ」と声に出して笑う。本当に可愛すぎるよ、俺の恋人。


「じゃあ、お風呂に入ろうか」

「はいっ。今日も髪や背中を洗いっこしたいです」

「うん、しよう。氷織に洗ってもらうと気持ちいいから楽しみだなぁ」

「私も楽しみです。ありがとうございますっ」


 それから、俺達は浴室に入る。

 氷織、俺の順番で洗うことに。氷織との約束の通り、髪と背中は洗いっこする。

 髪の毛を4時間ほどお団子ヘアにしていたけど、氷織の銀色の髪はまっすぐで綺麗だ。これも普段からケアしている賜物なのだろう。傷まないように注意しながら氷織の髪を丁寧に洗った。

 氷織の背中も変わらず白くて綺麗で。海水浴デートのときに、スキンケアやストレッチ、食生活以外に、俺とのスキンシップのおかげでもあると言っていたっけ。背中についても丁寧に洗っていった。

 また、どちらを洗っているときも、氷織は気持ち良さそうにしていた。氷織の柔らかい笑顔を鏡越しで見ると幸せな気持ちになれて。

 氷織に髪と背中を洗ってもらうときはとても気持ち良くて。毎回思っていることだけど、氷織って髪と背中を洗うのが本当に上手だなって思った。


「よし。顔も洗い終わった。氷織、俺も湯船に入るよ」

「はいっ」


 俺も全身を洗い終えたので、氷織と向かい合う形で湯船に浸かる。


「あぁ、気持ちいい」


 今日は7時間バイトをしたり、氷織と花火大会に行ったりしたからだろうか。お湯の温もりが染み渡っていく感覚が気持ちいい。


「気持ちいいですよねぇ」


 俺を見ながらそう言うと、氷織はまったりとした笑みを浮かべる。ヘアゴムでまとめていつもと違う髪型になっていたり、肌がほんのりと上気していたり、胸が湯船に浮いたりしているのもあり、今の氷織はとても艶っぽく感じる。


「本当に気持ち良さそうだな、氷織」

「ええ。とっても気持ちいいです。明斗さんと一緒に入っているからなのはもちろんですが、最近は夜になると暑さが和らいできたので、お湯の温もりが心地いいです」

「そっか。確かに、最近はお湯の温かさがいいなって思えるようになったよ。真夏だと短く浸かる日もあったし。こういうことでも季節の進みを感じるようになったな」

「そうですね。これからはもっと気持ち良くなるのでしょうね」

「そうだな」


 秋になると段々と寒さを感じるようになって、お湯の温もりが恋しくなっていくし。個人的には、これからの時期は湯船に浸かる時間が段々と長くなっていく。


「明斗さんも本当に気持ち良さそうですね」

「ああ、気持ちいいよ。今日はバイトをしたり、氷織と花火大会デートしたりしたからな。もちろん、一番の理由は氷織と一緒に入っているからだよ」

「明斗さん……」


 嬉しそうな笑顔で俺の名前を言うと、氷織はゆっくりと俺に近づいてくる。その流れで俺にキスをしてきた。

 足から胸元までお湯の温もりに包まれているけど、氷織の湿った唇から柔らかさと共に伝わってくる温もりはとても心地良くて。

 ちょっとして氷織の方から唇を離す。すると、目の前には恍惚とした笑顔を俺に向ける氷織がいて。


「明斗さんがそう言ってくれて嬉しいです」

「そうか。俺も嬉しいよ。俺と一緒に入っているから気持ちいいって言ってくれて」


 そう言い、俺は氷織のことをそっと抱きしめる。そのことで、体の一部分に感じる温もりはお湯から氷織に変わって。


「もっと気持ち良くなったよ、氷織」

「……私もです、明斗さん」


 氷織はそう言うと、柔らかい笑顔を向けてくれて、両手を俺の背中にそっと回して。そのことで、さらに気持ち良くなった気がする。

 密着できたり、触れ合えたりするという理由で、こうして抱きしめ合うのは一緒に湯船に浸かるときの定番の体勢の一つだ。ただ、今のやり取りでこの体勢が改めていいなと思えた。


「あの、明斗さん」

「うん?」

「肩をマッサージしましょうか? 今日はバイトがありましたし。それに、今月の上旬に私の家でお泊まりしたとき、入浴中に明斗さんが肩のマッサージをしてくれましたから。やってみたいなと思いまして」

「なるほど、そういうことか。……今日は7時間バイトをしたし、お願いしようかな」

「はいっ!」


 氷織はニコッと笑いながら返事をしてくれた。

 マッサージをしてもらうため、氷織との抱擁を解いて、俺は氷織から背を向ける体勢に。その直後、俺の両肩に何かがそっと触れる。きっと、氷織の手だろう。


「では、マッサージを始めますね」

「ああ。お願いします」


 俺は氷織に両肩をマッサージしてもらう。

 気持ち良さと同時に、ちょっと痛みを感じる。今日は特に肩に痛みを感じていなかったけど、バイトとかの疲れが溜まっているのかもしれない。


「ちょっと肩が凝っていますね。明斗さんは揉まれてみてどうですか?」

「少し痛みを感じているよ。たぶん、バイトとかの疲れが溜まっていたんじゃないかなって思う」

「そうでしたか。では、凝りがほぐれるように揉んでいきますねっ」

「うん」


 それからも、氷織に肩のマッサージをしてもらう。本当に気持ちいい。

 湯船に浸かりながら、恋人にマッサージしてもらえるなんて。とても贅沢な時間を過ごしている。以前のお泊まりで、入浴中に俺が氷織の肩のマッサージをしたときは、氷織もこういう気持ちだったのだろうか。


「こういう揉み方で大丈夫ですか?」

「凄く気持ちいいよ。あと、湯船に浸かりながらマッサージしてもらうのってこんなにも気持ちいいんだな」

「そうですよ。以前、湯船で揉んだときはとても気持ち良かったです。揉んでくれるのが明斗さんだからなのもありますが」

「嬉しいな。俺も氷織に揉まれているから凄く気持ちいいんだろうな」

「そう言ってくれて嬉しいですっ」


 氷織は弾んだ声でそう言う。後ろの方をチラッと見ると、氷織はニコニコしながら俺の肩をマッサージしている。そんな氷織を見て幸せな気持ちになった。

 今日の花火大会デートの話をしながら、氷織にマッサージをしてもらった。


「明斗さん。凝りがほぐれましたが……どうでしょうか」

「どれどれ……」


 氷織が肩から手を離した直後、俺は両肩をゆっくりと回す。


「……うん。スッキリしたよ」


 そう言って、氷織の方に振り返ると、氷織はいつもの優しい笑顔で俺のことを見ている。


「良かったです」

「ありがとう。痛みが出る前にマッサージしてもらって良かった」

「いえいえ。私もマッサージできて楽しかったです」


 氷織はニコッと笑いながらそう言ってくれた。氷織が楽しんでくれて良かった。


「氷織、ありがとう」


 氷織にマッサージをしてくれたお礼のキスをした。2、3秒ほどのキスだけど、氷織の唇の柔らかさや温もりはしっかりと感じられた。

 その後は氷織と抱きしめ合ったり、氷織のことを後ろから抱きしめたりしながら湯船に浸かって、氷織との入浴を楽しむのであった。

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