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第11話『バイト先にやってきた。』

 4月29日、木曜日。

 今日は祝日で学校がお休み。なので、俺は午前10時からゾソールでバイトしている。

 また、バイト中に氷織が来店してくれることになっている。昨日の夜に氷織からメッセージがあり、午後2時前後に来る予定らしい。それを励みにバイトに勤しんでいる。

 今日からゴールデンウィーク本番。それもあってか、お客様がそれなりに来ている。お昼に近づくにつれてお客様の数も増えてきて。ほぼ絶え間なく接客しているけど全然疲れない。

 今日は晴れて暖かいからか、タピオカドリンクもよく注文される。注文されたときには昨日、氷織と一緒にタピオカドリンクを飲んだり、一口交換したりしたことを思い出した。交換した後の氷織は凄く可愛かったな。そのこともバイトの活力に繋がっていった。


「一昨日よりもいい笑顔で接客しているね、紙透君」


 お昼休憩に入り、まかないを食べ始めたとき、筑紫先輩からそんなことを言われた。


「そうですか?」

「ああ。隣から見てそう思ったよ。そんな君をうっとりとした様子で見ているお客様が何人もいたよ」

「そうだったんですか。全然気づかなかったです」

「ははっ、そっか。何かいいことがあったのかな? それとも、これからあったりして。付き合い始めた彼女さん絡みで」

「実は2時過ぎに彼女がここに来てくれることになっているんです。それで、バイトが終わったら俺の家に来る予定で」

「なるほどね。それが楽しみで、一昨日以上の笑顔で接客していたと」

「おそらくそうだと思います」


 氷織と会うのが本当に楽しみだ。家族も楽しみにしているし。姉貴は以前、氷織の写真を見せたときに「会ってみたい」と言っていたほどだからな。あと、「彼女がここに来てくれる」って言えるのが凄く嬉しい。


「今日は祝日でお客様も多いですけど、疲れも全然ないです」

「本当に彼女の存在が大きいんだね。紙透君の話を聞くと、彼女がどんな感じの人か楽しみになってきたな」


 爽やかな笑みを浮かべてそう言うと、筑紫先輩はチーズサンドを頬張る。先輩は今日、11時から夕方の5時までシフトが入っている。だから、バイト中に氷織と会うことになるのか。

 氷織の写真はスマホに何枚かある。ただ、氷織と実際に会ったら、筑紫先輩がどんな反応をするのか気になるな。見せないでおこう。



 お昼休憩が終わり、俺は筑紫先輩と一緒にカウンター業務に戻る。

 お昼過ぎに差し掛かっているからか、休憩前と比べてお客様の数が落ち着いてきているな。店内もゆったりとした雰囲気になっている。


「落ち着いてきたね、紙透君」

「そうですね。もし、今日が平日だったら、この時間帯はお客様が少ないんでしょうかね。俺が平日の昼間にバイトするときは、夏休みとか長期休暇の間ですから」

「そういう時期の平日だと、今みたいに店内にそれなりにお客様がいるよね。学校がある時期の平日だと……今の時間帯は静かな日が多いね。お客様もあまり来ないし、結構な席の数が空席になるときもあるよ」

「そうなんですね」


 楽そうではあるけど、時間の進みは遅そうだ。大学生になったら、そういう時間帯にもバイトをすることになるかな。

 それからも接客しつつ、お客さんがカウンターの前にいないときは筑紫先輩と少し雑談をしていく。

 そして、午後2時過ぎ。


「いらっしゃいませ」

「こんにちは。約束通り、バイト中の明斗さんの様子を見に来ました」

「ありがとう、氷織」


 約束通り、氷織が来店してくれた。淡い水色の七分袖のワンピースがよく似合っている。涼しげで氷織の清楚な感じがよく出ている。ウエストリボンのおかげで、氷織のスタイルの良さが分かって。明るい茶色のミニショルダーバッグも可愛らしい。


「そのワンピース、よく似合っているね。可愛いよ」


 俺がそう言うと、氷織の口角がちょっと上がる。


「ありがとうございます。明斗さんもここの店員さんの制服が似合っていますよ」

「ありがとう」


 恋人に似合っているって言われると嬉しくなるなぁ。

 そういえば、私服姿の氷織と会うのはこれが初めてか。私服姿になっても、氷織の美少女さは不変。それを裏付けるかのように、高校にいるときと同じく、店内にいる多くの人が氷織に視線を向けている。お店の外から氷織を見ている人もいるぞ。

 そして、氷織を見ている人が俺達の近くに一人。


「もしかして、こちらの女性が紙透君と付き合っている子かな?」


 いつもの通り爽やかな笑みを浮かべ、筑紫先輩は俺に問いかけてきた。


「はい。彼女がクラスメイトで、お試しで付き合っている青山氷織です。それで、氷織。こちらの男性は筑紫大和さん。俺のバイトの先輩で、仕事を教えてくれた方だよ」

「そうなのですか。初めまして、青山氷織と申します。明斗さんがいつもお世話になっております」

「いえいえ。初めまして、筑紫大和です。東都科学大学の2年です。よろしくね」

「こちらこそよろしくお願いします」


 氷織と筑紫先輩は互いに頭を下げる。


「紙透君から聞いたよ。ネットで公開している有栖川高校文芸部シリーズの作者だって。大学の友達に勧められて読んだときのことを思い出したよ。面白かった。新しい章を楽しみにしているね」

「嬉しいです。ありがとうございます」


 お礼を言うと、氷織はさっきよりも深めに頭を下げている。

 筑紫先輩は落ち着いた笑みを見せながら、氷織のことをじっと見ている。まさか、変な気を起こしてはいないだろうな。


「お試しでも、こんなに素敵な子が恋人になったら、紙透君もいい笑顔になってバイトをするようになるわけだ。今日も青山さんが来るからって、頑張ってバイトをしているよ。もちろん、今までもよくやっているけどね」

「そうなのですか。それを聞いて嬉しい気持ちになりますね」

「……それだけ、お試しでも氷織と付き合えることが嬉しいからさ」

「そうですか」


 正面からはいつものクールな様子で氷織に見つめられ、すぐ横からは優しい笑顔で筑紫先輩に見られる。これは何のプレイだろうか。ちょっと恥ずかしくなってきたぞ。


「きょ、今日は来てくれてありがとう。接客されたいって昨日言っていたよね」

「そうですね」


 よし。ここはゾソールの店員としてちゃんと接客しないと。ワンピース姿の可愛い氷織を見るとにやけちゃいそうだけど。


「いらっしゃいませ。店内でお召し上がりですか?」

「はい」

「店内ですね。ご注文をお伺いします」

「アイスコーヒーのSサイズをお願いします」

「アイスコーヒーのSサイズですね。シロップとミルクをお付けしますか?」

「シロップを一つお願いします」

「シロップをお一つですね。以上でよろしいでしょうか」

「はい」

「アイスコーヒーのSサイズお一つで、220円になります」


 代金を伝えると、氷織はトレーに300円置く。


「300円お預かりします。……80円のおつりになります。少々お待ちください」


 氷織が注文したアイスコーヒーのSサイズを用意する。そんな俺の横から「ちゃんと接客できたね」と筑紫先輩からお褒めの言葉が。ありがとうございます。

 トレーにアイスコーヒーのSサイズ、ストロー、シロップ一つを置く。


「お待たせいたしました。アイスコーヒーのSサイズになります」 

「ありがとうございます」


 俺がトレーを渡すと、氷織は軽く頭を下げた。


「素晴らしい接客です。落ち着いていて、この仕事に慣れているのが伝わってきます。筑紫さんが頑張っていると言ったのも納得ですね」

「氷織がそう言ってくれて嬉しいよ。氷織を一目惚れしてから、接客してみたいって思っていたし」

「そうですか。では、アイスコーヒー飲みながら、明斗さんがバイトを終わるのを待ちますね」

「分かった。ゆっくり過ごしてね」

「はい。明斗さん、残りのお仕事を頑張ってください」

「ああ、頑張るよ。ありがとう」


 氷織は小さく手を振って、窓側にあるカウンター席へと向かっていく。カウンターに一番近い席が空いており、氷織はそこに腰を下ろした。そのことで、店内の雰囲気が一気に華やかになった気がする。


「とても美人な子だね。今も何人ものお客様が青山さんを見てる」

「学校でも、今みたいに視線を集めていることが多いです。凄く人気のある人とお試しで付き合っているんだなって思いますね」

「今の光景を見ていると、その話にも納得だ。青山さんと正式に付き合えるように頑張ってね」

「ありがとうございます」

「もちろん、店員としての仕事もね」


 筑紫先輩は俺の右肩をポンポンと軽く叩いた。俺が先輩に頷くと、先輩はいつもの爽やかな笑顔を見せた。

 氷織の方を見ると、氷織はシロップをアイスコーヒーに入れ、ストローでかき混ぜていた。一口飲むと俺の方に顔を向ける。俺と目が合うと、氷織は小さく手を振ってきた。カウンターにお客様がいなかったので、俺も小さく手を振った。そのことで幸せな気分に。

 氷織はバッグから青いブックカバーに掛けられた本を取り出す。もしかして、昨日の放課後デートのときに買った短編集かな。そんなことを考えていると、氷織はその本を読み始める。斜め後ろからだけど、本を読んでいる氷織は絵になるほどの美しさだ。

 それからはバイトが終わるまで、氷織に癒やしと元気をもらいながら仕事をするのであった。

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