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第16話『花火大会-前編-』

 氷織と一緒に帰宅する。

 リビングでゆっくりしている両親に氷織は挨拶した。

 ちなみに、姉貴は不在。実は姉貴も花火大会に行くことになっており、中学時代の友達数人と行くとのこと。ちなみに、このことは氷織も知っている。

 俺の部屋に行き、俺が甚平に、氷織は浴衣に着替えていく。

 俺が着る甚平は黒い甚平で、氷織の着る浴衣は水色の朝顔の花柄が印象的な青い浴衣だ。この甚平と浴衣は先月行った七夕祭りでも着たものだ。

 そういえば、氷織が浴衣に着替えるところを見るのはこれが初めてだな。七夕祭りのときは、バイトが終わった後に氷織の家に行ったけど、氷織の家に着いたときには既に氷織は浴衣に着替えていたから。

 甚平に着替え終わった後は、氷織が浴衣を着て、銀色の長い髪をお団子ヘアにまとめるところを見る。浴衣を着るのも、髪をまとめるのも手慣れた感じで。思わず見入ってしまう。


「はいっ、お団子の髪型も完成です」


 浴衣に着替え、髪型も青いかんざしを挿してセットし終わると、氷織は俺のことを見ながらそう言った。


「可愛いよ、氷織。似合ってる。その浴衣姿をまた見られて嬉しいよ」

「ありがとうございます。明斗さんも甚平姿かっこいいですよ! また見られて嬉しいです。甚平姿をまた見たいのもあって、花火大会デートに誘ったのもあります」

「ははっ、そうだったんだ。ありがとう。じゃあ、記念に写真撮ろう」

「はいっ」


 その後、俺のスマホで、甚平や浴衣に着替えた氷織とツーショットの写真撮影をした。2人とも笑顔だし、いい写真が撮れたな。その写真はLIMEで氷織のスマホに送った。


「じゃあ、花火大会の会場に行くか」

「はいっ! 行きましょう!」


 スマホや財布など必要なものを持って、俺は氷織と一緒に部屋を出た。

 リビングにいる両親に花火大会に行ってくることを伝え、俺達は花火大会の会場に向けて家を出発する。七夕祭りのときと同じく、俺は草履、氷織は下駄を履いて。カタ、カタ、カタ……という氷織の下駄の足音が心地良い。

 今は夕方だし、甚平姿なのもあって、あまり暑さは感じず過ごしやすい。たまに吹く柔らかい風が心地いい。


「もうすぐ秋ですし、今は浴衣姿なのもあって過ごしやすいです」

「あまり暑さを感じないもんな。真夏の頃は夜にバイトから帰るときもかなり暑かったし。季節の進みを実感するよ」

「そうですか。最近は夜になると暑さが和らぐ日が増えてきましたよね。あと、七夕祭りのときも過ごしやすかったですけど、個人的には今の方がもっと過ごしやすいですね」

「そうだな。あの頃よりも空気が爽やかというか。夜になったら、もっと過ごしやすくなるだろうな」

「そうでしょうね」

「あと、今日は晴れて良かった。雨が降る心配もないし」

「ええ。花火大会は予定通り行なわれそうですね」

「ああ」


 海水浴デートの帰りで氷織と約束してから、今日の花火大会デートとお泊まりをずっと楽しみにしていた。だから、花火大会当日の今日の天気を毎日チェックして。ずっと晴れ予報だったけど、実際に当日になっていい天気なったのは嬉しいし、ほっとする。

 氷織と話しながら歩いているので、萩窪駅まではあっという間だった。

 改札を通り、花火大会の最寄り駅である月野(つきの)駅の方へ行く、NR東京中央線快速の下り方面の電車が停車するホームに。座れる確率を上げるために、先頭車両が止まる場所まで移動した。花火大会目的か、ホームには浴衣や甚平姿の人がちらほらと。

 ホームに着いてから程なくして、下り方面の電車が萩窪駅に到着した。

 乗車すると、狙いが当たり、2席連続で空席となっている箇所があった。俺達はその空席に隣同士に座った。また、車内にも甚平や浴衣姿の人が何人かいた。

 俺達が座ってすぐ、電車は定刻通りに荻窪駅を発車する。

 扉のすぐ上にあるモニターを見ると、月野駅までは30分か。

 普段は電車に乗らないので、30分もなかなかの長さだ。ただ、氷織と現在放送しているアニメのことや、甚平と浴衣姿なので七夕祭りの思い出などで話が盛り上がり、月野駅に到着するまであっという間に感じられた。


「月野駅に到着したな」

「ええ。あっという間でしたね。あと、特に遅延や運転見合わせにならずに到着できて嬉しいです」

「花火の打ち上げに間に合わなかったら悲しいもんな。定刻通りについて良かった」

「そうですね。では、会場に行きましょう!」

「ああ」


 俺達は月野駅のホームを歩き始める。

 ただ、会場の最寄り駅なのもあって、ホームには結構多くの人がいる。浴衣や甚平姿の人も結構いて。はぐれてしまわないように、氷織と繋いでいる手を今一度しっかりと握った。

 改札を出ると、待ち合わせしているのか浴衣や甚平姿の人がより多くなる。こういう光景を見ると、ここの近くで花火大会が行なわれるんだって実感する。あと、以前来たときにもこういう光景を見たので、懐かしい気持ちにもなる。


「懐かしいなぁ」

「確か、最後に来たのは中学2年生のときだと言っていましたっけ」

「そうだよ。3年ぶりだから懐かしくてさ」

「そうですか。私は去年も来たので、懐かしさはあまりないですね。明斗さんと初めて一緒に来たので新鮮な気持ちの方が強いです」

「そっか。俺も……氷織っていう恋人と一緒に来るのは初めてだから新鮮だな。まさか、最後に来た3年前には、高校生に恋人と一緒に来ることになるとは思わなかったよ」

「ふふっ。私も去年の花火大会のときには想像していませんでした。……あと、明斗さんにとって高校生になってから初めて、恋人と来るのが初めて来る花火大会が私と一緒なのが嬉しいです」


 そう言うと、氷織は俺の手を離して、腕を抱きしめてくる。そのことで浴衣越しに氷織の温もりや柔らかさが伝わってきて。俺の顔を見上げながらニコッと笑ってくるのもあってドキッとして。可愛すぎるんですけど。日もだいぶ暮れて暑さが和らいできたけど、体が一気に熱くなった。


「俺も……氷織にとって、初めて一緒に来る恋人が俺で嬉しいよ」

「ふふっ、そうですか。初めての一緒の花火大会、楽しみましょうね」

「ああ」


 きっと、今までで一番楽しめる花火大会になるだろう。

 駅から会場までの道のりは事前に調べている。ただ、大会スタッフなのか『花火大会会場はこちら』というプラカードを持った人が所々に立っていたり、多くの人の流れがあったりもする。だから、迷うことなく会場の入口まで辿り着けた。


「着いたな!」

「着きましたね!」


 氷織は嬉しそうな笑顔でそう言った。

 会場の入口からは、普通のお祭りのように屋台が多く並んでいるのが見える。日もだいぶ暮れてきたから、屋台や『多摩川花火大会』と書かれた提灯の灯りがとても綺麗で。焼きそばの屋台が近くにあるのか、ソースの匂いが香ってきて食欲をそそられる。まだ花火が始まる前だけど、多くの人が来場していて。この風景も懐かしい。


「初めて来た記念に写真撮るか」

「そうですねっ」


 俺のスマホで氷織とツーショットの自撮り写真を撮影する。俺達の後ろにある提灯も写っているので、花火大会会場らしい写真を撮れたな。この写真はLIMEで氷織のスマホに送った。

 また、スマホで時刻を確認すると、今は午後6時10分か。花火の打ち上げ開始は午後7時からの予定なので、あと50分あるか。


「氷織。花火の打ち上げ開始まであと50分くらいあるし、それまでは屋台を廻ろうか」

「そうしましょう」


 俺達は花火大会の会場の中に入る。

 焼きそばやリンゴ飴、チョコバナナといった食べ物系中心に屋台がズラリ。今日はバイトがあったし、お昼のまかないを食べてから口にしたのはアイスコーヒーくらいだから食べ物系の屋台はとても魅力的だ。


「色々な屋台がありますね。まずはどこから行きましょうか?」

「……食べ物系がいいな。バイトをしたからお腹が減ってて」

「食べ物系いいですね。夕食時ですし、私もお腹が空いてきました。では……焼きそばなんてどうでしょう?」


 そう言い、氷織は近くにある焼きそばの屋台を指さす。そちらの方を見ると、屋台にいるおじさんが焼きそばを焼いているところだった。それもあり、ソースの美味しそうな匂いが香ってきて。


「いい匂いだ。よし、まずは焼きそばを食べよう」

「はいっ」


 俺達は焼きそばの屋台へ向かう。

 焼きそばは屋台の定番なので、屋台の前には数人ほど並んでいた。麺類だし、食べ物系の列だから、オープンキャンパスの食堂で氷織と並んだことを思い出すなぁ。

 並んでいるのは数分ほどなので、すぐに俺達の番になる。


「焼きそばを2つください」

「あいよー! 2つで600円だ!」


 俺が焼きそばを頼むと、屋台にいるおじさんは大きな声で元気良く行ってくれた。こういう元気な接客をされるのは気持ちがいいな。

 氷織と俺はそれぞれ300円ずつ出した。


「へい、お待ち! 焼きそば2つだ! できたてで熱いから気をつけな!」

「どうもー」


 屋台のおじさんから、焼きそばが入ったプラスチックのパック2つと割り箸を受け取った。パックだから持てるけどなかなか熱い。

 他の方の邪魔にならないように、俺達は屋台が並んでいる通りから外れた少し広いスペースまで移動した。


「はい、氷織。熱いから気をつけてね」

「ありがとうございます」


 スペースに辿り着き、俺は氷織に焼きそばの入ったパックと割り箸を渡した。

 俺は焼きそばのパックを開けると、湯気と共にソースの香りがふんわりと広がって。美味しそうだ。具がキャベツと豚肉というシンプルなのがまたいい。


「美味しそうですっ」

「美味そうだよな。じゃあ、食べるか」

「はいっ。いただきます」

「いただきまーす」


 俺は割り箸で一口分掴んで、何度か息を吹きかけてから焼きそばを一口食べる。

 出来たてなので、息を吹きかけてもなかなか熱いな。口の中に入れた瞬間にソースの風味が広がって。熱いのに気をつけながら噛んでいくと……本当に美味しい。


「美味いっ!」

「美味しいですねっ! 出来たてですから本当に美味しいです!」

「美味いよな! 鉄板で焼いたものだし」

「ですね。麺がカリッとなっている部分があるのもいいですね」

「ああ。家で作るとあまりこういう部分はないから、屋台の焼きそばならではだな」


 そう言い、俺は焼きそばをもう一口。氷織の言うカリッとした部分があり、香ばしさが感じられて美味しい。


「そういえば、七夕祭りに行ったときに最初に食べたのも焼きそばでしたね」

「そうだったな。6人で食べたっけ」


 今食べている焼きそばも美味しいけど、七夕祭りでみんなで食べた焼きそばも美味しかったな。美味しそうに食べているみんなを思い出す。


「みなさんはもう来ているでしょうか」


 和男と清水さんはデート、火村さんと葉月さんは友達と一緒にこの花火大会に来ている。


「花火の打ち上げまで1時間を切っているし、もうみんな来ているんじゃないか」

「いそうですよね。みなさんと会場で会えたら嬉しいです。もちろん、明実さんとも。あと、七海も友達と来ているんです」

「そうなんだ。みんなと会いたいな」


 和男達が来ているのは知っているし、こういう場所で友達と会えると嬉しいからな。

 その後も、氷織と食べさせ合うこともしながら焼きそばを楽しむ。

 この焼きそば……本当に美味しいな。最初に買ったものが焼きそばで良かった。そう思いながら食べていると、


「あっ、氷織ちゃんと紙透君いた!」

「本当だ! よっ、アキ、青山!」


 清水さんと和男の声が聞こえたのでそちらに振り向くと……すぐそこに、キュロットスカートに半袖のブラウス姿の清水さんと、半ズボンに半袖のTシャツ姿の和男が。2人はりんご飴を持っている。


「美羽さんに倉木さん、こんばんは」

「2人ともこんばんは」

「こんばんは! 2人に会えて嬉しいよ!」

「俺も嬉しいぜ!」

「私も嬉しいです。会場で友達と会うのはお二人が初めてですから」

「10分くらい前に着いたからな。俺も嬉しいよ」


 会場で友達と会うこの感覚も懐かしいな。中学までも、この花火大会の会場に行くと友達やクラスメイトと会うことは何度もあったっけ。


「そうだったんだ! あたし達は30分以上前に着いて、恭子ちゃんと沙綾ちゃん達と会ったよ」

「そうだったな」

「沙綾さんと恭子さんももう来ているんですね」


 ということは、会場内を歩いていれば火村さんと葉月さんに会えるかもしれないのか。


「あと、焼きそばにたこ焼きに焼き鳥とかき氷を食べたぜ」

「たこ焼きと焼き鳥は和男君からちょっともらったよ」

「そうなのか」


 30分ほどで4つも食べるとは。和男&清水さんカップルらしい。花火の打ち上げ開始まであと40分くらいあるし、2人はあと何種類ぐらい食べるのだろうか。


「今日はお二人とも私服なんですね。七夕祭りのときは高校の制服でしたが」

「七夕祭りのときは部活帰りだったからね。今日は部活が終わってから時間があったし私服に着替えたの」

「そういえば、去年、花火大会に行った話を聞いたときに写真を見せてもらったけど、2人とも私服だったな」

「美羽も俺もこういうイベントには私服で行くタイプだからな」

「そうだね。氷織ちゃんと紙透君は七夕祭りのときと同じ服装だね。2人とも似合ってるよ」

「似合ってるぜ!」


 清水さんと和男は持ち前の明るい笑顔でそう言ってくれた。和男はサムズアップしてくれて。七夕祭りのときもこの服装を褒めてくれたけど、こういう言葉は何度言われても嬉しいものだ。


「ありがとう」

「ありがとうございますっ。お二人も似合っていますよ」

「そうだな」

「ありがとな!」

「ありがとう!」


 その後、清水さんの提案で、清水さんのスマホを使って4人の自撮り写真を撮った。その写真はLIMEで送ってもらった。

 それから少しの間、俺と氷織は焼きそば、和男と清水さんはりんご飴食べながら談笑する。2組のカップルが一緒にいるから、ダブルデートのような感じもして。氷織と2人きりで食べるのも楽しいけど、こうして友達ともワイワイ喋りながら食べるのもいいな。

 また、和男と清水さんはりんごを食べさせ合うことも。そのときは2人とも楽しそうで。去年の花火大会でもこんなだったのかなと思った。

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