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第13話『氷織の初バイト-前編-』

「あっ、紙透君! バイトお疲れ様ッス!」

「葉月さんもバイトお疲れ様」


 8月26日、木曜日。

 午後4時20分。

 午後4時にバイトを終えた俺は、東都メトロという地下鉄で新高野しんたかの駅まで行き、改札を出たところでスラックスに半袖のブラウス姿の葉月さんと落ち合った。4時半頃にこの場所で葉月さんと待ち合わせをする約束になっていたので、無事に会えて良かった。

 なぜ、葉月さんと2人きりで待ち合わせをしているのか。


「じゃあ、さっそく、ひおりんとヒム子がバイトしているジュエルタカノに行くッス」

「そうだな」


 今日は氷織が助っ人として、火村さんのバイト先であるジェエルタカノというタピオカドリンク店でバイトをしている。なので、氷織のバイトの様子を見たり、接客してもらったりするために、葉月さんと待ち合わせてお店に行くことになったのだ。

 こうなったきっかけは、今朝、火村さんから、


『今日だけ、あたしのバイト先のお店で、誰か助っ人でバイトをしてくれないかしら?』


 というメッセージが、いつもの6人のグループトークに届いたことだ。また、アパレルショップでバイトをしている姉貴にも、火村さんから同様のメッセージが来た。

 火村さん曰く、今日シフトに入る予定の人の何人かが体調不良で休むことになった。なので、今日シフトで出勤する人のバイトの時間を調整したり、シフトに入っていない人に今日はシフトに入れるか頼んだりした。火村さんも当初のシフトよりも長い時間入るらしい。ただ、シフトに入っていない人は外せない用事がある人が多いため、日中の時間帯は人手が足りないのこと。そこで、今日がシフトの火村さんが友達に頼んでみると言ったのだそうだ。

 俺と葉月さんはバイト、和男と清水さんは部活があるので断ったが、氷織は予定が空いているので大丈夫だと返信した。また、姉貴は一日バイトがあるので、断りの返信をしたとのこと。

 ただ、氷織はバイトをしたことがなく、接客経験も去年の文化祭で文芸部の部誌を売ったことくらいとのこと。なので、助っ人として務まるかどうか不安な気持ちもあると言っていた。ただ、そんな氷織に向けて、


『あたしがずっと一緒にいるから安心して。仕事内容をちゃんと教えるし。あと、氷織と一緒にバイトしてみたい気持ちもあるわ』

『文化祭での接客はちゃんとしていたので、ひおりんなら大丈夫ッスよ』


 と、火村さんと葉月さんがメッセージを送って。俺も、


『もし、やりたい気持ちがちょっとでもあるなら、やってみるのがいいと思う。お金をもらえるし、社会経験にもなるし。それに、友達の火村さんとバイトできるし』


 というメッセージを送った。また、和男と清水さんも、


『氷織ちゃんなら大丈夫だよ』

『美羽の言う通りだな。青山なら大丈夫だと思うぜ』


 とメッセージを送って。それらに背中を押されたようで、氷織は、


『分かりました。助っ人バイトやりたいです。恭子さん、今日は一日よろしくお願いします!』


 と、助っ人バイトを承諾したのだ。氷織は火村さんと一緒に午前10時から午後5時までバイトをすることになった。

 恋人の氷織がバイトをするから、氷織に接客されたい気持ちが生まれて。今日は午後4時までのシフトなので、終わってから行くことにした。

 また、葉月さんも氷織に接客されたい気持ちがあり、午後4時まで書店のバイトがある。なので、4時半にジュエルタカノの最寄り駅ある新高野駅の改札前で待ち合わせをして、一緒に行く約束をしたのだ。氷織と火村さんは俺達が2人で来ることを了承している。

 今日のバイトをして、少し早めだけど、新高野駅の改札前で葉月さんと無事に会えて今に至るというわけだ。

 北口から新高野駅を出て、ジュエルタカノに向かって歩く。


「氷織に接客されるのが楽しみだな」

「そうッスね。ヒム子曰く、ひおりんはいい接客をしているみたいッスから」

「そうだな」


 俺達がそう言うのも、お昼頃に火村さんが、


『さすがは氷織だわ! あたしがカウンターや客席での仕事を教えたら、すぐに覚えたわ。とてもいい笑顔で接客できてる』


 というメッセージをくれたからだ。氷織はとても頭がいいし、何でもそつなくこなせるので、今日が初めてのバイトでも即戦力になっているようだ。また、氷織本人からも、


『恭子さんやお店の方の教え方が上手ですし、恭子さんが一緒にいてくれるおかげで、何とかやれています』


 というメッセージが送られてきた。友達の火村さんが一緒にいてくれるのは大きいよな。それが、氷織が仕事をやれている理由の一つになっているのは間違いないだろう。

 あと、火村さんはジュエルタカノの制服である、襟付きの黒いブラウスを着た氷織とのツーショットの自撮り写真を送ってくれた。制服姿の氷織が可愛くて、今日のバイトはいつも以上に頑張れたな。

 駅から近いのもあり、すぐにジュエルタカノが見えてきた。晴れて暑いのもあってか、お店に入る人やコップを持ってお店から出てくる人の姿が見える。

 入口の近くまで行くと……カウンターにはこのお店の店員の制服姿の氷織がいる。写真でも可愛かったけど、実際に見ても氷織の制服姿は可愛いと思う。隣のカウンターには火村さんがいる。


「接客の様子をこっそり見てみるッスか」

「そうだな」


 入口横のガラス部分には、ドリンクの一覧や新商品のポスターが貼られている。それを使って身を隠しながら、葉月さんと一緒にカウンターの様子を見る。

 氷織はいつもの優しい笑顔で接客をしている。レジ打ちやお金のやり取り、注文されたタピオカドリンクを提供する姿……全て初めて見る氷織の姿だ。バイトを始めて数時間経っているからか、氷織は落ち着いて仕事をしている。


「今日が、バイトでは初めての接客とは思えないほどの落ち着きぶりだな」

「そうッスね。さすがッス。去年の文化祭でも、部誌を販売するときは落ち着いて接客していたッスけど、あんなにいい笑顔はしてなかったッスよ。きっと、紙透君と付き合っているおかげッスね」

「そうだと嬉しいな」


 氷織の友人の葉月さんからそう言われると胸にじんとくるものがある。

 隣にカウンターに立つ火村さんも、いつもの明るい笑顔で接客している。ただ、接客が終わると、幸せそうな笑顔で隣に立っている氷織を見ているけど。ちょっと興奮しているようにも見えるぞ。


「隣にひおりんがいるからか、ヒム子は楽しそうッスね」

「そうだな。……そういえば、初めて氷織と一緒にここへ来たときは、今みたいにこっそりと火村さんの接客の様子を見たな」

「そうだったッスか」


 あのときは、まさか氷織がこのお店で火村さんの横で接客するときが来るとは思わなかったな。

 カウンターを見ていると、氷織が担当するカウンターにお客さんがいなくなった。


「そろそろ入るか」

「そうッスね」


 俺は葉月さんと一緒にジェエルタカノの中に入る。

 氷織と火村さんは俺達に気付き、とてもいい笑顔で、


『いらっしゃいませ!』


 と、声を揃えてそう言ってくれた。氷織にいらっしゃいませって言われる日が来るとは。ちょっと感動。

 俺と葉月さんは氷織が担当するカウンターに向かう。


「氷織、火村さん、バイトお疲れ様」

「2人ともバイトお疲れッス!」

「氷織にバイトお疲れ様って言うのは初めてだから新鮮だな」

「そうッスね」

「お二人ともありがとうございます!」

「ありがとう」


 氷織と火村さんは笑顔でお礼を言う。


「明斗さんと沙綾さんもバイトがあったんですよね。お疲れ様でした」

「お疲れ様」

「どうもッス」

「ありがとう」


 氷織からバイトお疲れ様って言われたことはいっぱいあるけど、氷織がバイト中に言われたことは初めてなので新鮮だ。

 今は……カウンターの前には俺と葉月さん以外は全然いないので、多少は話しても大丈夫そうかな。


「あと、氷織……その制服本当に似合ってるな。可愛いよ」

「似合っているッスよ」

「似合っているわよね!」

「ありがとうございますっ。この制服のデザインがいいなと思っていましたので、お二人にそう言ってもらえて嬉しいです」

「あたしの制服を貸そうと思ったんだけど、氷織はおっぱいが大きいから、あたしのじゃキツかったみたいで。それで、巨乳な店長の制服を貸したの」

「そうだったッスか」

「……そ、そうなんだな」


 胸のことが話題になったので、つい氷織と火村さんの胸を見てしまう。火村さんの胸もなかなかの大きさだけど、氷織の胸はFカップで火村さんよりも大きいからな。火村さんの制服じゃ胸がキツいのは……し、仕方ないか。

 また、氷織の着る制服の胸元には『今日限定! 青山』と書かれた名札が付けられている。火村さんが送ってくれた写真に写る氷織の制服には付いていなかったな。


「今日限定っていう名札を付けているんだな。送ってくれた写真に写る氷織が着ていた服には付いていなかったけど」

「着替えた直後に写真を撮ったからね。氷織はとても魅力的な容姿を持ち主だから、一度接客したらファンが付く可能性は十分にあるし。だから、今日限定の店員だって分かってもらうために、こういう名札を付けたの」

「なるほどな」


 カウンターに立つ氷織を見たり、氷織に接客されたりすることで、氷織目当てて来るリピーターができそうだもんな。後日来て、実は今日限定でしたって分かってがっかりされるよりは、ちゃんと今日限定だと示しておいた方がいいか。


「氷織。お昼頃に接客できてるってメッセージが来たけど、その後はどうだ?」

「何とかやれています。隣のカウンターに恭子さんがずっといますし、恭子さんはもちろん他のスタッフの方々も優しくしてくださいますから。あと、お客様から笑顔で『ありがとう』とか『ごちそうさま』って言われて嬉しい気持ちになりますね」


 と、氷織は柔らかい笑顔でそう言う。

 何とかやれているか。良かった。一緒に働くスタッフの存在に支えられたり、お客様から笑顔で「ありがとう」とか「ごちそうさま」って言われると嬉しい気持ちになったりする気持ちはよく分かる。


「メッセージでも書いたけど、氷織は今日が初めてとは思えないくらいの接客ぶりだわ。氷織は凄いわよ! サイズを間違えそうになったあたしのミスも指摘してくれたしね」


 と、ドヤ顔で言う火村さん。自分のミス絡みのことでもドヤ顔で言えるところが火村さんらしいというか。氷織に仕事のやり方を教えたので、「あたしが氷織を育てたのよ!」と誇らしい気持ちなのかも。


「そ、そうか。氷織はよく働けているんだな」

「そうッスね。さすがッス」

「いえいえ。恭子さん達のおかげだと思っています。あと、助っ人バイトをして、普段から接客のバイトをしている恭子さんと明斗さんと沙綾さんがとても凄いと思いました。みなさん、笑顔で落ち着いて接客していますし」


 氷織は持ち前の優しい笑顔でそう言ってくれる。


「そう言ってもらえて嬉しいよ」

「そうッスね」

「これからのバイトをもっと頑張れるわ!」


 これまで、氷織にバイトのことを褒めてもらったことは何度もある。ただ、今回は氷織が接客のバイトをした上で褒めてくれたので、今までで一番嬉しい気持ちになった。

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