第8話『夏休みの課題の取り組み方』
「すまん、アキ、葉月! 問5の数列の問題が分からねえ」
「あぁ、この問題か。基本的な内容だからしっかりやっていこう。教えるから」
「……あぁ、この問題でしっかり理解した方がいいッスね」
「氷織ちゃん、恭子ちゃん。この問題も分からないよ。教えて……」
「いいですよ、美羽さん」
「氷織と一緒に教えるわ。……あぁ、この問題は難しいわよね。あたしも氷織と沙綾に教えてもらったわ」
8月22日、日曜日。
今日は午前9時から、俺の家で和男と清水さんがまだ終わらせていない夏休みの課題を取り組んでいる。2人のことを俺、氷織、火村さん、葉月さんが助けるといった形だ。
こうなったきっかけは、昨日の夜に6人のグループトークに、
『みんな、すまん! 課題で助けてくれないか? 部活がない明日に……』
『苦手な科目で分からないところがあって。突然で申し訳ないんだけど、明日、教えてもらえると嬉しいな』
というメッセージが送られてきたからだ。
和男と清水さん曰く、夏休み中はこれまで部活のある日が多かったけど、得意科目の課題から少しずつやって終わらせてきたという。ただ、苦手な科目については分からないところが多く、夏休み中に終わらせられないかもしれないので、みんなに助けを求めたという。
去年の夏休みもこの時期に和男と清水さんの苦手な科目の課題を助けていたので、そろそろ課題のことで助けてくれとメッセージが来るんじゃないかと思っていた。幸い、予定もなかったので、
『ああ、いいぞ。特に予定ないし』
と、俺が最初に返信した。
『私もいいですよ。家で小説の新作の構想を考えようかなと思っていたくらいですから』
『あたしもいいわよ。バイトないし。それに、氷織と沙綾のおかげでもう終わっているから力になれると思う』
『あたしもいいッスよ! バイトないッスし、漫画を買おうと思っていたくらいッスから』
氷織、火村さん、葉月さんも特に外せない用事があるわけではなかったので、3人も和男と清水さんの課題を助けることになった。
去年、俺に課題を助けてもらったときは俺の家でやったという理由から、俺の家で課題をやることに決まったのだ。
和男と清水さんが終わらせていない課題は数学Bと化学基礎だ。
教えられる人が4人いるので、俺と葉月さんが和男を担当、氷織と火村さんが清水さんを担当することになった。ちなみに、俺、氷織、火村さん、葉月さんは夏休みの課題を全て終わらせている。
午前中の今、和男と清水さんは数学Bの課題をやっている。数Bの課題は1学期の総復習のプリントだ。
俺が担当する和男は、数学Bは結構苦手で、定期試験もみんなと一緒に勉強会をしたのもあり赤点を何とか回避できていた。それもあり、基本的な内容の問題で詰まり、質問をしてくる。和男の分からないところを俺と葉月さんで答えていく。
数学Bの課題は夏休み初日に氷織と一緒に終わらせたので、こうして和男に教えるのは復習するのにいい機会だ。また、
「だから、こういう答えになるッス」
「おぉ、なるほどな。葉月も教え方が上手いな! さすがは理系クラスだぜ!」
「どうもッス」
葉月さんの解説を聞くこともあり、それが勉強になって。和男の言う通り、さすがは理系クラスの生徒なだけあってかなり分かりやすい。
俺と葉月さんで教えているし、和男も一生懸命なので、和男の方は順調だ。
また、清水さんの方は、
「……で、こういう答えになるの」
「なるほどね、そういうことだったんだ。理解できたよ」
「良かったわ。あと、基本的な内容だから、美羽に教えられてほっとしてる」
「分かりやすかったよ、恭子ちゃん」
「そうでしたね、美羽さん」
「……えへへっ。氷織と美羽に褒められちゃった」
「……ですから、これが答えになるんです」
「そういうことなんだね。難しい問題なのにとても分かりやすかったよ」
「さすがは氷織よね!」
基本問題では氷織も火村さんも教え、応用問題では氷織が教えている。火村さんも数Bは苦手な方だからかな。1学期に火村さんは数Bが不安だと言っていたし。ただ、基本問題を清水さんに教えられるのだから、火村さんは1学期の頃よりも数Bの学力が身についているんじゃないだろうか。
3人の会話を聞く限りでは、清水さんの方も順調に進んでいるようだ。
これなら、今日中に数学Bも化学基礎も課題を終わらせられそうかな。
「ちょっと休憩しないか?」
午前10時半過ぎ。
葉月さんと一緒に和男に数学B教えていたら、気付けば2人が課題を始めてから1時間半ほど経っていた。これまで全然休憩をしなかったので、ここで一旦休憩をしないかと提案したのだ。
「賛成だ!」
「あたしも。ちょっと疲れた……」
課題に取り組んでいる和男と清水さんはもちろん、氷織達も賛成。なので、ちょっと休憩をすることにした。俺が淹れたアイスティーを飲み、和男と清水さんが買ってきてくれたお菓子をつまみながら。
「アキ達に教えてもらっているおかげで順調に進んでるぜ」
「そうだね。みんなに感謝だよ」
「そうだな。……アキが夏休みの課題を早いうちからちゃんとやるタイプなのは知っているけど、葉月達もそうなのか? みんな終わってるし」
「そうッスね。序盤から少しずつやって、日記とか毎日やらないといけない課題以外はだいたいお盆のあたりには終わるッス。あと、毎年、お盆のあたりにコアマっていう同人イベントがあるんで、それを楽しみに課題を頑張るッス」
葉月さんは序盤からやるタイプなんだ。
葉月さんは漫画やアニメ、ラノベ、同人誌といった二次元コンテンツが大好きなので、コアマを楽しみに課題を頑張るのは彼女らしいかも。
俺は夏休み初日から課題をやって、家族旅行が7月下旬から8月初旬頃に行くことが多いから、それがモチベーションになって課題をある程度終わらせていたな。お盆の頃までに終わることが多いので葉月さんに近いかな。今年もお盆の頃には全て終わった。
「私も初日から課題をやるタイプです。日記系の課題を除けば、8月の上旬までには終わらせていましたね。今年もそうでした」
夏休み前半、氷織は俺とデートやお泊まりをしたり、みんなと海水浴に行ったり、お泊まり女子会をしたりするなど、色々なイベントがあった。お家デートで俺と一緒に課題をしたこともあったし、火村さんと葉月さんとも課題をした日もあったのも知っている。それでも、去年までと変わらず8月上旬までに終わらせるのは凄いし、偉いと思う。
「あたしは去年までは夏休み後半にやるタイプだったわ。ただ、去年は夏休み中にバイトをいっぱいして。バイトをした日は疲れて課題をする気があまり起きなくて。そうしたら、気付けば終盤になってて。必死になって終わらせたの。大変な思いをしたから、今年は夏休みの序盤からバイトがない日にやったり、バイトがあった日も得意科目の課題を少しやったりしたわ。氷織と沙綾が一緒に課題をやろうって誘ってくれたときもあったから、そのときに苦手な科目の分からないところを訊けて。おかげで、今年はお盆明けに終わらせられたわ」
去年のことを思い出しているのか、火村さんは苦笑い。後半にやるタイプだった火村さんが、今年はお盆明けに終わらせるほどだから、去年の夏休みの終盤は相当大変だったことが窺える。
「そうだったんだ。3人とも序盤からコツコツやるタイプなんだね」
「3人とも偉いぜ」
「美羽と倉木はどうなの? 部活があるから少しずつやっていたってメッセージでは言っていたけど」
「火村と同じような感じだ。元々は後半にやるタイプでな。ただ、中学生になって部活を始めたら……夏休み中は部活がある日が多くてよ。中1の夏休みは終盤に必死こいて課題を終わらせたんだ。その経験があって、中2以降は序盤からちょっとずつやるように切り替えたんだ。だから、火村の話がよく分かる」
「あたしも同じような感じ。小学生のときは後半にやって、中学生からは序盤からコツコツやるようになったよ」
「そうだったのね。大変な思いをするとタイプが変わるわよね!」
火村さんは笑顔でそう言う。和男と清水さんは自分と同じような経験をしており、共感してくれたのが嬉しいのかもしれない。
「まあ、数Bと化学基礎は結構苦手だから分からない問題も多くてよ。だから、終盤に入ったこのタイミングでアキ達に助けを求めたんだ」
「去年も同じ時期に、数Aと物理基礎の課題を紙透君に助けてもらったよね」
「そうだったな。その2つも苦手だったからなぁ」
「2人に教えたなぁ」
去年の夏休みに、この部屋で和男と清水さんに数学Aと物理基礎の課題を助けたことを思い出す。あのときは教える役目が俺だけだったので、あまり休むことなく2人の分からないところを教えたっけ。
「去年もこの時期に2人の課題を助けたから、昨日連絡が来たときは『今年も来たか』って思ったよ」
「ははっ、そうか。今年もありがとな、アキ」
「ありがとう、紙透君」
「いえいえ」
「氷織ちゃんと恭子ちゃんと沙綾ちゃんもありがとう」
「3人もありがとな」
「いえいえ。教えるのもいい勉強ですから」
「復習するいい機会になっているわ」
「あたしは理系クラスッスし、役に立てて何よりッス」
氷織も火村さんも葉月さんも柔らかな笑顔でそう言う。3人ともとても優しいな。
「よしっ。紙透君達が助けてくれているんだし、今日中に数Bと化学基礎の課題を終わらせようね、和男君!」
「そうだな! 課題を終わらせて、明日からの部活を思いっきりやって、美羽との花火デートも思いっきり楽しみてえし!」
「そうだねっ!」
和男と清水さんはやる気に満ちた様子になる。
そういえば、去年もデートで花火大会に行くからって、苦手な数Aと物理基礎の課題を一生懸命になってやっていたっけ。課題が全部終わっていれば、デートも部活も心置きなく楽しめるもんな。
「そういえば、アキと青山もデートで花火大会に行くんだよな」
「ああ、そうだよ。海水浴デートの帰りに氷織が誘ってくれたんだ」
「デートの後はここでお泊まりする予定です」
「おおっ、いいッスね。あたしもヒム子や友達と一緒に花火大会に遊びに行くことになっているッス」
「みんなと会場で会えたら嬉しいわ! 特に浴衣姿の氷織とは!」
「ふふっ。会えたら嬉しいですね」
「浴衣姿のひおりんって言うところがヒム子らしいッスね」
「だって、七夕祭りのときの氷織の浴衣姿が最高に良かったんだものっ! また見たいわっ!」
葉月さんのツッコミと興奮する火村さんのやり取りで、俺達6人は笑いに包まれる。
花火大会には氷織とのデートとして行くけど、火村さんの言う通り、会場でみんなと会えたら嬉しいな。
ちなみに、花火大会へデートしに行くと決めてから、花火大会当日の天気を毎日チェックしている。今のところは、当日は晴れる予報になっている。晴れ予報が変わらず、当日も晴れてくれるといいな。
その後は、先日俺と氷織が行った海水浴デートのことで談笑しながら、休憩の時間を過ごすのであった。