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第5話『氷織と恭子と七海でお風呂-後編-』

「これで全部洗い終わったわ」


 体と顔を洗い終えた恭子さんは、私達に向かってそう言いました。そんな恭子さんはスッキリとした様子です。


「じゃあ、次はあたしが氷織と七海ちゃんの髪と背中を洗う番ね! さあ、どっちから洗おうかしら!」


 目を輝かせ、ワクワクとした様子でそう言う恭子さん。心なしか、私達に洗ってもらうときよりも楽しそうに見えますね。


「どうしましょうか、七海」

「お姉ちゃんから洗ってもらえばいいんじゃない? 恭子さんはお姉ちゃんのことが大好きだし」

「ふふっ、そうですね。では、私の髪から洗ってもらいましょうか」

「分かったわ!」

「それで、私の髪を洗い終わったら七海の髪。その後に私達の背中を洗う流れにしましょうか。私と七海のボディータオルは色違いですし、一緒に入るときは同じボディータオルで一度に洗いますから」

「了解だわ。青山姉妹の髪と背中を、心を込めて丁寧に洗うわっ!」


 ニヤリとしながら、恭子さんは「うふふっ……」と笑います。

 まずは私の髪を洗ってもらうので、バスチェアに腰を下ろします。ついさっきまで恭子さんが座っていたのもあり、恭子さんの残り香が感じられて。こういうところからも、恭子さんが泊まりに来ているのだと実感できます。


「恭子さん、よろしくお願いします。その桃色のボトルがリンスインシャンプーです」

「桃色のボトルね。分かったわ。じゃあ、シャワーで髪を濡らすから目を瞑って」

「はいっ」


 恭子さんの言う通り、目をしっかりと瞑ります。その直後にシャワーの温かいお湯が髪にかかって。夏でもこの温もりが心地いいです。

 髪を濡らした直後、恭子さんに髪を洗ってもらい始めます。慣れ親しんでいるシャンプーの甘い匂いがして。恭子さん、間違えなかったですね。

 恭子さんの手つき……優しくて気持ちがいいです。目を開けて鏡越しに恭子さんを見ると、恭子さんは柔らかな笑顔で。そんな恭子さんが大人っぽく見えて。

 恭子さんと目が合うと、恭子さんはニコッと笑います。


「氷織。髪の洗い方……どうかしら? 痛くない?」

「大丈夫ですよ。むしろ、優しい手つきで気持ちがいいです」

「良かった。氷織の髪、とても綺麗で艶やかだから丁寧に洗おうと思って」

「その優しさが手つきに表れているのかもしれませんね」

「ふふっ」


 恭子さんが笑うと、恭子さんの手つきがさらに優しくなった気がします。

 かなり気持ちがいいので、ちょっと眠くなってきました。寝てしまわないように気をつけないと。


「恭子さん、とても上手ですね。これまで誰かの髪を洗っていたのですか?」

「小さい頃、お母さんと一緒に入っているときは、お母さんの髪を洗うことが何度もあったわね。あと、友達とお泊まりのときは、今みたいに髪を洗うこともあったわ」

「なるほどです」


 経験を積み重ねたから、この気持ちのいい洗い方になったのでしょうね。きっと、恭子さんのお母様やご友人の方も、この気持ち良さを味わったことでしょう。


「さあ、氷織。泡を洗い流すから、しっかりと目を瞑ってね」

「はいっ」


 目をしっかりと瞑ると、程なくしてシャワーのお湯が頭にかかり始めます。

 シャワーのお湯の温かさや、泡を落とす恭子さんの手つきがまた気持ち良くて。目を瞑っているのもあり、さっき以上に眠くなりました。

 泡を洗い終えると、恭子さんはフェイスタオルで私の髪を拭いてくれます。何から何までやってもらって有り難い限りです。


「はいっ、これで終わりね。氷織の髪は長かったからやりがいが凄くあったわ」

「ありがとうございます、恭子さん」


 後ろに振り返って、恭子さんの頭を軽くポンポンと叩きます。すると、恭子さんはとても嬉しそうな表情で「いえいえ」と言いました。可愛いですね。

 恭子さんが洗ってくれた髪を纏めて、愛用しているヘアグリップで留めました。


「その纏めた髪型もいいわね!」

「ありがとうございます。では、次は七海ですね」

「うんっ。お願いします、恭子さん!」

「ええ、任せなさい!」


 私の髪を洗った後ですが、恭子さんはやる気十分のようです。

 七海は私と入れ替わる形でバスチェアに座ります。私が気持ちいいと言ったからか、七海はとても楽しそうです。

 私は壁の近くに立って、恭子さんが七海の髪を洗うのを見守ります。

 七海が誰かに髪を洗ってもらう光景を見るのは去年、沙綾さんが七海の髪を洗うとき以来ですね。今ではすっかりと珍しくなりました。小さい頃はお母さんと3人でお風呂に入るのが習慣で、お母さんが七海の髪を洗うことも結構あったのですが。ただ、大きくなるにつれて、旅行以外では一緒に入ることがほとんどなくなって。


「七海ちゃん。髪の洗い方はどうかしら?」

「凄く気持ちいいですよ。お姉ちゃんが気持ち良さそうにしていたのも納得です」

「ふふっ、ありがとう。七海ちゃんの髪も氷織みたいに綺麗ね」

「ありがとうございますっ」


 鏡越しに七海と恭子さんの楽しそうな笑顔が見えます。七海の姉として嬉しい気持ちになります。この光景を胸に刻んでおきましょう。

 その後も七海はたまに「気持ちいい~」と言いながら、恭子さんに髪を洗ってもらっていました。また、七海の髪を洗う恭子さんの笑顔は優しいものでした。


「……はい、七海ちゃん。髪拭き終わり」

「ありがとうございます、恭子さん!」


 七海はとても可愛い笑顔で恭子さんにお礼を言いました。ちゃんとお礼が言えて偉いです。そんな七海に恭子さんは、


「めっちゃ可愛い……妹にほしい……」


 とデレデレな様子。ヘアゴムで髪を纏める七海のことも「可愛い」と言っていて。可愛がってくれるのは嬉しいですが、妹は渡しませんよ。可愛くて大切な妹ですから。


「七海の髪も洗い終わりましたから、次は私達の背中ですね」

「ええ、任せなさい!」

「じゃあ、私のボディータオルを使って洗いましょう」


 ラックから自分の水色のボディータオルを取り、七海の横に膝立ちで座ります。こうして七海と隣り合って座れば、恭子さんも私達の背中を洗いやすいでしょう。

 洗面器でボディータオルを濡らしていると、


「……この光景、何だかエロいわ」


 背後から恭子さんのそんな呟きが聞こえました。鏡越しで恭子さんのことを見ると、恭子さんは恍惚とした様子で私達のことを見つめていて。


「あははっ、何ですかエロいって」

「いやぁ、青山姉妹の白くて綺麗な背中が並んでいるから。2人とも背中全体が露わになっているし。ゴムやクリップで髪を纏めて普段と違った髪型だから、結構そそられちゃうのよ。特に氷織は」

「そうなんですね。そそられちゃっても、あたし達に変なことしないでくださいよ」

「……こ、心がけるわ」


 うんうん、と何度も頷く恭子さん。信じていますよ。

 それにしても、ヘアクリップを使って普段とは違う髪型になり、背中が全て露わになっているからそそられてエロいですか。これまで、明斗さんが私の背中を流してくれたときにも、恭子さんと同じような思いを抱いていたのでしょうか。


「恭子さん、お願いします」

「ええ!」


 ピーチの甘い匂いがするボディーソープを泡立てた状態で、ボディータオルを恭子さんに渡しました。


「じゃあ、始めるわね」


 恭子さんはそう言うと、程なくして私の背中から洗ってくれます。髪を洗った順番と同じ順番で洗おうと考えたのでしょうか。

 髪を洗ったときと同じで、背中を流す恭子さんの手つきは優しいです。気持ちいいです。あと、同じボディータオルを使っているのもあって、明斗さんに背中を流してもらったときのことを思い出しますね。


「氷織、どうかしら」

「優しくて気持ちいいですよ。この洗い方でお願いします」

「分かったわ。傷一つない綺麗な背中だから丁寧に洗おうと思って」

「そうだったんですね。恭子さんらしいです」


 恭子さんの気遣いが分かったのもあって、より気持ち良く感じられるように。

 恭子さんは背中を流すのも上手です。きっと、髪と同じように、お母様やご友人の背中を流したことで身に付けた技術なのでしょう。


「気持ちいいんだ、お姉ちゃん。洗ってもらうのが楽しみになってきました」

「もうすぐ洗うから待っててね」

「はーい」


 優しい声色に乗せられた恭子さんの言葉に、七海は元気よく返事します。

 その後も、恭子さんに背中と腰を洗ってもらいました。


「よし、このくらいでいいかな。じゃあ、次は七海ちゃんね」

「お願いしますっ!」


 恭子さんは七海の真後ろまで動き、七海の背中を流し始めます。その瞬間に七海は「あぁ……」とまったりとした表情で声を漏らします。きっと気持ちいいのでしょうね。


「気持ちいい……」

「ふふっ、良かった。氷織のときと同じ洗い方よ」

「そうなんですか。恭子さん、本当に上手ですね!」

「上手ですよね」

「ふふっ、青山姉妹に褒められて嬉しいわ。この洗い方で洗っていくわね」

「はーいっ」


 元気良く返事する七海に、恭子さんはニコッと笑いました。

 それからも、恭子さんはボディータオルで七海の背中と腰を洗っていきます。髪を洗っているときと同じで、恭子さんの笑顔は優しいもので。恭子さんには妹がいませんが、もし妹がいたら今のように優しく洗ってあげていそうな気がします。


「はいっ、七海ちゃんも背中と腰を洗い終わったわ」

「ありがとうございます、恭子さん!」

「……もしよければ、前の方も洗うけど? ボディータオルじゃなくて素手でもいいわよ。両手にはボディーソープの泡がたっぷりついているし。や、優しくするから……」


 恭子さんはニヤリとして、うふふっ……と、厭らしさも感じられる声で笑います。空いている左手の指をワキワキと動かしていて。そんな恭子さんにほんの少し恐怖心を抱きました。


「きょ、恭子さん。お気持ちだけ受け取っておきます。背中と腰を洗ってもらえて十分です」

「あたしも十分です! 残りの部分は自分で洗いますね」

「……分かったわ」


 ちょっとがっかりした様子でそう言う恭子さん。私達の体の前面を洗いたかったんでしょうね。


「七海と私の髪と背中を洗ってくれてありがとうございます。一足先に恭子さんは湯船にゆっくり入っていてください。一番風呂ですよ」

「……それもいいわね。この広い湯船に一人で入ったらどんな感じなのか興味があるし」

「そうでしたか。あと、ボディータオルは七海に渡してあげてください。七海、先に洗っていいですよ」

「分かったよ、お姉ちゃん」


 その後、恭子さんは七海にボディータオルを渡し、両手に付いたボディーソープの泡を洗い流して、湯船に入ります。湯船に浸かる際、「あぁ……」という恭子さんの可愛らしい声が浴室内に響き渡りました。


「お湯が温かくて気持ちいいわ。あと、脚を目一杯に伸ばしても大丈夫だなんて。うちのお風呂だと、伸ばしきる前に足の裏が当たっちゃうから」

「そうなんですね」

「だから、うちよりの伸び伸びできるわ。バイトの疲れが取れていく……」

「良かったです」


 涼しいお店の中ですが、バイト中はずっと立って接客しています。ですから脚を伸ばしてお風呂に浸かれることがとても気持ちいいのでしょう。


「湯船に浸かりながら見る青山姉妹もいいわね……」


 えへへっ、と楽しそうに笑いながら私達を見る恭子さん。どうやら、身体的だけでなく精神的にもリラックスできているようです。

 七海が体を洗い終わり、ボディータオルを渡してくれました。恭子さんと七海が持った後だからか、ボディータオルからは結構な温もりを感じて。普段とは違う部分を楽しみながら、体を洗っていくことに。

 七海は体についた泡をシャワーで流し終え、恭子さんのいる湯船に浸かります。鏡越しで2人のことを見ると、2人はまったりしながら湯船に浸かっていて。そんな2人を見ていると私も早くそちらに行きたくなりますね。

 残りの部分を洗って、普段よりも少し強めにしたシャワーのお湯で泡を洗い流しました。

 洗ったボディータオルをタオル掛けに掛けて、私は湯船に行きます。


「氷織、ここにどうぞ」


 私が入るために、恭子さんの隣にスペースを作ってくれました。

 ありがとうございます、と言い、私は湯船の中に入って2人が作ってくれたスペースに腰を下ろします。恭子さんと七海も一緒なので、普段と違ってただ腰を下ろすだけでも肩までお湯に浸かる形に。


「あぁ、気持ちいい……」


 お湯の温もりで、今日の疲れがすーっと抜けていくのが分かります。まったりとした気分になれますね。


「青山姉妹と一緒にお風呂に入れて幸せだわ! 氷織とこういう関係になれるって、氷織に一目惚れした直後の自分に伝えたいわ……」

「ふふっ。そう言ってもらえて良かったです」

「良かったですね、恭子さん!」

「ええ! どんなお風呂や温泉よりも気持ちいいわっ!」


 恭子さんは満面の笑顔でそう言ってくれました。うちのお風呂はもちろん、私や七海と一緒に入浴するのを気に入ってくれてとても嬉しいです。


「嬉しいですっ、恭子さん」


 七海は持ち前の明るい笑顔でそう言うと、恭子さんのことを横から抱きしめます。そのことに恭子さんは「ふふっ」と笑い声を漏らします。

 今の七海を見ていたら、私も恭子さんを抱きしめたくなってきました。ですから、私も横から恭子さんのことを抱きしめます。そんな私の行為が予想外だったのか、恭子さんは体をピクリと震わせました。


「ひ、氷織っ?」

「私も嬉しかったので。それに、七海を見ていたら私も恭子さんを抱きしめたくなって」

「そ、そうだったのねっ。お湯の温もりも気持ちいいけど、青山姉妹の温もりと柔らかさも本当に気持ちいいわ。特に氷織のFカップおっぱい!」


 そう言うと、恭子さんの笑顔は見る見るうちに赤くなっていき、


「ああもう最高だわっ!!」


 叫ぶようにして、恭子さんはそう言いました。あまりにも大きな声だったので、ちょっと耳が痛くなるほどで。ただ、その痛みが嫌だとは思わなくて。

 それからは、私達は明斗さんのことや3人とも好きなアニメのことなどを中心に話しながら、お風呂での時間を楽しんだのでした。

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