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第7話『ガールズピンクトークナイト』

 恭子さんと美羽さんが買ってきてくれたお菓子を食べ終わった頃には、日付が変わって少し経った頃でした。

 今観ている『秋目知人帳』のエピソードもエンディングを迎えたことや、部活があった美羽さんと七海が眠そうにしていたこともあり、ここでアニメ鑑賞はお開きにして、そろそろ寝ようという話になりました。

 それからはみんなでローテーブルを動かしたり、ふとんを敷いたり、歯磨きをしたりと寝るための準備をします。こうしていると、学校の修学旅行や泊まりがけの校外学習のようで楽しいですね。


「ところで、七海はここで寝ますか?」


 寝るための準備が一通り終えたとき、私は七海にそんなことを問いかけます。これまで、私の友達がお泊まりに来たときは、七海も私の部屋で寝ることが多いですから。


「うん。ここで寝る。みなさんとここまで一緒に過ごしたから、寝るときまで一緒にいたいよ」

「一緒に楽しみましたもんね。分かりました」


 やはり、七海は私の部屋で寝たいですよね。


「では……ふとんを3組敷きましたから、誰か一人、私のベッドで私と一緒に寝てもらいましょうか。明斗さんとも一緒に寝られましたから、みなさんとなら誰でも大丈夫でしょう。一緒に寝たい人いますか?」

「はいっ! あたし、氷織と一緒に寝たいっ!」


 右手をピシッと挙げ、食い気味に立候補してくる恭子さん。そんな恭子さんは目を輝かせ、ワクワクとした様子で私のことを見てきます。


『ですよね~』


 と、沙綾さんと美羽さんと七海は声を揃えてそう言いました。それもあってか、3人は声に出して楽しそうに笑います。ちなみに、3人は手を挙げていません。


「誰か一人、私のベッドで……ってひおりんが言ったとき、ヒム子が立候補すると思ったッスよ」

「氷織ちゃんのことが大好きだもんね」

「あたしも、恭子さんはお姉ちゃんのベッドに寝たいって言うと思っていました!」


 3人とも、恭子さんのことをよく分かってらっしゃる。私も恭子さんが一緒に寝たいと言うと思っていました。


「立候補は今のところ恭子さんだけですね。3人は立候補しますか?」

「あたしはいいッス」

「あたしも。むしろ、お布団がいいな。普段はベッドだから、お布団の方がお泊まりって感じがするから」

「あたしもいいよ。あたしの場合、寝ようと思えばいつでもお姉ちゃんのベッドで一緒に寝られるからね」

「みんな……!」


 甲高い声を上げると、恭子さんはキラキラとした視線を七海達に向けます。


「では、立候補は恭子さんだけですから……恭子さん。今夜は私と一緒にベッドで寝ましょう」

「うんっ! よろしくね!」


 自分に決まったからか、恭子さんはとても嬉しそうに言ってくれます。私のことをぎゅっと抱きしめてきて。こんなにも嬉しそうにしてくれると私も嬉しくなりますね。

 私のベッドに私と恭子さん。ふとんには美羽さん、沙綾さん、七海の並びで眠ることになりました。

 4人それぞれが自分の寝る場所に入るのを確認して、私は部屋の電灯を消します。その代わりにベッドライトを点けて、私は恭子さんが待っている自分のベッドに入りました。


「このベッドはセミダブルですから、どこかしら体が触れてしまいますね」

「気にしないで。むしろ、氷織に触れる中で寝られるなんてご褒美だわっ」


 ニコニコしながらそう言い、私の肩や腕を触ってくる恭子さん。その言動が実に恭子さんらしくて「ふふっ」と笑い声が漏れてしまいました。

 体が触れていることで、恭子さんの優しい温もりが常に感じられて。恭子さんから甘い匂いも感じられるので、今夜はいつも以上にぐっすりと眠れそうです。


「ね、ねえ。氷織」

「何ですか?」


 恭子さんの頬がほのかに紅潮しています。もじもじしているようにも見えますし。何かあったのでしょうか?


「か、紙透もここに泊まったことがあるのよね」

「ええ。七夕祭りの日に」

「……その日の夜って、このベッドでセッ……に、肉体結合行為をしたのかしら?」

「……け、けけけ結合行為ですか?」

「気になっちゃって! 寝間着姿の氷織と一緒にベッドに入ったら気になっちゃって! 氷織は紙透とそういうことまでした関係なのは知っているけど……」

「そう……ですかぁ」


 質問の内容が内容なだけに、体がどんどん熱くなっていくのが分かります。きっと、顔も今の恭子さんのように頬中心に赤くなっているんでしょうね。

 明斗さんの誕生日の直後に、直接的な内容は言っていませんが、恭子さん達に明斗さんとえっちしたことは知られています。ふんわりとしか知らないからこそ、詳しい内容が気になってしまうのでしょう。

 ちなみに、七海には家で2人きりのときに「明斗さんと最後までしました」と話しています。

 あと……肉体結合行為ですか。なかなか言えないですよね……セ、セックス。私もその単語は恥ずかしくて全然言えないので、別の言葉で言っています。


「あたしも気になるッス! 親友の交際事情を知りたいのはもちろんッスけど、今後の小説制作の参考のためにもひおりんのえっちな体験談を聞きたいッス!」

「あたしもお姉ちゃんと紙透さんの話が聞きたいな! 2人は凄くラブラブだから! それに現場は見ていないし」


 気付けば、沙綾さんと七海がベッドの側まで来て、私のことをじっと見ています。

 寝る前に5人で何かお話するかもしれないと思っていましたが、まさか明斗さんと私のえっちが話題になるなんて。まあ、恋愛系はお泊まりや修学旅行の夜でのガールズトークの定番ですもんね。恋人のいる人がいたら、恋人との進展具合を聞きたがるのは自然なことなのかもしれません。女子しかいませんから、結構厭らしい内容になってしまうことも。


「3人ともあまり詳しく訊いちゃダメだよ。デリケートな内容だし。氷織ちゃんも答えるのが嫌なことは拒否していいからね」


 美羽さんが落ち着いた笑顔でそう言ってくれます。そのことにちょっと安心感を覚えます。

 もしかしたら……美羽さんも恋人の倉木さんと最後までしたことがあるのかもしれませんね。2人の口から、そういったことをしたと明言されたことはありませんが。美羽さんだからこそ、私の気持ちに寄り添ってくれる言葉が出たのでしょう。

 美羽さんの存在もあって、明斗さんとのえっち関連の話をしてもいいと思えるようになりました。七海は中学生ですが……まあ、妹ですからよしとしましょうか。


「えっと……さっきの恭子さんの質問ですが、明斗さんが泊まりに来た日の夜に、このベッドで肉体結合行為……肌を重ねました」


 あぁ……恥ずかしいです。友人と妹しかいないのに。体が凄く熱いです。

 明斗さんと肌を重ねたと言ったからか、沙綾さんと七海は「きゃあっ」と盛り上がります。


「……やっぱり。まあ、付き合っているんだものね」


 質問者の恭子さんは納得した様子でそう言います。


「ええ。あと、お泊まりのときだけでなく、試験後の半日期間中の日の放課後にしたこともあります。その日は明斗さんと2人きりだったので」

「制服えっちってやつッスか」

「……そ、そうです。制服えっちです。興味があって、私から誘いました」


 ですから、沙綾さんに「制服えっち」って言われると何だか恥ずかしくなりますね。


「ひおりん積極的ッスね」

「そうね、沙綾。紙透だけには肉食系なのかも」

「恋人だけには見せる一面って感じッスね。話を戻すッスけど、その……き、気持ちいいッスか?」


 肌を重ねているときのことを質問しているのもあってか、沙綾さんの顔がほんのりと赤くなっています。可愛いですね。そんな沙綾さんはスマホを持っていて。メモするつもりでしょうか。沙綾さんはえっちな要素も入っている恋愛小説を書きますからね。

 今の沙綾さんの質問にドキドキしてしまいます。体がより熱くなって。


「……き、気持ちいいですよ」


 言っちゃいました。気持ちいいって言っちゃいました。でも、明斗さんとのことですから、恥ずかしいのと同時に幸せな気持ちにもなれて。


「そうッスか。特に……どんなときが?」

「ぐ、グイグイ訊きますね。ええと……キスしているときや抱きしめ合っているときでしょうか。特に明斗さんからキスされるときがたまらないです。あとは自分で動くときにも凄く気持ちいいって思うことがありますね」


 他にも、とても気持ちいい瞬間はたくさんありますが、これ以上言ったら、みなさんが明斗さんをどう思うのかが心配なので言わないでおきましょう。肌を重ねるときのことを話している時点で手遅れかもしれませんが。明斗さん、ごめんなさい……。

 沙綾さんは結構な速度でスマホをタップしています。きっと、私が今言った内容をメモしているのでしょう。


「……あの。もうここまででいいですか? 少しですけど、肌を重ねたときのことを話したらかなりドキドキしてきたので……」

「もう十分よ、氷織。体の熱が凄いことになっているし。それに、紙透と……するのは氷織にとって幸せなことだって分かったから」

「そうッスね、ヒム子。それに、ひおりんの顔が結構赤いッスから」

「ここまでにした方がいいですね。お姉ちゃん、話してくれてありがとう」

「いえいえ。あと、今話したことは内密に」


 最後までしたということだけならまだしも、その中身を知られるのは恥ずかしいですから。

 明斗さんとのえっちについて話が終わって安心しました。素直に終わらせてくれたのはさっきの美羽さんの言葉のおかげもありそうです。ありがとうございます、美羽さん。


「では、みうみうにも訊いてみるッスか」

「倉木さんっていう恋人がいますもんね!」

「まあ、氷織と紙透ほどじゃないけど……美羽と倉木のことも気になるわね」

「えっ、あ、あたしも話すの!?」


 今日一番の大きな声でそう言う美羽さん。美羽さんは目を見開き、見る見るうちに顔が赤くなっていきます。

 美羽さんも倉木さんっていう恋人がいますからね。話題が話題なだけに、美羽さんに話が移るのは自然な流れでしょう。美羽さんは倉木さんと1年以上付き合っており、ラブラブですから。

 美羽さんと倉木さんの進展具合について、これまで聞いたことがありませんでしたね。これまでお二人が頬にキスする場面を見たことがあるくらいです。


「美羽さんも話せる範囲でいいですから」

「う、うん」

「……みうみうは倉木君とはしたことあるッスか?」


 スマホを手にしながらそう問いかける沙綾さん。何だか、沙綾さんがそっち方面のインタビュアーに見えてきました。

 美羽さんは「ほえっ」と可愛い声を漏らすと、視線をちらつかせて。


「あ、あるよ。何度も。初めてしたのは1年の夏休み前だった」

『おおっ』


 沙綾さんと恭子さんと七海の声が重なります。

 明斗さんと肌を重ねた経験があるので、美羽さんの話を聞くとドキドキしてきますね。あと、美羽さんと倉木さんは1年以上付き合っていますから、やはり最後まで経験済みでしたか。


「みうみうも経験済みッスか。倉木君とはどんな感じッスか?」

「えっ? そ、そうだね……」


 う~ん……と美羽さんは考えている様子。まあ、えっちな話ですから、言える内容や言葉選びを考えているのでしょう。


「ぜ、全力疾走することが多いかな。それが凄く気持ちいいんだよね、うん……」


 物凄く顔が赤いですが、美羽さんはとても幸せそうな笑みを浮かべながら言いました。倉木さんとの愛を育む行為がとても好きなのが窺えます。

 あと、全力疾走ですか。友人カップルですから深く意味を考えないことにしますが、倉木さんは陸上部で短距離走を専門にしていますから、マネージャーの美羽さんらしい言葉選びだと思いますね。


「全力疾走……と」


 と呟きながら、沙綾さんはスマホをタップ。沙綾さん……その言葉の意味を分かっているのでしょうか。

 私と美羽さんの話が沙綾さんの今後の創作に役に立つことを願いましょう。


「……氷織ちゃんの気持ちが分かるよ。ちょっとだけでも、彼氏とのそういう話をするとドキドキする……」

「ドキドキしますよね」

「うん。だから、あたしの話もちょっとだけどここまでね!」

「了解ッス。話してくれてありがとうッス」

「倉木さんにも何度も会ったことがありますから、キュンキュンしちゃいました!」

「一緒にいるクラスメイトだから生々しさも感じたけどね」


 沙綾さんも恭子さんも七海も、美羽さんほどではないですが顔が赤くなっていました。ベッドにいますから、恭子さんからは強い熱が伝わってきて。きっとかなりドキドキしているのでしょう。可愛いです。


「お姉ちゃんも美羽さんも凄く大人の女性に見えてきました」

「そうッスね。あたしは経験ないッスから」

「あたしも。恋人ができた経験すらないし。それにしても、こんなに可愛くて美人で、性格良くて、スタイル抜群で、エロい一面もある氷織と付き合っている紙透が羨ましすぎるわ! あたし、氷織を狙っていたから。でも、氷織と友達になれてこうしてお泊まりできるし、お風呂に入れてベッドで一緒に寝られるから、あたしは女子で本当に良かったわ!」


 狙っていたから……の部分まではちょっと不機嫌そうに、それ以降は嬉しそうな様子で恭子さんは言いました。そんな恭子さんに私達4人はみんなで笑って。私達の笑い声につられてか、恭子さん自身も笑うようになって。そのことで、それまで部屋を包んでいたドキドキとした雰囲気が、一気に和やかなものに変わりました。


「ふああっ……」


 笑い疲れてしまったのでしょうか。七海は可愛いあくびをします。


「ななみん、眠たそうッスね」

「……はい。今日も部活があったので……」

「あたしも外で陸上部の活動があったから眠くなってきたな。それに、ふとんがふかふかで気持ちいいし……」

「このふとんいいッスよね。じゃあ、そろそろ寝るッスか」

「それがいいわね。氷織はどう?」

「私もかまいませんよ。では、ベッドライトを消しますね。みなさん、おやすみなさい」

『おやすみ~』


 私はベッドライトを消して、仰向けの状態になります。

 ライトを消した直後はとても暗く感じましたが、カーテン越しに月明かりが入っているので、段々と部屋の中の様子が見えるように。そうなるときには、ふとんを敷いた方から可愛らしい寝息が聞こえてきて。


「ねえ、氷織」

「はい」

「……氷織の腕を抱きながら寝てもいい? そうしたら、より気持ち良く眠れそうだから」

「いいですよ」

「ありがとうっ」


 恭子さんは可愛らしい笑顔でお礼を言い、私の左腕を優しく抱きしめてきました。そのことで、左腕は恭子さんの優しい温もりと柔らかさに包まれていきます。恭子さんの甘い匂いがより濃く感じられて。恭子さんのおかげで私もよく眠れそうです。


「こんなに幸せな気持ちで眠れそうなのは初めてだわ。おやすみ、氷織」

「おやすみなさい、恭子さん」


 おやすみの言葉を交わすと、恭子さんは笑顔のまま目を瞑ります。とても可愛い寝顔です。

 恭子さんと美羽さんとは初めてのお泊まりでしたが、とても楽しいお泊まり女子会になりました。夜のガールズトークでえっちについて話すことになるとは思いませんでしたが。それを含めて、今年の夏休みのいい思い出ができました。

 また、このメンバーでお泊まり女子会をしたいですね。そんなことを思いながら目を瞑り、すぐに眠りに落ちてゆくのでした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] > 「……その日の夜って、このベッドでセッ…… >  に、肉体結合行為をしたのかしら?」 > 「……け、けけけ結合行為ですか?」 爆笑しました。メシ食ってる時でなくてよかった…… け、で…
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