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第6話『願いごと』

 午後7時55分。

 お祭りデートを楽しんだ氷織と俺は、和男達との待ち合わせ場所である短冊コーナーへ向かう。そこには既に4人が待っており、俺達に気付いた4人が元気良く手を振ってきた。


「ひおりん、紙透君、お祭りデートは楽しめたッスか?」


 俺達が到着した瞬間、葉月さんは興味津々な様子で問いかけてくる。


「はい! とても楽しかったですっ!」

「楽しかったよ。いい思い出がたくさんできた。葉月さん、火村さん、別行動を提案してくれてありがとう」

「ありがとうございますっ」

「いえいえ! 嬉しいッス!」

「みんな楽しめたようで良かったわ。あたしも沙綾と2人で楽しく過ごせたわ」


 葉月さんと火村さんはそう言って、氷織と俺に柔らかい笑顔を見せてくれる。本当にいい友人を持ったなぁと思う。2人も楽しい時間だったようで嬉しい。


「アキと青山も楽しいデートだったみたいで良かったぜ! 俺達も楽しかったぜ!」

「楽しかったよねっ!」


 和男と清水さんは明るい笑顔でそう言うと、お互いの顔を見ながら笑い合う。今の2人を見ると、別行動中の時間が本当に楽しかったのだと分かる。


「和男と清水さんも楽しめたみたいで良かったよ」

「そうですね」

「おう! ……ところで、アキ。さっきから気になっているんだが、アキはどうして東友の手提げを持っているんだ?」

「ああ、これか。射的の屋台でキュアックマのぬいぐるみをゲットしたんだよ」

「私が明斗さんにお願いしたんです。明斗さん凄いんですよ! 射的はコルク3発で100円なのですが、その3発目でゲットできましたから。本当にかっこよくて……」


 射的のときのことを思い出しているのだろうか。氷織はうっとりとした様子で話す。あのときの俺がかっこいいと思ってもらえて嬉しいよ。

 氷織の話を受けて、和男達4人は「おおっ」と声を漏らす。


「そうだったのか! 凄いな、アキ!」

「良かったね、氷織ちゃん!」

「紙透君はクレーンゲームだけじゃなくて、射的も得意なんッスか。さすがは紙透君ッス」

「そうね。そのときのことを嬉しそうに話している氷織を見ると、氷織は幸せ者だって思うわ。……ちなみに、紙透。ゲットしたキュアックマのぬいぐるみを抱いている氷織の写真とかってないかしら? キュアックマは可愛いし、一緒に写っていたら最高に可愛いと思うんだけど!」


 ちょっと興奮気味にそう言ってくる火村さん。


「持っているけど……見せてもいいかな、氷織」

「かまいませんよ」

「うん。じゃあ、グループトークに送るよ」


 ポケットからスマホを取り出して、この6人のグループトークにキュアックマのぬいぐるみを抱く氷織の写真を送信した。


「きゃあっ! 氷織もキュアックマも可愛い! 可愛さが限界突破しているわ!」


 自分のスマホで写真を見た途端、火村さん大興奮。ここまでの反応をされるとは思わなかった。保存保存、と火村さんはニヤニヤしながら呟いていた。その写真を使って変なことをしないかちょっと不安だ。

 和男達3人もキュアックマを抱く氷織を可愛いと絶賛する。そのことに氷織はちょっと照れくさそうにしていた。


「じゃあ、短冊コーナーの列に並びましょう!」


 キュアックマ氷織の写真のおかげか、火村さんはテンション高めにそう言った。

 俺達は短冊コーナーの待機列の最後尾に並ぶ。2列に並ぶことになっているため、俺は氷織と隣同士で並んだ。ちなみに、俺達の前には和男と清水さん、後ろには火村さんと葉月さんが並んでいる。


「結構な多くの人が並んでいるんだな。今までもこんな感じだったのか?」

「そうですね。年によってはもっと長い列になることもありますね」

「そうなんだ」


 さすがは七夕と冠するお祭りだけのことはある。それに、短冊が飾られている笹を見たら、自分も願いごとを書きたくなるか。こういう機会は1年のうちに七夕くらいだし。


「ただ、並ぶ時間があって良かった。短冊に何を書くか考えられるから。6人のときも、氷織と2人きりのときも楽しくて、考えるのをすっかり忘れていたし」

「ふふっ、そうですか」

「氷織は何を書くか決まったか?」

「ええ。毎年書いていますし、みんなと行くって決まってからすぐに決めました」

「そうか」


 氷織の願いがどういうものなのか。

 隣にいる氷織や、前後に並んでいる和男達の姿を見ると……温かい気持ちがたくさん生まれていく。そのおかげで、願いごとに何を書こうかすぐに決まった。


「こうやってみんなで並ぶと、ゴールデンウィークに東都ドームタウンへ行ったことを思い出すなぁ」

「そうですね。ゴールデンウィークですから、もう2ヶ月も前になるんですね」

「そんな前になるのか。あっという間に日々が過ぎていくけど、思い返すと結構前に感じるな」

「そうですね。当時はまだお試しで付き合っていた時期だったというのも大きそうです」

「それは言えてるな」


 ドームタウンに遊びに行った10日後くらいに、俺と氷織は正式に付き合い始めるようになった。そのことで、精神的な面ではもちろんのこと、よくキスするようになったり、俺の誕生日の夜には体を重ねたりと身体的な面でも氷織との距離がかなり縮まった。そういった大きな変化があったから、ドームタウンの頃のことが結構前のことのように感じられるのだろう。

 俺達が「ドームタウン」という単語を出したのもあって、それからは6人全員でドームタウンでのことを中心に話していった。

 会話が弾んだのもあり、俺達の順番になるまではあっという間に感じた。

 短冊コーナーでは複数の長机で短冊に願いごとを書けるようだ。俺は氷織の隣で書くことに。


『この先も、大好きな恋人や友人達と一緒に楽しく過ごせますように。 紙透明斗』


 という願いごとを水色の短冊に書いた。この七夕祭りもそうだけど、氷織と2人きりで過ごすことも、和男達と一緒に過ごすことも楽しいから。この先もこういった時間を過ごしていきたいという願いを込めた。


「明斗さん、書き終わりましたか?」


 隣から氷織がそう問いかけてくる。氷織は青い短冊を持っていた。


「ああ、書き終わったよ」

「そうですか。笹に飾ったら、お互いに何を書いたのか見ましょうか」

「それいいな。風情も感じられて」


 俺がそう言うと、氷織はニコッと笑って小さく頷いた。

 氷織の願いがもうすぐ分かるのか。どんな願いか楽しみだな。

 その後すぐに、和男達も短冊に願いを書き終わった。みんなも笹に飾ったら自分の書いた願いごとを見てもいいという。

 俺達は6人固まって笹に短冊を飾り、みんなが書いた願いごとを見ていく。


『大好きな恋人や友人達と一緒に素敵な日々を送れますように。 青山氷織』


『楽しい夏休みを過ごしたい! 可愛い氷織を愛でたい! 火村恭子』


『面白い物語と出会いたいッス! そして書きたいッス! 葉月沙綾』


『大会で勝ち進む! 倉木和男』


『大会を頑張る和男君を支える! 清水美羽』


 それぞれ……らしさを感じる願いごとだなぁ。個人的には、氷織の願いごとが俺の願いごととかなり似ているのが嬉しい。


「明斗さんの願いごとは、私の願いごとと重なりますね。楽しく過ごせたら、それは素敵な時間を過ごせているということですし」

「確かに。言葉は違うけど、願う内容は同じだって考えて良さそうだ」

「ですねっ! 嬉しいです」

「俺も嬉しいよ」


 俺がそう言うと、氷織は笑顔で俺を見上げてくる。その姿がとても可愛くて、気付けば氷織にキスしていた。

 みんなが書いた短冊の写真を撮りたい、と火村さんが申し出たので俺達は許可を出す。すると、火村さんは6枚の短冊が1枚の写真に収まるよう上手に撮影した。

 火村さんからグループトークの方に、みんなの短冊が写った写真が送られる。短冊の色が全員違うので華やかな印象の写真になっている。

 どうか、みんなと俺の願いが叶いますように。そう思いつつ、写真の保存ボタンをタップした。

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